第07話 父と継母も殴る。一緒に二人の実家も殴る

「さて、ガーゼル並びにアルマダ……貴様らは母を暗殺した後にこのザーフィング侯爵家を我が物にしようとした。ザーフィング家の領民のために使う金を自分たちの欲のために使ったな」

「……」

「すでに証拠もおさえてある。たった五年でここまでようも贅沢に使ったものだな。何か弁明はあるか?」


 ガーゼルは口を開かない。訂正しようにも私が既に毒、仕入れた商人、実行犯を押さえているために何も弁明できない。もちろん、頭の中では必死にどう言い逃れようと必死に考えを張り巡らせているのだろうが、混乱しているために考えがまとまらないのだろう。


「ないようだな。お前達……どうやって私がこの証拠を手に入れたと思う?」

「え?」

「簡単な事だ。母の死に疑問を持ったのは私だけではない。ザーフィング侯爵家に仕える者達全員だ。ああ、アルマダがエディオル子爵家から連れてきた極少数の者達は違うがな」

「ど、どういうこと……?」

「入り婿の分際でザーフィング侯爵家の当主面をするお前達家族に心から忠誠を誓っているとでも思っているのか? ましてお前はザーフィング家の仕事に一切関わっていない単なる穀潰しだ。敬意を受ける要素は皆無だ」


 容赦ない評価にガーゼル、アルマダは何も言えない。


「皆には私が密かに命じていた。母上の暗殺の証拠を探れとな」

「……」

「アホなお前らは使用人達が唯々諾々と従っている事に増長してくれたよな。そしてすぐに緩んでいき容易に証拠を固めることができたよ」

「あ、あ……」

「ああ、ちなみに一番苦労したのはお前らが私を侮り、躾と称して殴る蹴る事に使用人達がお前達を始末しようと動こうとするのを止めることだよ。私のために動こうとする者達を止めるのは思いの外大変だったよ。今お前達家族が生きているのは私のおかげだ」


 私が言い終わるとガーゼル達は使用人達の顔を覗き見た。その顔にははっきりと恐怖の色が浮かんでいた。私の言葉がウソでない事は、私の命令を聞き自分たちを取り押さえた事で十分にわかってるのだ。


「さて、反論もないようだな。余計な手間が省けて良かったよ。まぁ全部論破してやるがな。さて、ザーフィング侯爵としての処分を言い渡す。前ザーフィング侯爵エルフィルを殺害した罪により死刑に処す」

「なっ」

「そ、そんな……」


 死刑という言葉に二人は、いやザーフィング家以外の者達は言葉を失っていた。


「ジオルグ!! お前は父を処刑するというのか!!」

「そ、そうよ!! 私は義理とはいえあなたの母親よ。それなのに!!」


 ガーゼルとアルマダは死刑という言葉に動揺したがすぐに生き残るために私に反論を開始する。


「死刑を覆したければ私の出した証拠が誤りである事を証明してみろ。血縁に頼るのは止めろ。お前達の今までの態度でどうしてお前達を許せると思えるのだ?」

「お前は人としての情がないのか!!」

「そうよ、親を殺してお前は平気なの!! 良心が痛まないの!?」

「まったく痛まんな」

「「な……」」

「お前達に対してどうしてそんな対応をしてやらなければならないのだ?」


 私の心の底からの疑問の声に二人はパクパクと口を動かすが言葉が音声化されることはなかった。


「第一、良心や情などというものは、まっとうな相手に示すべきものであり、お前達にそれだけの価値があるとは私にはどうしても思えんな。お前達は人からまともな扱いを受けることができるような存在か?」

「「……」」

「お前達は母を殺して五年もの間好き勝手出来たのだからもう満足だろう? まぁ誰からも尊敬されることなくお前達が死んだところで誰も悲しむことはない実に無意味な人生だったな」


 私の言葉にガーゼル達は言葉を発することはない。


 自分たちの人生がいかに虚栄に満ちたものであるか、からっぽであるか本当は自分たち自身がわかっていたのだ。それを指摘される事は、心を抉りに抉ったのだ。


「カルマイス子爵、エディオル子爵……この二人は前ザーフィング侯爵殺害の罪で死刑が確定した。もし異論があるというのなら遠慮なく国王陛下へ訴え出るがいい。当方は一向に構わん。当然だがこの二人を助けたいというのなら両家が費用を負担するのだな」

「う……」

「そ、それは……」


 両子爵は言葉を濁す。私が押さえた証拠は当の本人達が反論できなかったものだ。しかも今回提示した証拠で全てなどということなどどこにもないのだ。

 両子爵の様子に自分達が見捨てられた事を察したガーゼル達は気を失ってしまう。失神のタイミングまで一緒というのはある意味絆の深さを示すものなのかも知れない。


「そうか両子爵がまともで手間が省けたよ。さて、この二人の有罪が確定した今、両子爵家との関係をはっきりさせないといかんな」

「え?」

「は?」

「何を言っているんだ? 両子爵家へなぜか・・・使途不明金が流れているのだから無関係ではないな」


 私の視線を受けて両子爵は明らかにおびえた表情を浮かべた。


「そうそう、カルマイス子爵先ほどの金の流れについての弁明を聞こうか」

「そ、それは」

「おや? 弁明を考える時間はたっぷり与えたろう?」

「あ、ありません……」

「そうか。それではエディオル子爵の方はどうかな? 卿には時間を与えてなかったが大した問題ではあるまい?」

「……はい」

「そうか。両家に流れた資金は相当な額だ。それを君達は領地経営ではなく、自分達の欲望に使用しているな」


 両子爵の顔色はもはや青を通り越して土気色となってる。もはや椅子に腰掛けるようなことはせずに床に跪き慈悲を乞い始めた。


「ザーフィング侯、申し訳ございませんでした!!」

「必ず!! 必ず返済いたします!! どうかお慈悲を!!」

「返済は待ってあげてもかまわん」

「あ、ありがとうございます!!」

「感謝いたします!!」


 私の言葉に二人は顔をばっと上げた。やや顔に生気がもどる。


「もちろん、何の条件もないというわけにはいかない」

「は、はい」

「両子爵は引退し、嫡男に爵位を譲れ」


 私の言葉を聞いた二人の顔が曇った。

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