第103話 殺す理由
ザーフィング邸に戻ったジオルグは執務室に入るとすぐにロイを呼んだ。すぐにロイは執務室へやってくるとジオルグに一礼する。
「ロイ、仕事だ」
「何なりと」
ジオルグの言葉にロイはニヤリとした笑うと不敵な返答を行う。
「レイヴァ=ファルガットを消すことになった。ロイお前に任せたい」
「承りました」
殺人の依頼であるがロイは躊躇いなく承諾する。ロイにとってジオルグの命令を断るなどと言う選択肢は元々存在しないのだ。もちろん葛藤が無いというわけではないが、今回のジオルグからの標的の名がリゼルトス教会である事を考えれば躊躇などするはずがないのだ。
エアルドが出回り始めた頃にジオルグの命令で調査を行った結果、カーライル=セインハル枢機卿が元締めである事を知り、加えてリゼルトス教会を調査し内情を知った結果、敬意など微塵もなくなってしまった。
信者からの搾取、孤児院での性加害、人身売買などを目の当たりにすれば敬意など吹き飛んでしまうのは当然であり、調査に参加した者達で教会に好意を持つ者など一人も存在しない。リゼルトス教会という組織は想像以上に腐っていたのである。
「それでジオルグ様、
ロイの軽快な口調にジオルグも苦笑してしまう。口調は軽快であるのだがその内容は物騒極まりないものだ。
「だからこぞ、お前を指名したのだ」
「おりょ?その言葉だと……他にも消して欲しいやつがいるんですね」
「ああ、ルウェリン=シーヴ大司教とロディヌ=マーキィ司教だ」
「ファルガットの手下ですね」
ロイは限り無い軽蔑の念を込めて言い放った。ルウェリン=シーヴ大司教はレイヴァの懐刀と言われるような人物であり、レイヴァの手足となって汚い仕事を数多く請け負ってきた人物である。そして、ロディヌ=マーキィ司教は孤児院で保護している孤児立てを人身売買で貴族などに売りつけるという人身売買の実行犯であった。
「ああ、約一ヶ月後に
「はい。わかりました。ところで…ジオルグ様、確認しておきたいことがあるのですが」
「お前には悪いが今回はエルモース達にやらせる」
「えーー!!それはないですよ」
ジオルグの言葉を聞いたロイは露骨に残念そうな顔を表情を浮かべた。その真にせまった表情と声にジオルグもついつい笑ってしまう。
ロイがやりたかった仕事とは情報工作である。この情報工作は都市の至る所で行われるが、特に行われるところは、いわゆる歓楽街である。要するにロイは歓楽街で遊びたいと言っていたのである。
「今回は諦めろ。この案件が片付いたら長期休暇をやるからそこで発散と言うことにしておけ」
「はーい、まぁジオルグ様がそうおっしゃるなら従いますよ」
「ふ」
ロイの返答にまたもジオルグは笑う。ロイと同年代と言うこともあるが、ジオルグはこういうロイとの会話を結構愉しんでいるのだ。殺伐とした仕事に触れる事が多いジオルグにとって他愛の無いロイとの会話は精神の均衡を保つ上で必要不可欠な事の一つである。
「あ、そうそう。それではもう一つ質問があるんですけどよろしいですか?」
ロイが少しばかり畏まってジオルグに尋ねる。
「なんだ?」
「情報工作の内容を教えてくれませんか。それによってやるべき事、してはならないことが変わってきますので」
「ロイの言うとおりだな」
ジオルグは即答すると質問に答え始めた。
「今回の情報工作は、『ファルガットの暗殺の黒幕はイヴァルク4世とセインハルである』というものだ」
「つまり、今回の件は教皇派の弱体化が目的というわけですね」
「そういうことだ」
ロイの言葉にジオルグは頷く。
アルゼイスがファルガットの殺害を命じたのは、セインハルを排除する事で教皇派が教会内で強くなりすぎると
「陛下も怖いですがジオルグ様も本当に怖いですよ」
「そうか?」
「ええ、わざわざ政敵であるセインハルと手を組んでまで、自派閥のファルガットを始末したともなれば教皇派の面々は動揺するし、いつ自分が次のファルガットになるかと疑心暗鬼になるんでしょうな」
「そういうことだ」
「そして、枢機卿だけでなく大司教や司教も殺すことで幅広く動揺を与えるというわけですよね?」
ロイの言葉にジオルグは苦笑しながら頷く。
「そして、もう一つある」
「え?」
ジオルグの言葉にロイは意表を突かれた表情を浮かべた。
「今回始末する三人を選んだのは私がこの三人を気に入らないからだ」
「気に入らない……ですか?」
「ロイ、お前も三人が何をやったか知っているはずだ。そのような者共を生かしておくつもりはない」
「なるほど、それは読めませんでした」
ロイはそう言って笑う。そして、ロイはジオルグがなぜ自分に今回三人を始末するように命じた理由を完全に理解した。
ジオルグは三人が行った悪行の犠牲になった
もちろん、冷酷な策謀家な面として三人を消すように命じたのは確かであるが、それに加えて孤児達の無念をはらすというのもジオルグの理由の一つなのだ。
(冷酷なのにどこか人情に厚いんだよな)
ロイは心の中でそう主を評しつつ一礼した。
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