第77話 ギルドルク併合④
「勝った!? 本当に!?」
勝利の報を受けたソシュアは驚きの声をあげた。どう考えても勝てるわけがないという考えであったためにソシュアとしては驚きを隠すことができなかったのである。
「ど、どうやって勝ったのです?」
ソシュアの問いかけにレオスは得意気に答える。
「我らの強さに恐れ慄いたのでしょう。一度の衝突で敵軍は総崩れとなりました」
「え?」
「奴らは所詮、辺境の野蛮人!! 蛮勇はあれど知と勇は我らには遠く及びません!!」
レオスはここぞとばかりに自分の功績を声高に叫び出す。ソシュアは興味深くレオスの言葉に耳を傾けつつも、リョシュアの様子を伺う。
(
ソシュアはリョシュアに動揺が一切見られないことに、この勝利が
この勝利が本当のものであれば、リョシュアが少なからず動揺を示すはずである。ところがそれが一切見られないことからこれがザーベイル軍の策略である可能性が高いのである。
(こちらは
ソシュアはその考えに至った時にゾクリとする。それは次の戦いが
だが、それでもソシュアとすれば部下達の命を救うために動かざるを得ないのである。
「マーケイン卿、よくやってくれました。この勝利によって降伏することができます。
ソシュアの発言に家臣達の反応は賛同とは程遠いものであった。
「女王陛下!! 何を言われます!! 奴ら如き蛮族など我らの敵ではございません!!」
「マーケイン卿のいう通りです!! 奴らの力の底は見えました!! ザーベイルを根絶やしにして正義がどちらにあるか知らしめねばなりません!!」
「全く持ってその通りです!!我らは勝者、敗者に従う道理がございません!!」
ソシュアの意見に対してレオスを筆頭に反対意見が相次いだ。それを見て、ソシュアは怒鳴りつけたい衝動を必死に抑えた。
勝利に酔っている彼らは完全に冷静さを失っており、現実が見えていない。
フラスタル帝国の侵攻を何度も何度も阻止したのはなぜか?
初戦で中央貴族達がザーベイル軍にほとんど抵抗することなく撃破されたのはなぜか?
もちろん、敵が実力を発揮できないようにザーベイル軍が謀略を行っているのは確実だ。中央貴族達の大部分を最初に殺戮し、その混乱のために中央貴族達はほとんど抵抗できなかったのである。
だが、それはザーベイル軍が弱いわけではない。まともに戦ったところで中央貴族達ではザーベイル軍に勝利することはできないとソシュアは思っていた。ソシュアにしてみればまともに戦っても勝てる実力を有しているにもかかわらず、勝つために有利な条件を上げることにこれでもかと手段を講じているのだ。ソシュアにしてみればそちらの方がよほど恐ろしいのだ。
だが、勝利に酔ったレオス達には、その当たり前の視点が失われてしまった。
(もう止められないわね……これで次で終わりというわけか)
ソシュアはそう思うとため息をつきそうになっているが、それを表面に出すことはしない。既に詰んでいる盤面であり、ソシュアとすれば既に自分の命は諦めているのだが、それでもせめて女王として王族としての義務を果たそうとしているのだ。
だが、その義務や想いは勝利によったレオス達には届かないのである。
「なぁに次の一戦でユアンの首を取ってご覧に見せまする」
レオスの発言に家臣達は一斉に雄叫びをあげた。
「……次も期待しております」
ソシュアは家臣達の盛り上がりを見てため息を堪えつつようやく声を絞り出した。
ソシュアの様子をリョシュア達は意味ありげに見ていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「皆ご苦労だった」
ユアンの言葉に幕僚達は一斉に頭を下げた。その表情には敗北の色など一切ない。むしろ獰猛な表情を浮かべている。
戦歴豊かな彼等にとって勝利とは最後の最後に勝利条件を満たせば良いのであり、この戦いにおいて勝利条件とは、ソシュアの
その条件を満たせば良いのであり、一戦で負けたところで何ら痛痒はないというものである。
「まぁ、最初から決まっていたことですからな」
「軽傷者が数名。損害としては軽微どころか皆無と言っても良いですし」
「全くだ。普通ならあまりにも脆すぎるから何らかの策略を思わせるものだが……そのようなわけではないそうだ」
幕僚達から苦笑まじりの言葉が発せられた。既に内部のものから浮ついた状況であることの報告が入っており、幕僚達にしてみれば苦笑せざるを得ないのである。
「さて、次で決着をつけよう。次は一切容赦をするな。戦の素人共に戦いというものを教えてやれ。……いや、恐ろしさというべきかな」
「次に活かせませんがな」
幕僚の一人の返答に全員の表情に猛獣めいた笑みが浮かんだ。もはや、ザーベイル軍にしてみれば、残党達など浮ついた草食動物であり、獲物でしかないのだ。
「さて、明日奴らが討って出れば明日で決着がつく」
「はっ!!」
ユアンの言葉に全員が頷いた。
そして翌日……
朝食をとってしばらくしたところで、レクリヤーク城の城門が開いた。
「ウォォォォォォォ!!」
残党軍は雄叫びをあげてザーベイル軍に向かって突っ込んできた。残党達の表情にはザーベイル軍を侮るもので満ちている。
「勢いを取られた。距離をとれぃ!!」
残党達の突撃をまともに受ける形となるザーベイル軍の指揮官であるハルトス子爵は即座に後退の指示を出すと整然とザーベイル軍は後退を始めた。
「はははは!! 臆病者共が!!」
残党達はハルトス子爵の舞台が後退を始めたことに気をよくし、脇目も振らずに突っ込んでくる。
素人の残党は敗走と後退の区別がつかない。敗走は『させられる』ものであるのに対して、後退は『するもの』である。その違いを素人である残党は見分けることができなかったのだ。
「さすがはハルトス子爵だ。この状況で全く乱れてない」
「ええ、さすがはハルトスですな」
ユアンはハルトス子爵の用兵はまさに職人技と呼ぶに相応しいものである。後退と敗走は紙一重のところがあり、状況によってはあっさりと敗走へと変わってしまう。だが、ハルトス子爵は全く危なげなくそれをおこなっているのである。
「よし、もういいな」
ハルトスの後退に引きずられ残党達は無謀な突進を続ける。寄せ集めの残党達は速力に差があり、速い者と遅い者で隊列に乱れが出てきた。そのために隊列が細長く伸びていく。
ドォォォォォン!! ドォォォン!!
ユアンの言葉に応じるように、太鼓が鳴らされた。
太鼓の音が戦場に鳴り響き、それと同時に各部隊が動き出した。ザーベイル軍は細長く伸びた残党達に横槍を入れる。
「横槍だぁぁ!!」
「慌てるな!!」
ザーベイル軍の横槍に対応した
しかし、ザーベイル軍は残党の動きに即座に反応する。別の部隊が真っ正面からぶつかろうとした残党軍の
ザーベイルのこの連携の取れた動きに残党軍は当然ながら対応することはできない。
「ヒィ!!」
誰かの叫び声が発せられたが、その叫び声はザーベイル軍の雄叫びに一瞬後には踏み潰されしまう。
「ぎゃあああああああ!!」
「ぐぁぁぁあぁ!!」
残党達の絶叫が響き渡った。
「こいつは将みたいだな!! 殺せぇぇぇ!!」
ザーベイル軍の将兵達が指揮官と思われる男へ殺到する。
「ヒィ!!」
その言葉を最後に一斉に指揮官の体に数本の槍が突き刺さるとあっさりと事切れた。
ドォォォォン!!
再び太鼓の音が戦場に響き渡るとザーベイル軍が新たな動きを見せ始めた。
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