第107話 狩る者と狩られる者①
カーライル=セインハル枢機卿がガルヴェイトの王都である『イーファレイト』に到着するとそのままアルゼイス王への面会を希望する。
もちろん、カーライルは事前にアルゼイスに早馬を出し面会を希望する旨を告げている。アルゼイスとしても断る理由はなく、それを承諾した。
アルゼイスの執務室にカーライルが入る。
「よく来てくれた。ガルヴェイト王アルゼイスである」
アルゼイスはカーライルに重々しい口調で言い放った。アルゼイスの口調にカーライルだけでなくお付きの者達もゴクリと喉を鳴らした。アルゼイスの放つ威圧感は相当なものであり、カーライル達は気圧されてしまったのである。
「カーライル=セインハルにございます。お目にかかれて光栄でございます」
カーライルはそう言うと恭しい態度で一礼する。
「うむ、してリゼルトス教会の俊才として名高い枢機卿が
アルゼイスはカーライルへと尋ねる。その様子には全ての事情を知っているとは微塵も気づかせないほどである。
(さすがは陛下だ。セインハル達は気づいていないようだな)
ジオルグは心の中でそう呟いた。現在ガルヴェイト側でこの場に立ち会っているのは、アルゼイス、イルザム、ジオルグに加え宰相であるフィジール公爵、護国卿レパレンダスの五人である。
フィジールとレパレンダスの二人はすでにアルゼイスからカーライルが何をしたか。そしてアルゼイスが何をしようとしているかの説明を受けている。
フィジールもレパレンダスもアルゼイスの目的に賛同しており、カーライル達が敵地のど真ん中にいて狩られる存在である事を認識しているのである。
「はっ、実はカーヴァー=ローキンス大司教以下司教のクライヴを初めとした十二名の聖職者がこのガルヴェイトにおいて行方不明となっております」
「ふむ、ローキンス大司教達が行方不明になっているという話を余も聞き及んでおる」
「ご存じでございましたか」
「大司教達が行方不明ともなれば民心も動揺する故、我らの方でも行方を追っておってな。関係部署は必死に大司教達を捜索しているが行方をまだ掴んではおらぬ」
アルゼイスの言葉にカーライルは恭しく一礼する。
「アルゼイス王のお心遣い誠に感謝いたします。今回、我々がガルヴェイトに派遣されたのは、行方不明となったローキンス大司教達の捜索の指揮を執るためでございます」
「ほう、教会も独自に動くと言うことか?」
「はい、教皇猊下は私にローキンス達を必ず見つけるようにと厳命されました。つきましては我らがガルヴェイトの地で捜索を行う事の許可と協力を要請したいと思っております。こちらが教皇猊下のアルゼイス王への依頼文書にございます」
カーライルはそう言うと部下に持たせていた教皇の書簡を差し出すと、ジオルグが恭しく受け取りアルゼイスへと一礼して手渡した。本来であれば侯爵であるジオルグが行う事ではないのだが、
受け取ったアルゼイスは書簡を開いて目を通していく。その様子を全員が伺う。
「ふむ、承知した。ガルヴェイトとしてもローキンス大司教達の身を案じてはいる。協力を惜しむつもりはない」
「感謝いたします」
アルゼイスの返答にカーライルは恭しく感謝の言を述べる。
「ザーフィング侯」
「はっ」
「ローキンス大司教の行方の捜索であるがセインハル枢機卿と共にこれを行い、解決に尽力せよ」
「承りました」
アルゼイスの命令をジオルグは恭しく受ける。ローキンス達を拉致した本人に捜索を任せるのはカーライル達への嘲りであるが、ガルヴェイトにいる以上、逃れることは出来ないためのいわば余裕である。
「ザーフィング侯の請け負っておった
「承りました」
続いてレパレンダスが恭しくアルゼイスの命令を受ける。エアルドという言葉を聞いた時にカーライル達の間に僅かばかり動揺が走る。
(なるほど……
ジオルグはカーライル達の動揺を感じ取ると心の中でニヤリと嗤う。エアルドと言う言葉に僅かながら動揺を示している事にジオルグだけでなくガルヴェイト側はもちろん気づいている。
「セインハル枢機卿」
「はっ」
「ザーフィング侯は若いが精力的に職務に取り組む。最近ではエアルドという悪魔のような薬物の摘発の責任者であった。その際に得た人脈を駆使すればひょっとしてローキンス大司教の捜索に一役買えると思うてな」
「……ご配慮感謝いたします」
カーライルは僅かばかりの間を置いて感謝の言葉を述べた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カーライル達が退出した後、ガルヴェイト側の五人はそのまま打ち合わせを行う。
「護国卿、エアルドの摘発にこれ以上に手を入れよ。購入ルートで必ずセインハル共へと到達するようにせよ。その際に手段は選ぶ必要はない。エアルドなどと言う危険極まる薬物を流通させようとしている者などに慈悲など不要だ」
「御意」
アルゼイスの冷酷な命令をレパレンダスは躊躇いもなく受ける。護国卿という立場である以上、非常な命令を下されることも下す事も覚悟の上である。
「王太子は宰相と共に
「はっ」
「仰せのままに」
次いでアルゼイスはイルザムとフィジールに命令を下すと二人は恭しく返答する。二人が携わっている例の件とは
「ザーフィング侯はローキンス達の情報を適当に
「御意」
アルゼイスの命令にジオルグもまた恭しく答える。
「よいか、彼の者共に慈悲など不要だ。彼の恥知らず共をガルヴェイトから生かして返すな。これは王命である」
アルゼイスの言葉に四人は直立して一礼した。
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