第12話 ヒーリアの決断と和平

「すべて仕込まれていたということか、しかもスピリアによって」


「これにはわたくしも驚きましたね」


「スピリアさんが…」


「スピリアそんな能力だったのか、死刑レベルのことしてるじゃねぇか」


「僕もそこまでとは思わなかったよ」


「となるとだ、10分記憶がないと言っていたな、これもスピリアの能力、嘘を発現する能力によって仕組まれたこと、犯行はネイシアではなくスピリアということか、確かに秘書のアルハザードを殺害すれば私に近づける可能性も高くなる。だがこの件にまさか父親まで関与していてそんな悪行をしていたとはな。スピリアによって魔王デモンは滅びた、しかし、それと同時にアクヌス皇帝、オードウェリー、キャロット、アルハザード、その他数々のメソッド、セインヅカ、ファーランベルク兵の犠牲者を出し混乱を招いた。だがアクヌス皇帝により招いた悲劇かもしれない。そして何より魔術師は自分で能力を選べない。だからこそ恐れたということか。これはファーランベルク様も交え会議を開かぬといけないな。しかし魔力が回復すればまた能力を使われる可能性がある。ネイシア、魔術の応用を知っているか?」


「魔術の応用ですか?どういうことですか?」


 魔術の応用、魔術師は固有の魔術を一つしか持てないがその魔術を応用することができる。現にヒーリア、アルハザード、フレイはすでに応用していた。

 ヒーリアの能力は魔術を見通す能力、しかし魔力の流れも見える。

 アルハザードは生命を操る能力、実際は生きている生命を操るだけだったが生成するということができた。

 フレイは炎を操る能力。そして覚醒ではなくその炎をフェニックスに変えた。これが魔術の応用である。


「ネイシアの能力は魔術を消滅させる能力だがその能力を最小限に使うことによって魔術師というクラスを失うことなく魔力を消滅させる」


「つまりどういうことですか」


「スピリアの初期最大魔力が10とする、その初期最大魔力を1にまで消滅させるということだ」


「どうして魔術師というクラスそのものを剥奪しないのですか?」


「死刑よりも重い罰だな、スピリアを死刑にするということはまたスピリアと同じ能力を持った魔術師が誕生するということになる。これによりスピリアは嘘も冗談もつくことができない。吐いてしまえば自分が自傷する。スピリアは嘘を吐きすぎた。だからこそ魔術師というクラスを剥奪してしまえば好き勝手嘘を吐くことができる。もともと魔力がなくなるのだからな。これからは嘘を吐けない魔術師として死刑ではなく生かすというのが私の考えた罰だ」


「しかし、僕にできるでしょうか?」


「少しずつ使ってくれ、私は魔力の流れも見える。だからこそ私が指示したところで止めてくれ」


「わかりました」


 ネイシアはスピリアに触れ少しずつ能力を発動させていく。スピリアの魔力は少しずつ消滅しているだろう。

 一分後、ヒーリアの声がかかる。ネイシアは能力の発動を止めた。


「これによりスピリアは魔術師ではあるが能力は使えない魔術師となった。魔術は使い方次第では恐ろしい力を発揮する。特にスピリアのような人物がまた同じ魔術を持てば戦争が起きるだろう。逆に使い方次第では大きな戦果ををあげられただろう。今回はアクヌス皇帝まで裏で関与していたようだがもし、そんなことがなければスピリアの恐ろしい発想はなくなっていたのだろうか。それはジン、ナイア、フレイ、エリル、お前たちにも言えたことだぞ?使い方次第では災厄を招く。決して悪用はしないことだ」


 ヒーリアの答えは死刑ではなかった。スピリアを魔術師として生かせ、一生嘘が吐けない罰。見方によれば死刑よりも残酷な罰である。

 ヒーリアのように魔術を応用する者。

 ネイシアのようにメソッドから迫害されても尚魔術を悪用しない者。

 スピリアのように使い方次第では戦果をあげられたものの魔術を悪用する者。

 ジンのように可能性を秘めている者。

 魔術師には様々な魔術師がいるのだ。



 翌日、ミストリア、ファーランベルクは集まりヒーリアは全てを話す。元凶はスピリアにあったと。

 そしてヒーリアの罰、魔術師を剥奪することなく嘘がつけないという罰が正式に認められた。

 こうしてデモンの言っていた姫の正体も明かされ本当の終戦が訪れた。

 ルセリオスの言っていた禁術、これはスピリアの嘘によってできたもの。よってジンの全てを真実にする能力発動後に消滅している。



「あーあ…あたしは死んだのか…」


 しかし妙に暖かい、ぬくもりを感じるスピリア。布団で眠っている夢を見ていると思っているのだろう。だが本当に布団で眠っていた。


「あれ…感触がある」


 ここはメソッド城内。



 フレイの援護もあり、エリルはナイアに告白していた。


「エリル様を断ったらどうなるかわかってんのか」


「え…僕なんかでいいの?僕はそんなに男らしさはないし弱いよ」


「男らしさの問題ではないのです…優しいところが好きだったんですよ…」


 逆にナイアがエリルの手には届かないとは思っていたため心の中で嬉しく思う。結論から言えば両思いだった。



「おいジン、お前の応用の能力使ってみろよ、変なとこ触んなよ」


「わかってるよ」


 ジンはフレイの肩に触り静止能力を発動した。ジン、そしてフレイも動けているのだ。

 ジンの応用能力。それは発動する瞬間に触っていた人物ならジンを含め動くことができる。


「魔術師は詠唱能力を使うやつが多い、私も炎の魔法で使うしな、やっぱ私とジンは相性が合うのかもな、足引っ張んなよ」


「お互い様だな」


 フレイとジンは友好を深めていた。



 エリルとナイアはスピリアの元へと向かう。


「あはは…あれだけのことをしたのに生かしてもらってたなんてね…エリル様に合わせる顔がないね」


「ですがスピリアさん、もう貴方は嘘がつけません、冗談もです…」


「そっか、ナイアきゅんとエリル様は上手くやってるみたいだね、嬉しい限りだよ」


 するとスピリアが急に血を吐きだした。


「はは…なるほど…確かに嘘がつけないね…もう何も隠し通せないんだね」


「さっきは嘘を吐いていたの?」


「そうだね、あたしは叶わぬ恋をしてるからね。あたしが好きなのはエリル様だよ」


「私ですか…」


「ナイアきゅんならいいかな…」


 またしても嘘を吐いたことがバレる。


「辛いね、嘘がつけないって、もう何も隠し事はできないね、そうだよ、あたしはナイアきゃんが羨ましいよ、できることなら男に生まれ変わりたかったね…」


「入るぞ」


 ヒーリアがやってくる。


「お前嘘を吐いていたな」


「そうなるね」


「アクヌス皇帝にも悪行はある上に魔王デモンを倒したのは間違いなくお前だ、しかし、お前がやってきた悪行はそれを遥かに上回る。私はアクヌス皇帝を血筋は継いでいるがそのような真似はしないと誓おう。これがスピリア、お前に課せられた死刑よりも重い罰だ。これからは正直者として生きていくしかお前に道はない。隠し事も何もできない」


「いい気味でしょ?笑いに来たんでしょ?笑うといいよ、すべてにおいてあたしは敗者だからね」


「そんなつもりで来たのではない」


「嘘がつけるっていいね、あらためて思い知ったよ…」


「お前は使い方を間違えた、間違いさえしなければもっとことは簡単に解決していたかもしれない」


 能力、力、それはどれだけ強大でもどれだけ弱くても使い方ひとつで大きく変わる。

 ヒーリアはスピリアに正しさを与えたかった。それがヒーリアの目的。


「能力の使えないあたしはもう使い道はないけどね」


「確かにお前はもう能力は使えず嘘を吐くこともできない、だが思うこと、考えることはできる。話すこと、動くことはできる。お前の発想力なら参謀に就くことはできるかもしれないな」


「雑魚のあたしに誰も従わないよ」


「力だけが全てではない、協力、考えることも立派な武器だ。お前はその武器を使いメソッド、セインヅカ、ファーランベルク、魔王軍すべてを混乱に陥れた主犯者。だが策士でもある。もし、新敵対勢力が現れた時お前は役に立つかもしれないな。嘘がつけない裏切ることができないお前だからこそな」


「優しい上司だねぇ、ごほっ…」


「やめておけ、お世辞でもお前は吐くことができないんだからな」


「ずるいよ、あたしだけ本当のことしか言えないなんて」


「お前が悪行を働いたからだ」


「あたしがいなかったら魔王デモンを止められる人間はいなかったと思うけどね、時間の問題だったよ」


「それに関しては否定できないな、だがお前は巻き込みすぎた。この大罪をお前は一生嘘がつけないという形で償ってもらう」


「わかりましたよ、ヒーリア皇帝…ぐはっ…」


「皇帝とすら思われてないわけか、まあ良いさ、時間をかけて正直者になればいい」


「こんな能力持たなければ…」


「能力は選べないからな、お前は運が良かったのか悪かったのか嘘を発現する能力に目覚めてしまった。なら次はお前が嘘を吐いた分だけ罪を償え、それが私からの命令と罰だ」


 スピリアは実際は嘘を発現する能力など持ちたくなかったのだろう。しかし持ってしまった以上捨てることはできない。その能力を死ぬまで一生持ち続けなければならないのだから。

 アクヌスの件もある。そして戦ってきた団員でもある。だからこそ死刑ではなく生かすという情けをかけたがヒーリアにとってこれが最善だと思った。

 スピリアは時をかけて少しずつ罪の意識と向き合い正直者になるだろう。


 こうして元ヨガン魔術師団団員のキャロットはスピリアによるデモンに、アルハザードはスピリアによって殺害されたが首都メソッドに平穏が訪れた。


 ヒーリアはアクヌスのように裏で悪を働くことなく。

 ミストリア、ネイシアは結婚を果たしセインヅカ帝国の士気をさらに高め。

 ファーランベルクは首都メソッド、セインヅカ帝国と永久同盟を結んだまま。


 ジンとフレイはお互い戦友になっていた。厳しい修行の成果。


「ジン、お前の出番だ」


「おっけー、分かった」


 静止能力、詠唱を始めるフレイ。二人のコンビは主力に。



 エリルとナイアは二人で話す機会が多くなった。


「ジンさんとフレイさん…いいコンビですね」


「そうだね、僕たちも負けていられないね」


「はい…もしもの時は」


「僕は男の子だからね、全力でエリルを守るよ」



 スピリアはヒーリアの秘書になっていた。ただし嘘がつけない。お世辞はない。だからこそ秘書には見えないが嘘がつけないため一番信用できる存在でもある。


「ヒーリア、ファーランベルク様とミストリア、ネイシアが来たよー」


 どうやらファーランベルクだけ様付けしているのが本心のようだ。


「よし、通せ」


「はいはい、通っていいって」


「失礼いたします」


「失礼します」


「失礼する」



「ネイシア」


「どうしましたか?スピリア」


「あたしの魔力を消滅させたこと、忘れたとは言わせないからね」


「恨んでいると言いたいのですね、また一人メソッドの団員から迫害されますね。ですがお互い持ちたくない能力を持たされた仲じゃないですか」


「一緒にしないでほしいけどね」


 揉めているように見えるがネイシアとスピリアはどこか似ていて正反対だ。持ちたくない能力を持たせれ、正式に使うものと悪用する者。


「あーあ…魔力は使えないしヒーリアの下に就くことになったし屈辱だよ」


「いいじゃないですか、生きている限りきっといいことが起こりますよ」


「はいはい、お世辞はいいよ」


「お世辞ではありませんよ」


「恨んでるのは忘れないでね」


「わかりましたよ」


 敵意はあるが本心だ。本心しか吐けないのだから。



 ジン、フレイの主力チーム、エリルとナイアの愛は育まれ、ヒーリアと嘘がつけないという制限があるがそれがあるが故に信頼できるスピリア、皇帝と秘書。


 ヒーリア達は今日も国を治めている。セインヅカ帝国、ファーランベルク領と共に。より良い国にするために。こうして和平が続くのであった。



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ヨガン奮闘記 @sorano_alice

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