第110話 狩りの時①
ロイが出立して十日後、ジオルグはアルゼイスに召集され王城へ向かう。
ジオルグが到着した時には、アルゼイス、イルザム、宰相フィジール公爵、護国卿レパレンダスが既に執務室に揃っていた。
「申し訳ございません。遅くなりました」
「気にする必要はない」
「ありがとうございます」
アルゼイスの返答にジオルグは一礼する。アルゼイスが周囲を見渡すと四人は居住まいを正した。それを見たアルゼイスは小さく頷く。
「首尾は?」
アルゼイスの発した言葉に四人は一斉に頷いた。
「準備は万全です」
イルザムが返答する。ここにいる四人はそれぞれ自分の役目を遂行するために準備を整えている。
イルザムの返答にアルゼイスは静かに頷く。
「そうか、ならばそろそろ
アルゼイスの冷たい声が四人の耳に響く。この時、リゼルトス教会の面々は破滅への扉が開いたのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「セ、セインハル枢機卿!!」
朝食を終えたばかりのカーライルの元に司教であるギームが駆け込んできた。その様子は明らかに恐怖に支配されたものであった。
「何事だ?」
カーライルはギームのただ事ではない様子に緊張しつつギームに尋ねた。カーライルの周囲にいる者達も同様にギームの言葉を固唾を呑んで待っている。
「イルザム王太子が軍を率いてここを取り囲んでおります!!」
「何だと!?」
ギームの言葉に驚いたのはカーライルだけではなくその場にいた全員であった。
「な、なぜ。王太子が教会に刃を向けるのだ!?」
カーライルは状況が理解出来ないとばかりに上ずった声で叫ぶ。だがこの場にいる誰もその問いに答えることは出来ない。彼らも同様に想定外の出来事であったからである。
「枢機卿、まずは王太子殿下に理由を」
「あ、あぁ…そうだな」
秘書の言葉にカーライルはようやくそれだけを返す。
カーライルが慌てて立ち上がりイルザムの元へと向かうと部下達もそれに続いた。
(一体何が起こっている?)
カーライルは戸惑いつつイルザムの元へと急ぐ。
途中で聖職者達が恐怖の表情を浮かべて慌てふためいているのが目に入る。
「おい、王太子殿下はどこにいる!?」
カーライルは聖職者にイルザムの場所を尋ねる。
「せ、正門前にございます」
上ずった声で問われた聖職者が返答する。イルザムの場所を聞いたカーライルは聖職者を放っておいて先を急ぐ。
正門で聖職者達がイルザムに何やら訴えており、対するイルザムの冷酷な表情にカーライルは背筋には氷水を注ぎ込まれたかのような感覚が走る。
「カーライル=セインハル枢機卿並びにリゼルトス教会の
イルザムのよく通る声が響き渡る。イルザムの言葉を聞いたカーライルの心臓は激しく跳ねた。
(な、何故それを!?)
イルザムの言葉が与えた衝撃はカーライル達の走りを鈍化させた。
「カーライル=セインハル枢機卿の地位を鑑みればリゼルトス教会がエアルドの密売に関わっているのは明白である!!」
次いで発せられたイルザムの言葉にカーライル達の足が止まる。
「ガルヴェイトの勇士達よ。答えよ!!正義はガルヴェイトか?それとも
『ガルヴェイト!!』
イルザムの言葉に兵士達が一斉にガルヴェイトの名を呼ぶ。その大音量は確かな圧力を持ってリゼルトス教会の者達に叩きつけられた。それ以上にイルザムがリゼルトス教会を名指しで犯罪組織呼ばわりしたという事実に戦慄が走る。
「そう、正義は我らガルヴェイトにある!!ガルヴェイトの勇士達よ!!私は王の名代としてこの場に立っている。我が言葉は王の言葉と心得よ!!私はガルヴェイトを穢す外道共を許すことはできん!!」
『応!!』
兵士達の返答にカーライル達はガチガチと歯を鳴らし始めた。その場にへたり込む者、逃げ出す者とそれぞれの行動を取り始める。
「彼の者共は聖職者などでは断じてない!!無辜の民にエアルドを撒き散らす悪魔共である!!」
『応!!』
「カーライル=セインハルを捕らえ私の前に連れてくるのだ!!彼の者には法の裁きを与えねばならぬ!!」
『応!!』
「悪魔共が抵抗するというのならば一切の容赦は不要!!地獄へと送り返してやれ!!」
『応!!』
兵士達の返答は回数を重ねる度に凶悪な熱を含んでいく。
「かかれ!!」
イルザムの命令が発せられた。
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