第11話 語られる真実

 ジンから溢れる謎の力により急に倒れたスピリア。しかしその血から一瞬。


「なんだ、俺に何が起きているんだ?」


 スピリアは血を吐きながらジンに告げる。


「ジン…君はファーランベルク・ロンギヌスにより今から殺されるよ…」


 意味が分からない。そしてその言葉を言い終わった後スピリアはまるで刺されたかのように大量の血を浴びた。

 もちろんファーランベルクが来ることはなかった。


「何を言ってるんだ、スピリア」


「そうか…そうだね…フレイが炎を操れる、なら逆に水を操れる能力者もいる…炎と水は正反対…ならあたしと正反対の能力があってもおかしくなかったんだ…」


「スピリアと正反対の能力だと?とりあえず何が何だかわからないが重傷だな、誰か呼んだ方がいいな」


「やめて…」


「なんでだよ」


「やめて…お願いだから」


 スピリアはいつもになく弱腰だ。


「一時間でいい…一時間でいいから休ませて…もう魔力がない」


「よくわからないがそうしたらどういうことか教えてくれるんだろうな?」


「わかったよ」


 それだけ言うとスピリアは気を失うように眠ってしまった。当りは暗く人気がない。


「道端に寝られてもなぁ…それにかなり重症だが大丈夫なのか」


 近くのベンチに抱えて寝かせることにした。

 スピリアとヒーリア、この関係性がついに解き明かされるかもしれない。スピリアの能力とは一体。それともヒーリアが嘘を吐き、ヒーリアの能力が明かされていない可能性もある。この件はジン自体も一刻も早く知りたかった。だからこそ待つことにした。屋台の食べ物を食べながら、ジュースを飲みながら。


 一時間と少しが経ち、スピリアの意識が戻った。普通に話せるようになったらしい。


「あぁそっか、あたしの計画は失敗したんだったね。ジンがいなかったら魔力切れで即死しようかと思ってたのに」


「自殺する気か、そんなにバレたくないようなことをしていたのか」


「このまま真実を隠して魔力を全て使い切って即死するかすべて話して死刑されるかの二択か…」


「死刑だと…?そんな罪を犯していたのか?」


「まあ、どちらにしてもあたしは死ぬ運命だからね、潔く話せばジンが殺してくれるかな」


「死刑にされるような能力を持っていたということか」


「どこから話そうかな…話はすごく長くなるけど」


「わかった、付き合ってやる。俺もお前の能力には疑問を持っていたしな。ヒーリアに関してもだけど」


「じゃあ、事の発端から話そうか」


 スピリアから真実が語られる。


「あたし、ランフォード家は貧乏だった。白米を食べるのもやっとだったね、そんな生活を12、13歳くらいまでしてきたかなぁ」


「お前の見た目も12、13歳に見えるけどな」


「うるさいなぁ、あたしはジンより年上の18歳、それは本当だよ」


「全く食べられなかったが故にってやつだな」


「そうかもね、確か13歳だったかな、あたしは能力に目覚めていた、当時はその能力の使い方をわかってなかったしどういうものかもわからなかった、それと同時にあたしたちランフォード家はラプテット家を憎んでいた」


「なんでそこでアクヌス皇帝たちが出てくる」


「あたしの父親はレイズン・ランフォード、前線部隊でアクヌスと共に戦場に出た。様々な国の敵将を討ち取ってきたレイズンだったけどそれは全てアクヌスが討ち取ったことにされていた。さらに報酬も10分の1。だからこそ貧乏な日々は続いた」


「アクヌス皇帝が裏でそんなことを?嘘じゃないのか?」


「嘘じゃないよ、もしあたしが嘘を吐いたら自傷するからね」


 確かにファーランベルクがジンを殺すと嘘を吐いた後スピリアはなぜか刺されたように血を浴びていた。つまりこの話は本当だということだ。


「それからあたしが15歳かなぁ、自分の能力を完全に理解してその自分の能力で自分のランフォード家は裕福な家庭にした」


 スピリアの能力は未だにわからない。


「その能力はある意味最強でその気になれば魔王デモン、アクヌスさえ簡単に殺害できる強力な能力。だからこそ自分の能力がバレれば死刑にされるんじゃないかと思いその能力を隠した。16歳になったら戦場に駆り出されるためにヒーリアの魔術を見通す能力で能力検査を行うよね?前線部隊か後衛部隊か」


「そうだな、俺が能力を知ったのは15歳くらいの時だったが完璧に理解してなかったがヒーリア様の能力で静止能力は一分使えることを理解して後衛部隊になったな」


「あたしは自分の本当の能力でヒーリアに自分を武器にさせる能力だと思いこませた。バレたくなかったからね。それにこの能力なら前線部隊に行けて本当にアクヌスがレイズンの手柄を横取りしていたのか確認もできる」


 スピリアは自分のあまりにも強力な能力に自分自身が恐れていたことになる。


「そしてある戦闘で見てしまった。魔王デモンとの戦いで父親のレイズンを見放して自分だけ逃げるアクヌスを。レイズンはその戦場では中級悪魔のエイグル、ニーグルスを討ち取っていた。アクヌスに見放されたレイズンは魔王デモンによって戦死した。レイズンが討ち取った中級悪魔、エイグル、ニーグルスも全てアクヌスが討ち取ったことにされていた。だからあたしは確信した。アクヌスを、ラプテット家を皇帝にしてはいけないと、それからあたしの作戦されることになった。ジン、君のせいで儚く散ったけどね」


「確かにラプテット家を恨む理由は分かった。だが肝心のスピリア、お前の能力を聞いていない」


「あたしの本当の能力、それは…嘘を実現させる能力。だからこそあたしは世の中のありとあらゆる法則を嘘で塗り替えた。そしてジンが目覚めてしまった能力、それは…すべてを真実にする能力。だろうね」


 嘘を実現させる能力。確かに言われてみれば魔王デモンが滅びた、と言えばその嘘が実現してしまう最強の能力である。


「今は全てを本当にしてしまったその能力のせいで魔術師は固有の能力を一つしか持てない。でもあたしは一年前の戦争が起きる前にその嘘を実現させる能力でこの首都メソッドで魔術師が持てる固有の能力は二つ、三つと増やしていった。四つ目は魔力が足りなかったけどね。さらに増えれば増えるほど魔力が増大する。あたしの計画には膨大な魔力が必要だった。そしてあの戦争自体あたしが嘘を実現させる能力であたしが引き起こさせた。魔王デモン、皇帝アクヌスを滅ぼすために」


「あの戦争はスピリアの意図的による戦争ということか。だが魔王デモンは滅びていなかった。嘘の能力が効かなかったということだな」


「ううん、魔王デモンも滅びたよ、でも誤算が生じた。セインヅカ帝国のオードウェリー、ファーランベルク騎士団のファーランベルク達、この二国を巻き込むつもりはなかった。でもあたしの魔力も無限ではない、どちらかを捨てないとならなかった。だからあたしは嘘の能力でファーランベルク騎士団の進行を遅らせた。オードウェリーはあたしの嘘の戦争により巻き込まれた。そしてあたしの嘘の世界では禁術と呼ばれる自爆魔法。誰もそれを自爆魔法や破壊魔法とは疑わず禁術、と勝手に決めつけた。なぜならあたしがその魔法は禁術だという嘘を実現させたからだよ」


「辻褄が合わないな、魔王デモンはメソッド教団としてメソッドを掌握していた、つまり生きていた。確かに禁術とは何だったんだ、あれは破壊魔法か自爆魔法と誰も疑わなかった」


「嘘の世界では禁術と呼ばれたその自爆魔法は魔王デモンにも効くようにまたしても嘘を実現させた。そしてエグゼクス・デモン、ザガンド・ギスタ、トード・ヴァイトという名前の嘘のあたしが実現させた第三勢力。本物の魔王デモンは滅びてるからね、もし本物のデモンが相手ならヨガン魔術師団、ファーランベルク・ロンギヌスを奪還したファーランベルク騎士団、セインヅカ帝国が束になってかかろうとも全滅していただろうね。このデモンという名前を借り悪魔の姿をさせることで魔王軍はまだ滅んでいなかったと他の軍は錯覚してくれた。できればベリアルやデーモンを嘘の能力で発現しておきたかったけれどあたしは偽物のあたしが嘘で発現させたデモン、ギスタ、ヴァイトを操ることで精いっぱいだったからね」


「待てよ、そうなるとあの偽物のデモンが話していた姫というのはお前か、スピリア」


「そうだよ、あたしこそデモンの姫だよ。そして首都メソッドに入れてはいけない理由。それはあたしが嘘の能力で能力を増やしたのが首都メソッドだったから、いずれキャロットのような面倒くさい能力が覚醒するのは首都メソッドに入った瞬間から、まさかすべてを本当にする能力なんてあるなんてね。だから首都メソッドに入るまでにあたしは少しでも魔力を回復しなければならない。そのための時間稼ぎ、あたしの能力。嘘を発現させる能力を使い、生命、魔力を吸収する能力を増やし、さらに自身を別の存在に変える能力と三つの能力を手に入れた」


「じゃあなんで静止中に動けてたんだ?」


「嘘を発現させる能力で自身を別の存在に変える能力は別次元にも干渉させることができるようにした。だからあたしは当時禁術と呼ばれていた自爆魔法を受けても静止能力を受けてもたとえ槍で何度刺されようともこの次元の能力である限り効かない。でもすべてを真実にする能力のおかげであたしは嘘を発現する能力しか使えなくなってしまった上に魔力も3分の1になってしまったけどね。デモンたちに首都メソッドを守らせて時間稼ぎをしたあたしは魔力を蓄えて蓄えた魔力の大部分を使い皇帝になるという計画を目論んでいたというのに…あたしの作戦が失敗に終わるとはね…これが全てだよ」


「もし使い方を間違えなければ最強の戦力になっていたんじゃないのか?」


「ネイシアのように迫害されていたか死刑されているだろうねこんな持ちたくもない力。だからこそ存分に使ってやる…って考えただけだよ」


「確かにヒーリアはアクヌスと血がつながっている。だがヒーリアがそんなアクヌスと同じような真似をするとは思えないぞ」


「ははっ…なんでジンは殺害系の能力を持っていてくれなかったのかな、あたしがするしかないじゃない」


「何をする気だ」


「あたしは10秒後に死ぬ…」


 スピリアは刺されたかのように血しぶきが舞う。


「なんで魔力切れかなぁ」


「自殺する気だな?」


「どっちにしろ死刑は免れないんだから最後はあたし自ら死にたいな…」


 するとフレイ、エリル、ナイアがジン、スピリアの元へと現れた。


「おいジン、お前スピリアに何してんだ。ナイアから聞いたがアルハザードをやったのもお前だったのか」


「それは違うと思うけどなぁ」


「それどころではありません…スピリアさんが重症です…ブラッディ」


「あはは…エリル様最後に見れたし満足かな」


 それだけ言うとスピリアは目を閉じる。



 ヒーリアは夕方も過ぎ暗くなってもミストリア、ネイシアと会談をしている。

 するとエリルのブラッディがヒーリアに何か言いたげにやってくる。


「エリルのブラッディだ、何かあったのか?」


「ついてくるように言っているような気がしますね」


「どうしますか、ヒーリア皇帝」


「まさかアルハザード以外にも死者が、私が赴こう」


「わたくしも出ます」


「僕も行かせてください」


 ヒーリア、ミストリア、ネイシアはブラッディについていく。



 ヒーリア、ミストリア、ネイシアが向かってくるのが意識を取り戻したスピリアは見た。スピリアに訪れるのは死刑だろう。


「いいよジン、ヒーリアに全部話しても、もうあたしは逃れられないからね。それなりに楽しかったよ、ヨガン魔術師団も、さようならエリル様」


 ヒーリアはジンからスピリアの真実を聞くことになるだろう。それは同時にナイア、エリル、フレイ、ミストリア、ネイシアにも明かすことになる。


 ジンは全てをヒーリア達に話した。もちろん全員が驚いた。

 それを全て聞いてしまったヒーリアからスピリアに下される決断は。





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