第113話 狩りの時④
「書状を見せてみよ」
イルザムがそう言うと二人の兵士はイルザムの護衛の兵士に書状を全て手渡すと一礼して下がると再び跪いた。
(一体……何が書いてあるんだ?)
カーライルは他人事のような感覚でイルザムが書状を渡されるのを見ている。完全に思考停止の状態である。通常であれば真偽を問う発言を行うはずであるが、それを行うという選択肢が思いつかないのだ。最も真偽を問いただしたところでイルザムばかりかジオルグもいる状況で言い逃れる事など出来るはずもないのだが。実際に二人はカーライルが真偽を訴えた時のためにいくつか論破するための方法の準備をしていた。
「……」
イルザムが書状に目を通していく。何が書いてあるかこの場にいる全員の耳目がイルザムに集まってる。
(これは……ジオルグのやつ。さらに罪状を
イルザムは心の中でニヤリと嗤う。見つかった書状はもちろんジオルグとその配下の者が偽造した書状である。その辺りの事はアルゼイスもイルザムも把握していたが、内容がさらに踏み込んだものであった。
「セインハル……なるほど、貴様
イルザムの怒りの籠もった声にカーライルだけでなく聖職者達も身を震わせた。
「殿下、その書状には何と?」
イルザムの側に控えていた士官が恐る恐る尋ねる。イルザムの怒りの声に余程の事が書いてあるという事は即座に理解したが故のことである。
「読んでみろ」
イルザムは声をかけた士官に書状を手渡すと今度は士官が書状を読み始めた。
「こ、これは……教皇が陛下と殿下の
士官の発した暗殺という言葉に空気が凍った。聖職者達の顔色は既に死人と見分けがつかなくなるほどに悪くなり、兵士達は怒りの余りに熱した鉄のように真っ赤になっていた。
「ち、違う!! わ、私はそんな書状など知らない!! 教皇から何もそんな指示は受けていない!! 本当だ!!」
ここでやっとカーライルが叫ぶ。茫然自失としていたが自分達が置かれている状況が悪すぎる事に気づいたのだ。
「ふざけるな!!」
そこに兵士の一人がカーライルを殴りつけた。剣を抜き放ちイルザムを見る。
「殿下!! 処刑の許可を!!このような穢らわしき者、即刻首を刎ねるべきかと!!」
声をあげた兵士に呼応するように他の兵士達もそれぞれ武器を構えた。兵士達の殺意に聖職者達は恐怖のために失神する者、失禁する者などが出た程である。
「待て!!ここでこの者達を殺すことは許さぬ!!」
イルザムの言葉に兵士達は悔しそうな表情を浮かべた。王太子の命令に背くことは出来ない。
「この者共は教会の
「確かに……」
「よいかこの者共は取り調べを行う。自害など絶対にさせるな!!」
「はっ!!」
兵士達は敵意の過分に含まれた視線を聖職者達に向ける。
「おい、セインハル」
次いでイルザムはカーライルを見やる。その視線の冷たさに震え上がる。
「返事をせよ!!」
兵士がカーライルを殴りつける。
「は、はい」
苦痛と恐怖、そして屈辱の混ざった表情を浮かべながらイルザムの問いかけに返答する。
「お前は陛下と私の暗殺成功のあかつきに次期教皇の座と
「し、知らない!!」
「こいつ!!」
カーライルの返答に兵士達が再び怒りを明らかにする。
「待て」
イルザムの言葉に兵士達は再び止まった。
「ここで全てを明らかににする必要はない。必ずこの者共が何を企んでいたかを明らかにし、卿等いや、ガルヴェイトの民達に知らせることを約束する」
「はっ!!」
「警備の者達は教会の内部までは知るまいが、エアルドの密売に関わっている可能性もある。取り調べを行い、その結果無罪であれば釈放させれば良いし、
イルザムの言葉を聞いていた警護の者達は周囲を見渡すとそれぞれの表情で頷いた。
(警護の者達から助かるために聖職者達を売る者達も出てくるかもしれないな。結果として警護の者達の証言の
ジオルグは心の中でそう呟く。イルザムの言葉の意図をジオルグは正確に把握している。イルザムの言葉を聞いた警護の者達は自分達が釈放されるために色々と脚色した怪しい点を話すだろうし、ジオルグ達がそこに捏造した証言を入れても証言者の数が増えればそれが誰から発せられたかを特定するのは困難である。もしくは
「連れて行け!!」
イルザムの命令を受けた兵士達がカーライル達聖職者と警護の者達を連行していく。
そしてほぼ同時期に王都にある
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