第105話 三人の怪物

「陛下、王太子殿下、予想もしていなかった事が起こりました」


 ジオルグが朝一番にアルゼイスとイルザムへと奏上する。


「ほう、卿のその様子を見ると良い知らせのようだな」


 アルゼイスがジオルグの様子からそう言うとジオルグは一礼してアルゼイスの言葉を肯定する。


「カーライル=セインハルがガルヴェイトへとやってきます」

「何?」

「ザーフィング侯、確かなのか?」


 ジオルグの言葉にアルゼイスとイルザムは明らかに驚いていた。それだけ、カーライルがガルヴェイトに来るというのは予想外のことであったのだ。


「確かでございます。現在、ガルヴェイトの国境付近とのことにございます」

「まさか、このような幸運・・が舞い込んでくるとは」


 イルザムの言葉にジオルグもアルゼイスも静かに頷いた。


「王太子殿下のお言葉の通りです、このような都合・・の良い事が起きるとは思ってもみませんでした」

「罠の可能性は?」


 アルゼイスの言葉にジオルグはしばし考える。


「もちろん、罠の可能性を払拭する事は完全には出来ません」


 アルゼイスの問いかけにジオルグはそう返納する。罠の可能性は否定できないが、この好機を逃す手はないのも事実である。


「ザーフィング侯、卿はこの時期・・・・に何故セインハルが来ると思う?ローキンスが心配なために志願したなどという理由のはずはない。教皇の座とローキンスなど比べることすらセインハルにとってあり得んことであろうしな」


 イルザムの問いかけにジオルグはしばし考え込む。


(確かに降誕祭イエファルは約一月……そのような時期にセインハルがガルヴェイトに自分の意思で来るはずはない。他の枢機卿達からでもセインハルが動くわけはない……ならばイヴァルク4世の命令と考えるべきだ…ではなぜイヴァルク4世はセインハルをガルヴェイトへ派遣する…もしかしたら)


 ジオルグは一つの考えに思い至る。


「次期教皇の座をめぐっての権力争い……でしょうか」


 ジオルグの出した答えにアルゼイスもイルザムも納得の表情を浮かべる。どうやら不タチもジオルグと同様の結論に達したらしい。


「うむ、やはりそう考えるか」

「ということは父上も……ですか?」

「うむ、もしくは深い意味などないやも知れぬな」


 アルゼイスの発言にジオルグとイルザムは困惑したような表情を浮かべる。この時期に枢機卿を他国に派遣することに何の意味も無いことなどあるのかという疑問が当然のごとく二人の心にわき起こる。


「余は教皇について二人よりは知っておる。あの者は物事を深く考えないところがあるのよ。まぁごっこ遊び・・・・・程度の認識のアホウとととらえている我らとでは認識に違いがあるのは至極当然のこと」


 アルゼイスの言葉にジオルグもイルザムも静かに頷く。


(陛下の言う通りだ。教会の連中は自分達のだけの争いしか想定していない。外部からの攻撃など微塵も考えていない……)


「申し訳ございません。どうもあまりにも都合が良すぎたために考えすぎていたようでございます」


 ジオルグの言葉にアルゼイスは一つ頷く。


「そうだな。教会の者共は素人・・であった……ザーフィング侯と同様に私も奴等を見誤っていたな」


 イルザムも同様に苦笑交じりに言う。


「さて、ザーフィング侯」

「はっ」

「セインハルがガルヴェイトに来ることになったが、ファルガットを消すという余の意思は変わらぬ」

「御意」


 ジオルグの返答にアルゼイスは頷く。


「セインハルは降誕祭イエファルの直前に逮捕され、ファルガット暗殺の証拠が出ることになる。セインハルの筆跡・・が必要か?」


 イルザムの言葉にジオルグは嗤う。イルザムの言葉はの指令書を偽造する事を示しているのだ。


「はい。セインハルがあちら・・・にいるとの前提で物事を考えておりました故、偽造を行うつもりはなかったのですが、必要になったようでございます」

「そうか。他に誰の筆跡が必要だ?」

「やはり『スペンサー=レイフリス』、『セス=ゴルトー』『タージー=マクラス』の三人の筆跡があれば」

「わかったすぐに用意させる」


 ジオルグがあげた三人はローキンスの挙げた枢機卿の名である。


「イヴァルクのもであろう?」


 そこにアルゼイスが言う。アルゼイスの言葉に二人は頷いた。


(果たして……幹は持つのか?)


 ジオルグは心の中でそう呟く。


 教会の上層部達は三人の怪物に狙われていることをまだ知らない。

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