第94話 密命②
「エアルドを…」
ジオルグの命令にアルガスの言葉は流石に固い。エアルドに限らず麻薬をガルヴェイトに流通させれば例外なく死刑となるのである。しかも最も不名誉な扱いを受けることが決定する以上、アルガスの声も固くなると言うものである。
「ああ、当然だが手に入れたエアドルは一切流通させるな。もし一片でも流通させればカルマイス子爵家はそこで終わらせる」
「ひっ」
ジオルグの殺気にアルガスは悲鳴を上げる。ジオルグの殺気は決して脅しではなく本気である事を嫌が応にも理解させられたのだ。
「ジオルグか……またもあの小僧か」
「え?」
ジオルグの突然の発言にアルガスは何を言われたか咄嗟に判断できない。それほどまったく予想外の発言であった。
「ジオルグごとき、何を恐れるか!所詮はザーフィングの名がなければ何もできぬ小僧ではないか」
アルガスの反応を無視してジオルグは言葉を続ける。
「い、いくら侯爵といえど我らも子爵、そのような無法が」
ジオルグの言葉には抑揚など一切ない。ただひたすら事実を羅列しているかのような印象を受ける。
「あ…」
アルガスはここでジオルグの言葉が何を言っているのかを理解した。それは先日祖父のエイヴリーがジオルグを罵った言葉そのものであったからだ。
「お、お許しください!!祖父はあのとき激高しており正気ではありませんでした!!何卒お慈悲を賜りたく!!」
アルガスの言葉をジオルグは手で制すると静かに言う。
「何を勘違いしている?」
「え?」
「私は老いぼれの妄言に一々目くじらなど立てるつもりなどない」
「……」
ジオルグの言葉にアルガスは言葉を発することが出来ない。
(ど、どういうことだ?ならばなぜジオルグ様は……お祖父様の発言を…あっ)
ジオルグの言葉の意図を計りかねていたアルガスは突然ジオルグの意図を察した。
(あの場には私達三人しかいなかった…だが、その会話の内容をジオルグ様は知っていた…つまりカルマイス家でのことで知らないことなど
アルガスが理解したときに全身から冷たい汗が噴き出した。
「理解したようだな」
「は、はい」
ジオルグの言葉にアルガスは静かに頷く。ここまで家内のことを掌握されている以上、エアルドを一片でも流通させれば次の瞬間にはカルマイス家の者達は即座に皆殺しとなる事は間違いない。
「お前には少なくとも大口の取引を三回はしてもらうことになる」
「さ、三回ですか?」
「ああ、その購入資金はザーフィング家が出す」
「え?」
ジオルグの言葉にアルガスはつい芸のない返答をしてしまう。アルガスの考えではエアルドの購入はカルマイス家が出すものと思っていたからである。
「カルマイス家は財政的に苦しくなり、エアルドの密売に手を出したという筋書きだ」
「し、しかし……現状カルマイス家は財政的に困窮しているわけではございませんが……」
「
「は、はい」
ここでアルガスはジオルグの言葉に違和感を感じる。
「ま、まさか……我が家の財産を」
「ほう、少しは賢くなったな」
ジオルグの返答はまったく熱意に欠けたものである。
「お前は金策のためにザーフィング邸に来るという名目が出来るだろう?」
「は、はい」
ジオルグの言葉にアルガスは得た情報をこちらに伝えろという意思表示である事を察した。
「父や祖父が窮状は仕組まれたものである事を伝えてもよろしいですか?」
「ダメだ」
「な、なぜです?」
「窮状が本気のものでなければ露見する可能性が高くなる。私はお前達を信用しているわけではないのでな」
「は、はい」
「アルガス、私の期待を裏切るな。この言葉の意味を取り違えた時がお前の最後だ」
ジオルグの言葉にアルガスはガタガタと震え出した。かつてガーゼルを処刑したときにジオルグがアルガスとカーマインに言い放った言葉であったからだ。この言葉はアルガスにとって精神を縛るものであり、ジオルグへの反逆心を微塵も生じさせることはない。
「いけ」
ジオルグの言葉にアルガスは震えながらも一礼するとフラフラとおぼつかない足取りで執務室を出て行った。
「屋形様……脅しすぎではありませんか?」
側に控えていたカインがジオルグへ言う。ジオルグの脅しはアルガスを追い詰めすぎているように思えたのだ。人間は追い詰めすぎると思わぬ行動に出る可能性があり、そうなれば任務に支障が出る事を心配したのである。
「かまわん。暴発するというのならば
「御意」
ジオルグの言葉にカインは静かに一礼する。
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