第88話 第二部エピローグ
ザーベイル連合王国の建国式典を終えた二週間後にガルヴェイト一行は帰国した。
帰国してすぐにジオルグはアルゼイス王へ謁見を申し出る。アルゼイスはそれを快く受けるとジオルグはアルゼイス王の執務室に通された。
そこにはアルゼイス王とイルザム王太子の二人がいた。
ジオルグが入室すると同時に秘書官たちが退出していく。ジオルグが帰国後すぐに謁見を申し出たことで人払いの可能性を察したので前もってアルゼイスは指示していたのである。
「ザーフィング侯、ご苦労であった」
「はっ、急な申し出にお応えいただき感謝の言葉もございません」
「ふ、卿がまず余に謁見を申し出たということは
アルゼイスの言葉にジオルグは一礼する。護国卿レパレンダスと財務相ディバルの二人はザーベイル連合王国での様子をきちんと報告文書を上げてから行うつもりであるのに対し、ジオルグは即座にアルゼイスへの謁見を申し出た。この辺りの察しの良さはさすがというべきであろう。
「王太子はザーフィング侯より話の内容は聞いたのか?」
アルゼイスの問いかけにイルザムは頷いた。それを見て、アルゼイスは満足したように頷いた。自分の身に何があるかわからない以上、最も警護の固いイルザムと情報共有を行うジオルグの行動を評価したのである。
「そうか、それではザーフィング侯、報告を始めよ」
「はっ!!」
ジオルグはアルゼイスの言葉に短く答えて一礼する。
「ジルヴォル王の在位期間は十年でございます」
「十年か……」
ジオルグの言葉にアルゼイスは思案顔を浮かべて言う。その反応にジオルグは小さく頷いた。
「陛下、お伺いしたいことがございます」
「なんだ?」
「王というのはそれほど
「そうだ」
ジオルグの問いかけにアルゼイスは即答する。
「王は
「王としての態度……」
「王位に就いたことのない者達は、誰にも縛られず好き放題できると思う輩は多いが平民達の方がよほど自由にものを考え、言葉を発し、動いているというものだ。それは卿等もわかるであろう?」
アルゼイスの言葉にジオルグとイルザムは頷く。ジオルグも貴族としてふさわしい態度を取ることを義務付けられている。貴族の優雅な生活というのは、決して代償なしに手に入るものではない。もし、その代償を支払わず自分の思うままに行動すれば待っているのは身の破滅であるのは間違いないのだ。
二人の反応にアルゼイスはふっと笑い続きを話す。
「ザーフィング侯、ジルヴォル王が十年と言った意味を履き違えてはおらぬだろうな?」
「はい。ジルヴォル王が在位十年と言ったのはそれまでに決着をつけるではなく。
「ふ、わかっておるのだな」
ジオルグの返答にアルゼイスは愉快そうに笑う。
「王は王にふさわしい態度を取らねばならん。逆に言えば王の立場では取れぬ手段があるということだ」
「御意、ジルヴォル=ザーベイルにとって王位に就いている十年間は鎖に繋がれた状況でございます」
「そういうことだ。怪物が鎖から解き放たれるまでたった十年間しかない。もちろん、ジルヴォル王にとってはそれが最も
アルゼイスの言葉にジオルグとイルザムは視線を交わす。アルゼイスの言葉の意図するところを確認するために視線を交わしたのである。
「都合が良い……ユアン王弟が王としての実力を身につけるまでの期間ですか?」
イルザムの問いかけにアルゼイスは小さく首を振った。
「もちろん、それもあろう。だがそれだけではあるまい」
「それだけではない?」
「ザーフィング侯は何の頭領だ?」
「
イルザムの言葉にアルゼイスは頷いた。
「余はそう見ておる。それにしても諜報機関の設立、国内の統合、周辺国への牽制、新王への権力移譲とわずか十年でやるべきことは山のようにあろうな」
「そう考えるとこちらとすればまだ良いですな」
イルザムの言葉にジオルグとアルゼイスは頷いた。イルザムの言った通り、ガルヴェイトの方は国内の統合、諜報機関の設立を行わなくてよいのだから、有利なのはガルヴェイトなのである。
「そういうことだ。ジルヴォル=ザーベイルが鎖を引きちぎるのに十年……その間に我々も備えねばならんな」
アルゼイスの言葉に二人は頷いた。
「ザーフィング侯、わかってはいると思うが、あの男に敗れるようなことになればガルヴェイトにどれほどの損害が出るかわからぬぞ」
アルゼイスの声に厳しいものが含まれた。だが、それに怯むような精神構造はジオルグにはない。
「お任せください。このジオルグ=ザーフィング、同じ相手に二度も遅れを取るつもりはございません」
ジオルグの即答にアルゼイスはニヤリと笑い言葉を発した。
「期待しておるぞ。ザーフィング侯」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジオルグはアルゼイス達の元を退出すると即座にザーフィング邸へと向かう。
到着したジオルグを配下の者達が出迎えると一斉に一礼する。その揃った様子にジオルグは頼もしさを感じた。
(ジルヴォル=ザーベイルと戦うか……敗ける気はしないな)
ジオルグはジルヴォルの実力を誰よりも評価している。だが、敗ける気が一切しないのは自分は一人ではなく、頼りになる配下達がいることを知っているからである。
「お屋形様、おかえりなさいませ!!」
カインの言葉にジオルグは口角を上げて頷く。ジオルグの心情が口元から溢れ出した結果である。
「皆、よく私の留守を守ってくれた」
「もったいないお言葉にございます。お疲れでしょうから今日は食事のあとは……」
カインの言葉を手で制止すると意図を察した部下達は姿勢を正した。ジオルグは部下の話を原則遮ったりはしない。だが、それを敢えて行なったことで何かを自分達に命じようとしていることを察したのである。
「皆、これより忙しくなる。力を貸せ」
ジオルグの言葉に配下達は一斉に一礼する。自分達の頭領であるジオルグに『力を貸せ』と言われて奮い立たぬものなどこの場にはいない。
「お屋形様、何なりとご命令を!!」
カインの言葉と共に全員の視線がジオルグへと集中する。その視線に込められた熱量にジオルグもまた高揚する。
「うむ……」
ジオルグの命令が発せられた。
〜第二部完〜
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