第79話 ギルドルク併合⑥
レオス達に縛られたソシュアは、ザーベイル陣地へ引っ立てられた。
レクリヤーク城の城門が開き、縛られたソシュアの姿を見た、ザーベイル軍の将兵達は少しばかり困惑した表情を浮かべていた。
「我らはザーベイル軍に降伏する。首魁であるソシュアを
レオスは自信満々にザーベイルの将兵達へ告げた。
「お待たせいたしました。ご案内いたします」
「ああ、案内せよ」
「……はい」
しばらくして、指揮官がやってくると一礼して案内をすることになった。
(はぁ……レオスは本当に
ソシュアは心の中でため息をついていた。ザーベイル軍の冷たい視線が
ただこれは、ソシュアがザーベイルの憎悪を一身に受ける立場であると思っているからであり、実際にはソシュアに同情の視線が注がれているのである。
憎っくきギルドルク王家であるとは言っても、若干十三歳の少女が部下に裏切られ、縛られている状況に同情が集まるのも当然であった。もし、この時ソシュアが見苦しく泣き喚いていればザーベイル将兵の印象は悪かったろうが、堂々とした態度であり、ソシュアへ同情の視線が集まるのは自然なことであった。
ソシュアにしてみればもはや命を諦めている心境のために、今更侮辱に対して心が悲鳴を上げるようなことはなかっただけのことであり、覚悟が決まっていなければどうであったかソシュア自身もわからない。
(はぁ、それにしても手ひどくやられたものだわ)
ソシュアはザーベイル陣地に向かうまでに数多くの残党軍の兵士達の死体を見て心が重くなる。
自分がもっと頑強に抵抗するべきであったという思いが今更ながらソシュアの心に生じているのである。
(やはり、私は王には向かないわ……)
ソシュアは自分に王として一番大切なものが欠けているということを感じていた。それは自分は物事に
(民を守る……その根底にあることを貫き通す意志がない)
ソシュアはそう自嘲する。
ソシュアがザーベイル本陣に到着するとレオス達は武器の提出を求められた。
「ふざけるな!! 我らは捕虜ではないぞ!! 首魁ソシュアを捕らえたのだ!!」
レオス達は武器の提出を求められたことに激昂する。
(はぁ、本当にアホね……お前達の筋書きなんか何の意味もなさないわよ)
レオス達の言動から、ソシュアはレオス達がどのような主張をユアンに行うつもりなのか理解した。
レオス達は心からギルドルク王家に従ったわけではなく、ソシュアを捕らえるために潜入していたということにするつもりなのである。しかし、当然そのような目論みにユアン=ザーベイルが踊らされるわけがないことは確定している。なぜなら、元々リョシュア達が潜り込ませられているのだから意味をなさないことは当然である。
「王弟殿下の前に武器を持ったものを通すわけにはいかぬ……この程度のことが理解できぬようならばここで斬って捨てるぞ」
武官はそういうと腰の剣にゆっくりと手を添える。決して脅しではないことは視線の険しさと放たれる凄まじい殺気から明らかであった。
「く……」
レオス達はゴクリと喉を鳴らした。
「どうする? お前達はここで華々しく散るか? こちらは一向に構わんぞ?」
武官の言葉にレオス達は屈した。
「おい」
「……」
レオスの言葉に全員が武器をザーベイルへ差し出す。差し出された武器をザーベイル兵が引ったくるように奪う。その無礼な態度にレオス達は抗議の声を上げようとしたが、武官の視線に沈黙せざるを得ない。
(あらら、完全に拒絶されてるわね)
ソシュアはその一連の流れを冷静に見ていた。武官や兵達の態度はどう考えてもレオス達を歓迎するものではないことは明らかだ。もし、ソシュアを連れてきたのが功績として認められていればこのような厳しい態度をとるはずはない。
「こっちだ。ついて来い」
武官はそう言ってくるりと背を向け歩き出した。レオス達はそれに黙ってついていく。この段階になってレオス達もようやく不穏なものを感じ始めたようである。
「王弟殿下、ギルドルク女王を連れて参りました」
「通せ」
「はっ!!」
短いやりとりの後にソシュアはユアンと幕僚達の前にレオス達に引き摺り出された。
「ユアン=ザーベイル王弟殿下、お初にお目にかかります!! 首魁ソシュアを捕らえました」
レオス達は一斉に跪いてユアンへ挨拶を行う。その声には媚びる者特有の不快な響きがあった。
「おい!! 何をボサっと突っ立てるんだ!!」
レオスがそう言って縄を引きソシュアを引きずり倒した。
「やめろ!! おい」
「はっ!!」
ユアンの制止の声と続いて出された短い命令に武官達が即座に動くとソシュアを立たせた。そのまま武官が剣を抜くとソシュアを縛り上げている縄を斬る。
その様子をレオス達は驚きをもって見ていた。
「さて、それでは降伏の交渉を始めようではないか」
「わかりました」
ユアンの言葉にソシュアは全く動じることなく返答する。ユアンの勧めに従い、ソシュアはユアンの正面に用意された席に着いた。
「お、王弟殿下!! こ、これは」
レオスはこの展開に言いようもない不安に襲われているのだろう。明らかに声に恐怖の響きが含まれている。
「
ユアンがレオスの名を呼ぶとレオス達の恐怖がやや和らいだ。ユアンの声は穏やかであったからである。
だが、ソシュアは次にユアンがどのような発言をするかを理解すると静かに目を閉じた。
ユアンはソシュアに一瞬だけ視線を向けるとわずかに口角を上げる。
(リョシュアの報告どおり……聡明だな)
ユアンはそう一瞬で判断するとレオス達に視線を向けた。
「お前達のおかげでザーベイルとギルドルクの融和が進む」
「はっ!! もったいなきお言葉にございます!!」
「本当にご苦労だ。我らザーベイルのためにギルドルクの者達の憎しみを一身に引き受けてくれるのだからな」
「え?」
「
ユアンはそういうとレオス達を武官達が即座に組み伏せた。
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