EP1.1 『あの子』

「起きてください、イヴ」


 ハルメリア合衆国の特殊接続捜査官イヴ=フローレンは、家庭用アンドロイド・ミランダの声で目を覚ました。普段は時間ギリギリまで眠っているイヴだったが、今日はすぐさまベッドから出る。顔を洗い服を着替え、綺麗なグレーの髪の毛をセットする。その水晶のような青い瞳からは強い意志が滲んでいた。


 ……。


 ついに、この日が来たのか。


 ずっと待ちわびていたから、実感がわかない。


 手を洗ってから、洗面所を出た。からし色のコートを手に取り、イヴはすぐさま家を出る。からし色のコートなんていうオールドファッションは、今時誰も身に着けている人間はいなかったが、背が高く顔が小さいイヴはすんなりと着こなすので、ファッションに無頓着ゆえのその服装が、かえって様になっていた。

 イヴはオートヴィークルに乗り込み、視界の端っこに映る可愛らしい羽根をはやしたピンクのショートカットの世話役人工知能に告げる。


「トスワシア空港へ」

「はあい」


 AIが気だるげに答えると同時に、オートヴィークルは発進する。

 曇り空の大都市をすいすいと抜けていく間、イヴはレンズエアに映し出された乗客リストを一通り眺めた。

「……」

 船長一人、クルー七人、迫害から逃れるために搭乗した難民、好奇心旺盛な学者、医者、未来への技術継承として乗船したアルファ・ヒューマノイド。そして——スペースネクスト社の元CEOのアロン=ミスト氏とその家族。


 この全員が、死んだ。


 皆が未来への希望を胸に秘めた船が、宇宙を彷徨う棺桶となってしまった。

 当時の技術としては限界があったのか、それとも何か別の要因があったのか——。

 やれやれ、とイヴは首を振った。


 ——真相を明らかにするためには、かなり骨が折れそうだ。


 空港にたどり着いたイヴはレンズエアが指し示す方へと歩く。面倒な手続きはすべてAIがやってくれているので、そのまままっすぐジェット機へ乗り込んだ。

 普段なら助手のメアと共に現場へ向かっただろうが、今日は少し事情が違う。メアは別件でヒュウトスへ先に行っていた。


 だから、今回は、ひとり。


 それに、むしろ、ひとりのほうがありがたい。いろいろと、考えることがあったから。

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