第98話 尋問は過激に容赦なく①
カインの指揮する実行部隊によって取引の教会にいた者達は一人の例外もなくザーフィング邸へと運び込まれていた。
内訳は主目的のローキンス大司教、現場となった教会責任者の司教であるクライヴを始めとした部下十二名、そして娼婦が四名の計総勢十七名である。
十七名はザーフィング邸の地下牢に運び込まれそこで尋問を受けることになるのだ。
意識を取り戻したローキンス達一行は自分たちの置かれている状況が理解できずに喚き散らしているが、その喚きに応じるものは誰もいなかった。
これはジオルグの指示であり、その目的は情報の遮断を行うことで今後の不安を煽り正常な判断をできないようにするためである。
ローキンス達が静かになるまで一時間の時間がかかったが、その間完全に無視されることになったのである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「皆よくやってくれた。皆の活躍のおかげでガルヴェイトの者達を食い物にしているクズ共を根絶やしにすることができる。家族に告げることも友人達に告げることも、無辜の者達にその功績を知らせるわけにはいかぬし、皆から称賛を受けることもできない。だが、せめて私からは皆を称賛させてくれ」
ジオルグはカインを始めとした実行部隊の面々に直接労いの言葉をかける。ジオルグはこうやって直接配下の者達に対して直接労いの言葉をかける。もちろん、報酬をきちんと支払った上である。
ジオルグにとって危険な仕事を高い水準でこなす配下の者達への能力や仕事に対して報酬を支払うの大前提であるし、そこに敬意を示すのも当然なのだ。
配下の者達からすればいわゆる汚れ仕事をやる自分たちが蔑みの対象となることをいたいほどわかっている。だが、それを苦とも思わないのは自分たちの頭領であり、侯爵という雲の上の身分の者が自分たちに敬意を示すという事が自分たちにとって誉なのである。自分たちの仕事は称賛を受けるものではない。だがわかってくれる人がいるのだ。それが汚れ仕事を行う自分たちをどれほど支えてくれることか。
「皆、よく休んでくれ。次の仕事ではまた皆の力を借りる」
『はっ!!』
ジオルグはそう話を締めくくると実行部隊の者達は一斉に頭を下げた。
労いの言葉を受けた一同は解散し、ジオルグはカインとロイにより細かい報告を受けるために執務室へと移動する。
「カイン、ご苦労だった。そしてロイには空振りさせてしまったな」
ジオルグは執務室の席に座るとカインとロイへそう言葉をかける。
ロイは取引の監視を行う者を捕えるために備えていたのだが、取引を監視するものは存在しなかったので出番が一切なかったのだ。
「ええ、ローキンスって危機意識が足りないですよね。取引失敗した場合の備えをしないなんてちょっと理解不能なんですよ。ブラガンさん達も絞め落とされ損でしたね」
ロイの声はため息混じりである。アルガスにつけていた部下達も一緒に絞め落としたのは監視者がいた場合、ジオルグの存在をアルガス側から辿られる事を防ぐためであったのだが無駄になってしまったのだ。
意識を取り戻したブラガン達も無意味であったことを知って苦笑いをしてたくらいである。
「大司教という地位と教会の権威を背景にすぐに釈放されるとでも思っていたんだろうな。だが、今回はただの捕縛ではなく屋形様の行った捕縛だ」
「あー確かにそうですね。普通はジオルグ様のようなおっかない人を想定しないものなぁ」
ロイの納得したような言葉にジオルグもカインもついつい苦笑してしまう。上位者であるジオルグに対して侮るような言葉であるが、その声にはジオルグに対する敬意が過分に含まれているので苦笑してしまうのである。
「さて、そのおっかない私がローキンス達の尋問を行うわけだが、二人ともわかっているな?」
ジオルグの言葉にカインとロイは背筋を伸ばす。ジオルグの『わかっているな』という言葉はジオルグの尋問の苛烈さを示しているのだ。
「口は十三……二、三減ったところで
ジオルグの言葉にカインとロイは静かに頷いた。
「さて、娼婦がいるという話だな」
「はい。四人いました。いかがいたします?」
「危害を加えるようなことはしない。だが、脅しておく必要はある」
「となると同席させるというわけですね。同情しますよ。夢にうなされないといいですけどね」
ロイの言葉にジオルグは小さく笑う。
「それは無理だな。むしろ夢にうなされるくらいでなければ
ジオルグの返答は冷酷そのものである。その冷酷さをロイもカインも当然のごとく受け入れている。
「娼婦達が賢ければ問題ないのですけどね」
「そうあって欲しいものだ」
ジオルグの返答にカインも同意とばかりに頷いた。
「さて、それではローキンスの阿呆共に現実というものを教えに行くとするか。まずは
ジオルグはそう呟くと立ち上がるとローキンス達のいる地下牢へと向かう。ジオルグに付き従うようにカイン、ロイがそれに続いた。
「どうだ?」
「はい、屋形様の指示通りに放置しておいたら十分ほど前に疲れたのか喚かなくなりました」
「そうか。それでは鍵を開けろ」
「はい」
牢番の男がジオルグの命令に従い鍵を開ける。鍵が開いたのを確認したジオルグは扉を開けて地下牢へと入っていく。
コツコツ……
ジメジメとした空気にジオルグ達の靴音が響く。
「ここからだせ!!」
「私を誰だと思っている!!」
「このようなことをして神罰が落ちるぞ!!」
ジオルグ達の足音に気づいた。ローキンス達は再び喚き始めた。そしてジオルグがローキンス一行の前に立つ。
「お前達に命ずる……私の質問以外の返答以外の言葉を口にするな」
ジオルグの冷たい言葉に一瞬全員が黙るが、それも一瞬のことであり、再び喚き出した。
「ふざけるな!!お前はこの方をどなたと思っているのだ!!カーヴァー=ローキンス大司教だぞ!!それを貴様のような小僧が!!身の程をわきまえよ!!」
格子を両手で掴みジオルグに怒鳴りつけるのは司教であるクライヴであった。そしてそれが彼の命の終焉をもたらす行為であった事に彼は気づくことはなかった。
ジオルグは格子の向こうのクライヴの胸ぐらを掴むと容赦なく引っ張ると格子にクライヴはぶつかった。ジオルグの右手にはいつ間にかナイフが握られており、何の躊躇もなくクライヴの胸へと突き立てた。
この動きは限り無く流麗かつ気配を一切発していないこともあり、ローキンス達の中にジオルグの動きに気づいた者はいなかった。
「へ……」
クライヴの口から胸部に発した瞬間的な熱……そしてその後に訪れた強烈な痛みに苦痛の声を上げようとした。
ドスドス……
そして続けて腹部に感じた二回の衝撃をクライヴは受けると、力が抜けてその場に崩れ落ちた。ジオルグは胸部に突き刺したナイフを即座に抜き去ると腹部に二回突き立てたのだ。
ジオルグは崩れ落ちたクライヴの頭を掴むと延髄にナイフを突き刺す。延髄を刺されたクライヴはビクンビクンと痙攣し、その痙攣はすぐに止まった。それはクライヴの死を意味しており、そのことに思い至った面々は思考が停止してしまう。
わずか五秒も経っていない。この時間でジオルグはクライヴの人生を終わらせたのである。しかも一切の殺気を放つこともせずにである。
「質問の返答以外のことを口にするなと命じたはずだ」
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