第99話 尋問は過激に容赦なく②

 ジオルグの言葉にローキンス達は凍り付いた。いや、正確に言えば言葉ではなく放たれる明確な殺意により凍り付いてしまったというのがより正しいだろう。


「カイン、ロイ、ローキンスを出せ」

「「はっ!!」」


 ガチャガチャ……


 ジオルグの命令を受けた二人は即座に動くと牢を開けて中からローキンスを引っ張り出した。


「ひ、止めろ!! 私を誰だと思っている!!」


 牢から引っ張り出されたローキンスはジオルグに向けて言うが、声に恐怖の感情が含まれているのは丸わかりである。

 カインとロイはローキンスの言葉に苦笑をうかべた。ジオルグの次の行動が予想できたからである。


「アホウが」


 ジオルグはそう吐き捨てるとローキンスの左手を床に貼り付けると手にしたナイフでローキンスの左手を刺し貫いた。


「ぎゃああああああああ!!」


 凄まじい痛み似た得かねたローキンス絶叫を放つ。かつてローキンスは部下を鞭打ちして放たれる絶叫を愉しんでいた事があったが、どうやら自分の感じる痛みには弱いようである。


「質問の答え以外話すなと言ったろう?」


 ジオルグはローキンスの頭を掴むと顔を上げさせると容赦なく殴打した。


 バギィ!!


 殴打の音が地下牢に鳴り響いた。


「ひぃ!お、お許しください!」


 ローキンスはジオルグに命乞いを始めるがジオルグはその命乞いに全く心動かされた様子はなく。もう一本のナイフを抜き放つと床に縫い付けていた左手に振るうと親指を残して四本が落ちる。


「ぎゃあああああああああ!!」


 再びローキンスの絶叫が響き渡った。ジオルグは絶叫を放つローキンスの口にナイフを差し込んだ。


「あ、が……」

「少しは学習しろ。私はお前らに質問の答え以外発言するなと命じた・・・のだぞ」


 ジオルグの言葉に流石にローキンスは発言を控える。


「さて、お前は教皇イヴァルク4世・・・・・・・・・の命を受けてエアルドをガルヴェイトにばらまいた。そうだな?」


 ジオルグの言葉にローキンスは目を見開き首を横に振った。これはまったく真実と異なっておりローキンスの反応は当然であった。ローキンスはカーライルの命令で動いており、カーライルも教皇の命令など受けていないのである。


「ふ……」


 ジオルグは口に突っ込んだナイフを容赦なく振るうとローキンスの左頬が斬り裂かれた。凄まじい苦痛がローキンスを襲ったが、下手に声にすれば容赦なくジオルグに再び折檻される事くらいは理解していたので必死に堪える。


「ローキンス…もう一度聞くぞ。お前はイヴァルク4世の命を受けてエアルドをガルヴェイトにばらまいた。そうだな?」


 ジオルグの再びの言葉にローキンスは大量の脂汗を流しながら動くことができない。何しろ本当に違うから頷くことが出来ないのだ。


「お前は私の望む・・発言をできないのか?」


 ジオルグの言葉を聞いたローキンスはジオルグの言葉の意図に気づいた。


(この男は最初から真実を話す事など求めていない。自分に都合の良い証言を得ることでリゼルトス教会に打撃を与えるつもりだ)


 ローキンスはそう判断すると目の前のジオルグがとてつもない化け物に見えてきた。


 ローキンスの考察は大方正しいが、ジオルグの考えはもっと悪辣であった。ジオルグにとってローキンスの証言などいくらでも捏造できる以上、必要などないのである。ジオルグが必要以上にローキンスを痛めつけているのはジオルグへの恐怖をローキンス一派に刻み込むためである。

 ジオルグはローキンス一派を助けるつもりなど微塵もない。むごたらしい最後を遂げさせるつもりであるが、そのためには恐怖で縛る必要があるのである。


「言葉を発することができないようだな。もう片方も斬り裂けば私の望む言葉が聞けそうだ」


 ジオルグのは冷たく言い放つとローキンスの顔色は土気色になった。


「は、はい!!私は教皇猊下の命令でエアルドをガルヴェイトで密売しております」


 ローキンスはもはや恥も外聞もなく叫んだ。死の恐怖から逃れるためジオルグの言葉を否定することはできなかったのだ。ローキンスには確信があった。その確信とは自分が口をつぐんだところで部下達にその役目を負わせるだけであることが理屈抜きに分かってしまったのだ。


「そうか。お前は教皇の命を受けたカーライル=セインハル枢機卿の部下であり、セインハルもエアルド密売に関わっている。そうだな?」

「は、はい……その通りでございます」

「他の枢機卿もこの件に関係しているのだな?」

「は、はい」

「その枢機卿の名は考えておけ・・・・・。数はセインハル以外に3人・・だ」

「ひ…わ、わかりました」


 ローキンスが力なくうなだれる様子を見て、ジオルグはカインとロイに向けて言う。


「ローキンスの部下のうちこちらの意図通りに動きそうなやつ以外は始末しろ。残す人間はお前達が決めて良い」

「はっ」

「さて、どいつがジオルグ様の駒として最適かな」


 ロイとカインはジオルグのとんでもない命令に異を唱えることなくローキンスの部下達を一瞥する。


「ひ…」

「ま、待ってくれ!!」

「お、俺は役に立つ!!どんな証言だってする!!」

「俺だってどんな証言だってする!!た、助けてくれ!!」


 ローキンス達の部下達はいっせいに命乞いを始めた。ジオルグの言葉は脅しでも何でもなく本当に自分達が選別される・・・・・立場である事が分かってしまったのだ。


「えーと、こいつとこいつは役に立ちそうもないな。カインさんはどう思います?」

「確かにそうだな。私はこいつはいらんと思う。ロイはどうだ?」

「うーん、確かにそいつも仕事できそうになさそうですね」


 カインとロイが選んだ男達は腰を抜かしてへたり込んでしまった。その様子を見て何人かの男達がホッとした表情を浮かべた。


「二人ともご苦労。始末するのは後ろから二番目とその右隣、前の二人だ」

「はい」

「さて、さっさとってしまいましょうかね」


 ジオルグの命令を受けた二人が指摘された人物を見ると顔を青くして命乞いの言葉を吐き出そうとするが、それよりも早くロイとカインは動く。


 二人は前の二人をすれ違いざまに抜き放ったナイフで背中の刺し貫いた。ナイフの先には腎臓があり、二人のナイフは腎臓を貫いたのだ。腎臓は血液が多く集まる内臓であり、そこを斬り裂けばあっさりと失血死するのは確実だ。二人はそのまま残りの二人の背後に回り込むと延髄へナイフを突き立てた。


「選別も終わってない段階で気を抜くような間抜けなど必要ない」


 ジオルグの冷酷極まる言葉に一同は震え上がった。仲間が殺された事に哀しみの気持ちもわかない。ただひたすらジオルグという男の冷酷さが恐ろしくて仕方がない。


「さて、後は……」


 ジオルグは腰を抜かしている娼婦達四人へと視線を向けた。


「ひ…」


 ジオルグの視線を受けた娼婦達はガタガタと震え出した。


「お前達はただ仕事をしていただけであり、お前達はエアルドの密売に関わってはいないだろうな?」


 ジオルグの言葉に娼婦達はコクコクと頷いた。


「そうか、ならば危害を加える必要はないな。但し今の返答がウソであった場合は分かっているな?」


 ジオルグの問いかけに娼婦達は再びコクコクと頷いた。娼婦達もまたジオルグの問いかけの意味をきちんと把握していたのである。ローキンスのような大司教を躊躇なく、かつ容赦を一際せずに痛めつける様を見れば自分達がどう扱われるかだれでもわかるというものだ。


「事が済むまではお前達は当屋敷にいてもらう。もちろん外部との連絡は一切断たせるが衣食住は保障しよう」


 ジオルグから出された条件に娼婦達はひたすら頷くだけだ。


「二ヶ月ほどで決着はつく。そうすればお前達を解放するし、その間の日当も支払うことを約束しよう。もしお前達に家族がいるのならその間は私が面倒を見るから安心しろ」


 ジオルグからのあまりの好条件に娼婦達は顔を見合わせた。


「あ、あの……貴族様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 二十代半ばの娼婦がおずおずと手を上げる。


「許す。言ってみろ」

「は、はい。ありがとうございます。なぜそこまでの好条件を私達に?」

「簡単だ。お前達を始末するよりも懐柔した方が手っ取り早いからだ。もし私の敵に回るというのならばお前達はもちろん家族、友人達も始末する」

「ひ…」


 ジオルグの返答に娼婦はガチガチと歯を鳴らした。


「私はお前達を殺さないのであって殺せない・・・・わけではないことを理解したようだな」

「は、はい」


 娼婦の返答にジオルグは満足したようであった。その様子に娼婦達は安堵の表情を浮かべた、


「カイン、この淑女達をザーフィング邸に案内しろ。客人である」

「御意」

「ロイは面倒だがローキンスの手当をしてやれ、まだ・・使い途があるからな」

「わかりました」


 ジオルグのこの指示でローキンス達の尋問は終わりを告げた。

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