EP1.2
「イヴさんっ! イヴさんっ!」
150センチメートルほどの背丈の女の子がこちらへと駆け寄ってきた。艶やかな金髪のボブカット、翠色の大きな瞳に小さな唇。身体のラインが浮き出るぴったりとした紺色の制服を身に着けている。その華やかな見た目はこの殺伐とした現場においてすさまじく目立っており、周囲の男性捜査官は皆その姿を凝視している。
そのままの勢いで——イヴに抱きつこうとする。イヴはそれをひらりと回避した。しかし、なおも諦めずに突進してくるので、イヴは頭を掴んで押さえつける。
「うぐぐ……」
イヴはため息をついた。
「メア……前、抱きつくのはやめてって言ったよね」
メアは少し恥じらう様子を見せる。
そして、顔を赤らめたまま上目遣いでささやいた。
「やっぱり、人前だと恥ずかしい、ですよね……ごめんなさい」
ざわ、周りのざわつく声がイヴの耳に入る。
まったく、この助手は……。
「誤解を招くような発言はやめろと」
メアはイヴの発言を無視して、透明な瞳をうるうるさせる。
「……ずっと、寂しかったです」
「二日ぶりだけど」
「メアとイヴさんじゃ時間の流れが違うんです。ほら、そうたいせいなんちゃら~ってやつです。イヴさんとの物理的な距離が離れるだけメアの時計は遅れるんです。一時間は一日に、一日は一か月に……」
「その中途半端に信憑性がありそうな、いかがわしい科学知識はどこで身に着けた?」
メアは目をとろんとさせ、甘い声でささやく。
「イヴさんが、手取り足取り教えてくれたんじゃないですか。ね、せんせー」
「こんな出来の悪い生徒を取った覚えはないな」
「でも……よかった。こうやって再会できたのはきっと、ばんゆういんりょくのおかげです。メアとイヴさんから出る重力場が無意識に私たちを引き合わせた……」
イヴはため息をついた。
「一度、空から降ってきたリンゴの雨で頭を打って救急搬送されるといいよ。万有引力がどういうものなのか少しは身にしみてわかると思うから。偉大なる科学者ネアトンもそうやって重力の存在に気付いたと言われているし」
「昔の科学者はずいぶん身体を張った実験をしていたんですね」
「重力がどういった性質を持つのかを調べるために、ネアトンは高度十メートルから何度も落下したそうだ。その結果彼の両ひざは再起不能になったが、引き換えに万有引力の法則を導き出した」
「ホントですか?」
「もちろん嘘だよ」
「よかった~」
「メアもひょっとしたら頭を打った衝撃で男性との距離感を測る方程式を思いつくかもしれない。そしたらその異常に距離の近い言動が少しはマシになるんじゃないかな」
メアはきょとんとしてじっとイヴを見つめた。その瞳は純粋無垢っぽい色をしていた。
演技だ。イヴは身構える。メアはわざと甘えるような声を出す。
「……距離が近いのは、イヴさんに対してだけですよ」
「……」
イヴは面食らう。
「あれ、もしかして照れちゃってます? かわいい~」
「……あざとい」
イヴはあきれる。
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