第116話 放たれた矢①

 ロイがリゼルトス教会の総本山である法都「リゼリア」に到着したのは降誕祭イエファルの開催される五日前であった。

 そこでロイはすでに先に情報を集めているエルモース達と合流した。落ち合った場所は酒場である。


「ロイ、ここだ」


 エルモース達はニコニコとしながらロイを手招きする。


「エルモースさん、お久しぶりです。なんかいい儲け話はありませんかね?」


 ロイはにこやかにエルモースに話しかける。エルモースは商売の為にこのリゼリアに来ているということにしている。この時期、降誕祭イエファルのために商売人が集まると言うのは極々ありふれたことであり、商人に扮するのが最も効率的なのだ。

 実際に、エルモース達はリゼリアの商人達に挨拶をして、商売の話をしており、ザーフィング領の特産品である絹織物と毛織物をリゼリア商人達に売りつけておりそれなりの利益を上げている。


「エルケンさんとガイスさんもお久しぶりです」


 ロイは他の二人にも挨拶をする。


「おー久しぶりだな。ザーベイル王国の方はどんな感じだ?儲け話は転がってないか?」


 エルケンもニコニコとしながらロイに尋ねる。この辺りの会話は商人同士の語らいにしか見えない。


「そうそう、今度ザーフィング領にここで仕入れた陶器を売りに行きたいんだが、あっちの流行はどうだ?五年くらい前は白磁が流行していたんだが、現在はどんな感じだ」


 ガイスの問いかけにロイは申し訳なさそうな表情を浮かべ返答する。


「すいません、ザーフィング領は最近回っていないんですよ。ガルヴェイトは落ち着いてますから商売はしやすいんですけど、流行がどんどん変わるんです。半年前に流行っていたものが廃れてしまっていると言うのはよくある話なんですよ」

「そうか。うーん、白磁にするか青磁にするか迷ってるんだ。まぁ大きな損害を出さないようにはするんだがな。それでも最大限の利益を出したいんだよな」

「ガイスさん、相変わらず守銭奴ですね」


 ロイはそう言って笑う。ガイスもロイの頭を軽くこづいた。


「いてて、乱暴だな」


 ロイは頭をさすりながら言う。


「そんなに強く叩いてないだろ」


 ガイスの言葉にエルモースとエルケンもそうだそうだと言うような表情を浮かべてうんうんと頷いている。


「確かに忠告受け取りました・・・・・・・よ」


 ロイの言葉に三人はうんうんと頷く。


「それでロイはいつまでここにいるんだ?」

「そうですねぇ。やっぱり降誕祭イエファルの教皇様のスピーチは見ておきたいですね」

「するとあと五日…いや、いくら何でもその日のうちに出るわけはないから六日って感じか」

「そうなりますかね」

「そうか。なら、イエルゼン広場・・・・・・・の方に行ってみたらどうだ?相当な賑わいだから何を仕入れるかの掘り出し物が見つかるかもしれんぞ」


 エルモースの提案にロイは少し考え込む。


「そうそう、あそこに出てる屋台の牛串焼き美味いぞ。塩もいいがタレが絶品だな」

「へーエルケンさんがそこまで褒めるなんて珍しいですね。なんて屋台です?」

「名前は知らないが三色スミレ・・・・・の看板が目印だ」

「三色スミレ?牛串売ってるって言うくらいだからてっきり牛の絵かと思いましたけどね」

「ははは、髭面のおっさんで愛想は良くないけどさ。話のわかるおっさんだよ」

「うーん、明日行ってみて食べてみますね」


 ロイはそう言うと三人もニコニコしながら頷いた。


 ロイと三人はそのまま食事をとり、その日は解散となった。


 宿屋に戻ったロイは先ほどエルモース達から受け取った紙を開いて書かれている情報を確認する。ガイスが頭をこづいた時に反対側の手で渡されていたのである。こうすることで頭をこづくという行動がより大きいので手渡すという本来の目的が見過ごかされやすいのである

 


「えっと、演説中のファルガットの位置はここか。となると……ここから狙うのが一番確実だな。あとは明日、メルバーさんから警備情報をもらってっと」


 ロイは小さく呟く。もちろん誰かがこの部屋を伺っても声が聞こえることはない。大事をなそうと言うのだから細心の注意を払うのは当然であった。


 ロイは翌日、三色すみれの看板を出した屋台で牛串焼きを同僚・・のメルバーから購入する際に警備の情報を仕入れ、絶妙なポイントを選択する。


 そして降誕祭イエファルを迎えた。

 

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