第96話 取引①
ジオルグがアルガスにエアルドの取引を命じてから一ヶ月が過ぎようという頃にローキンスから取引の話がアルガスの元へと舞い込んできた。
カルマイス家の財政状況は凄まじく悪い。それというのも家人としてジオルグが送り込んでいたブレントに資金を持ち逃げさせていたのだ。同時に窮状に喘ぐという状況を作り上げるとローキンス大司教へその噂が届くように仕向けた。
この噂にローキンスが飛びついてきたのである。
摘発を強化し、ガルヴェイトからの収益が下がっていたことに対して危機感を持っていたローキンスとすれば販路を広げるためにも貴族との取引を望んでいたのである。そこに格好のエサにローキンスは食いついてきたのだ。
「罠ではないですか?」
ロイがジオルグにそう問いかけたのも当然である。ジオルグにすればいくら何でも一回目にローキンスが現れるという事など想定していなかったし、ジオルグ自身も罠の可能性を考慮したくらいである。
「その可能性は否定できないが、この機会を逃すのもアホウのすることだ」
「ええ、その通りです」
「カイン、お前が捕縛の指揮をとれ。一人も逃がさぬようにな」
「はっ!!お任せください」
ジオルグの命令を受けたカインは覇気の籠もった声で返答すると一礼する。
「ロイ、お前は取引を監視する連中がいた場合、そいつ等を捕らえろ」
「はい!!」
継いでジオルグはロイに命令を下す。ロイもまた覇気の籠もった声で返答した。
「カイン、私がお前に指揮を取らせる理由は分かっているな?」
「
「さすがだな。カインにはいらぬ確認であったな」
「とんでもございません。屋形様のご期待に応えて見せます」
「頼む」
ジオルグはそう言って自嘲気味に笑った。カインの能力を高く評価しているがそれでも意思確認をしてしまう自分の臆病さに自嘲してしまったのだ。
「ジオルグ様、アルガスはこの際始末しますか?」
そこにロイが中々苛烈な提案をしてきた。ジオルグはロイの提案に苦笑すると首を横に振る。現時点でアルガスを殺す利点が何もない以上、殺すつもりはないのである。
「いや、やつは生き証人だ。ここで始末するつもりはない」
「了解しました。ということは拉致の方向でよろしいですか?」
「ああ、ローキンス一派と一緒に捕縛することで、相手は疑心暗鬼に陥る。アルガスも一緒に行方不明になれば官憲による捕縛と断定することが出来なくなるからな」
「なるほど、カインさんが指揮を任せられるわけだ」
ジオルグの言葉を受けてロイは納得いったようであった。単に捕らえるだけならばロイでも可能であるが、カインの指揮能力ならば目撃者も出ないレベルで捕縛することができることをロイは確信している。
「さて、三日後か……ローキンス大司教
ジオルグの言葉にロイとカインは深々と一礼をした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(……上手くいくだろうか)
アルガスは指定された取引場所にやってきた。随伴者は四名、その四人はジオルグがカルマイス家に潜り込ませている者達である。
(こいつらは私の護衛ではない…私の命などよりローキンス達を捕縛することを優先するのだろうな)
アルガスは心の中でそう自嘲していた。四人が
ローキンスが取引場所に指定したのはガルヴェイト王国の王都『イーファレイト』にある教会の一つであったのだ。アルガス達は教会の扉を開き礼拝堂の中を歩く。
「まさか…教会が取引場所とはな」
アルガスの皮肉めいた言葉に四人の随伴者達は反応を示さない。これは意図的に無視したと言うよりも周辺の状況の確認に注意を払っていたからであった。
(カインは既に配置についているな)
(ああ、気配を上手く消している)
四人の
「子爵様、本当に教会なんですか?」
「さすがにエアルドの密売に手を出すのは…」
そこで
「これしかないのだ…」
対するアルガスの声もとても演技とは思えないほどである。それもそのはずで、アルガスとしてはジオルグからの仕事に対する返答と言うこともあり、まごう事なき本音でしかないからだ。
「待たせたな」
そこにアルガス達に声がかけられた。
教会関係者が礼拝の際に使う扉からローキンス達が姿を見せた。
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