第9話 終戦と忍び寄る影

 決戦の時は来た。押し寄せてくるケルエルの騎士団達、フレイは地面に火の玉を放ち陣形を崩す。キャロットは前線に立ちアルハザードはゾンビ兵を繰り出す。ナイアは石ころを投げ岩に変える。騎士団達の陣形を崩す作戦だ。今回は平地。騎士団の勢いも早く魔術師団は不利。

 竜騎士たちはブレスで後方からやってくる騎士団達の陣形を崩している。今回は小隊ではない。れっきとした竜騎士軍隊だ、それなりに騎士団に打撃を加えている。

 できるだけ騎士団に被害を加えない。それを意識している。なぜならこの作戦はファーランベルク・ロンギヌスを奪還し騎士団が寝返る作戦なのだから。

 エリルは異変に気付く、気づいてしまった。魔王デモン、そして北門を守るヴァイトかギスタは確認済みだ。そして城に押し寄せてきたセルベール、そこまではいい。

 その城から現れるもう一体の上級悪魔がセルベールに迫っていた。そこでシルフィに気づいた上級悪魔は何らかの魔法でシルフィを消した。シルフィは死なない。エリルの元へまた復活するがもうシルフィの存在はバレてしまった。エリルは嫌な予感がする。



 一人突っ切るセルベール、あとから追いついてくるセルベール騎士団とスピリアたち。

 セルベールは一匹の大型悪魔と遭遇した、しかし構わず通りぬく。その悪魔を槍で引き裂いて。

 血が飛び出る。それはその悪魔からではない、セルベールからだ。セルベールは上級悪魔により討ち取られた。

 後から大量に押し寄せてくるセルベール隊とスピリア。上級悪魔は一匹で相手をする。謎の能力を使い。騎士団達を虐殺。触れてないのに次々と倒れだす騎士団達。

 後方からスピリアがやってきているが騎士団達が逃げている。


「撤退だー、撤退しろー、セルベール様が討ち取られほぼ全滅だ」


 一人、また一人と倒れていく、ついにスピリアはその悪魔を見た。スピリアの馬は勝手に撤退を始めるがスピリアの調子が急に悪くなる。馬に乗ることだけで精いっぱいだ。

 スピリアは何とか生き延びたもののセルベール騎士団はほぼ全滅。スピリアは馬から崩れ落ち倒れた。



 セルベールたちをほぼ全滅に追い込んだ悪魔。謎の能力。ヴァイト、またはギスタだろう。弱体化したところで上級悪魔に変わりはない。


「姫様だけは何としても守り通さなければ」


 魔王デモンたちが守り通さなければいけない姫、まだ女の悪魔がいるのかもしれない。姫の姿は確認できていないうえにケルエルすら気が付いていない。


「決して首都メソッドに入れるわけにはいかない」


 その悪魔は騎士団達をほぼ壊滅させたことにより油断してしまった。東ではなく西の方角からセルベールと同じく奪還しに来る人物が現れることに気づかず。振り向いた時には遅かった。その速さは大型ではないからこそガルド、ゴルド、ホーリーとは比べ物にならない速さ。ミネルヴァだ。ミネルヴァに乗った竜騎士はその上級悪魔に触った。次の瞬間、悪魔は消えた。



 ネイシアの乗るミネルヴァは圧倒的速さを誇る。その速さで一匹の上級悪魔を捕らえ、触って能力を発動させた。魔術を消滅させる能力。これで上級悪魔は魔術を使えない悪魔になると思っていたが予想は外れた。上級悪魔ごと消えたのだ。悪魔自体魔術に分類されているということだろうか、それとも生き残ったのはデモンだけで上級悪魔はデモンが魔術で召喚した悪魔に過ぎないのではないだろうか。

 ネイシアは奪還のためメソッド城地下へと入る。

 拘束されていた一人の男性。


「貴方は」


「そ、その声は、悪魔ではないな。我はファーランベルク・ロンギヌスよ」


 ネイシアによりファーランベルク奪還作戦に成功。さらにファーランベルクの愛馬も見つけネイシアは信号を空へと放つ。



 ヨガン魔術師団と戦闘していた騎士団達は空を見上げる。それは奪還成功の信号。

 ケルエル騎士団からファーランベルク騎士団となった主力部隊は反転し北門を守る上級悪魔に反撃を開始する。



 魔王軍総大将、デモン。悪魔同士繋がっているのか状況を把握し始める。それでも冷静である。


「トード・ヴァイトがやられたか…まあ良い、姫さえ生きていればな。騎士団も裏切っただと?ザガンド・ギスタよ。狙いはヨガン魔術師団だということを忘れるなよ」


 独り言のように呟くデモン。悪魔たちは意思疎通で繋がっているのかもしれない。


「まあ良い、ギスタ、騎士団はいなしておけ、我が出る、ヨガンを潰す」


 デモンの目的はヨガン魔術師団。



 ヒーリアは成功の信号を見てひとまず安堵する。しかし、ついに上級悪魔の後ろから現れた魔王らしき悪魔。その威厳に騎士団含めヨガン魔術師団は緊迫する。


 デモンは騎士団がいるにも関わらず迷うことなくヨガン魔術師団本陣に単独で歩いてくる。ケルエルの攻撃を払いのけ、リュッカの槍を突き飛ばしサガイの攻撃を大釜で受け止める。



 デモンが単独でヒーリアめがけて歩いてくる。まずはキャロットが震えながら立ちふさがる。迷うことなく鎌を振り上げキャロットの首をはねる。しかし、キャロットは首をはねられようが再生する。続いてアルハザードのゾンビ、相手にすらしていない。

 アルハザードの射程範囲に入った。生命を操る能力を発動。しかしデモンには効いていない。

 ジンは静止させられるが静止させたところで何の意味もない。ヒーリアも戦闘力では何の役にも立たない。

 フレイの炎の莫大魔術をデモンにぶつけた。焼き焦がされたかと思ったが無傷。

 ナイアは砂利を岩に変えデモンに投げつけた。当たったが痛がるそぶりも見せない。

 エリルは暴風と蝙蝠を操り後退させようとするがその暴風は効いていないらしく蝙蝠は逆に操られる。

 再生したキャロットを見てデモンの最初のターゲットはキャロットとなった。


「厄介な能力だな」


 デモンはキャロットを見つめる。それだけだ。キャロットに異変が起きた。


「魔力が…魔力が…」


 キャロットは倒れた。しかしキャロットは魔力が0にならない限り何度でも復活できる。すると後方から愛馬に乗ったファーランベルク・ロンギヌスとミネルヴァに乗ったネイシア・ネイがデモンと対峙する。ファーランベルクが持つ槍は聖槍。悪魔には絶大なダメージを与えられる。

 ネイシアは高速のミネルヴァを使いデモンに触ろうとするが鎌で払いのけられる。


「面倒だな、どうするか」


 デモンは余裕な表情っぷり。本当に弱体化しているとは思えない。


「古都ヨガンの偵察用ワープゾーンはここに設置するべきだったか、壊されているしな」


 その言葉にエリルは何かを思い出す。ライラと二人きりで魔物残党退治した時にワープゾーンのようなものがあった。つまりあのワープゾーンがあったという時点で魔王は生きている。もっと早く気づくべきだった。



 ヒーリアは違和感を覚える。キャロットが蘇らない。キャロットは軽く10回死んでも魔力が残るか残らないかのレベルで再生できるというのにだ。


 デモンはキャロットに何かをした。


「キャロットがおかしいな、死んだふりか?確かに魔王デモンだ、臆するのもわからなくもないか」



「ネイシアか、後々姫の邪魔になりそうだな、いや、逆に使えるか」


 デモンは姫といった。デモン以上の存在、姫がいることになる。つまりその姫はデモンより強い。


「まあ良い、姫の指示はヒーリアだ、やつを始末するか」


「アクヌスの娘に手は出させんぞ」


 ファーランベルクは聖槍を突き刺した、感触に違和感を覚えた。だがデモンは生きている。


「邪魔をするな貴様は、後々姫と同盟を組むことになるのだからな」


「誰が貴様などと同盟するか」


 聖槍に刺されながら対峙するデモンとファーランベルク。デモンを倒すすべはあるのか。



 ヴァイトを失ったがギスタは生きている。大量の騎士団の槍に刺されるもまるで効いていない。


「いなすと申されましても、デモン様が面倒なことになっていますね」


 刺されたまま抵抗しないギスタはデモンを鑑賞している。


「ヨガンの連中さえ城内に入れなければいいのですから」


 ギスタたちは姫のためにヨガン魔術師団を何としても首都メソッドに入れてはいけない理由があるらしい。



 ヴァイトの何らかの能力にかけられ命からがら何とか戻ってきたスピリアだったがそこには同格のギスタ、そして魔王デモンが本陣に進行していた。

 デモンはスピリアに気づくが相手にもしない。

 スピリアは体力の限界か倒れてしまった。



「ヨガンの連中も大したことないな、ヒーリアだけやって城門を閉めるとするか」


 デモンは前進してくる。ネイシアとファーランベルクがそれを阻止する。


「行かせんぞ」


 ファーランベルクは聖槍を刺したまま食い止めようとする。

 するとデモンは止まった。

 誰かと話している。しかも敬語で話している。


「いいのですか姫様、メソッドに入れてしまうことになります」


 ギスタも姫らしき人物と会話している。


「確かに時間稼ぎで魔力は回復なされたようですが、弱体化したなどそのような情報は流しておりませぬ。ファーランベルクによる適当な情報を流しそれを信用したものかと、確かに兵の少なさはバレてしまいましたが」


 デモンは決心したかのように言う。


「ベリアルやデーモンでカモフラージュするべきでしたがそこまでしますと肝心の姫様の魔力回復が間に合いません。仕方ありませんね。そうですね、どうせならこのデモンを使わずとも自分で手に入れたいということですね、では我々の時間稼ぎの役目は済みました。ヨガンの連中は首都メソッドに入ってくるでしょう。変な能力にでも覚醒しない限り姫様なら余裕ですよ、ではご武運を、姫様」


 それがデモンの最後の言葉になった。急に刺していた聖槍から血が溢れデモンは倒れた。それと同時にギスタも槍で刺されていたためギスタも倒れた。納得いかない勝利。本当に死んでいるのだろうか。弱体化しているといってもあっけなさすぎる。

 そしてデモン以上の権力を持つ姫とは何者なのか。



「勝利、でよいのか?」


 ファーランベルクは突然の出来事に戸惑う。

 喜んでいいのかわからない勝利。勝利した気分が味わえない。

 魔王デモン、上級悪魔はギスタは消えた。

 それよりも全員が思っているだろう。デモンを掌握する謎の存在、姫とは何者なのか。

 デモンは時間稼ぎと言っていた。ヨガン魔術師団が首都メソッドに入ることを恐れていた。だが、ヒーリアは首都メソッドに入らなければならない。何かが起こるだろう。



「キャロット、よくわからないがひとまず勝利だ、もう大丈夫だぞ」


「……」


 キャロットの反応がない。

 ヒーリアは魔術を見通す能力を使った。


「キャロットの魔力がない」


 キャロットは不死身だ。しかし例外がある。魔力切れの死からは逃れられない。すなわちキャロットは正真正銘の死を遂げた。


「それって…魔力切れでキャロットは…」


 それ以上ナイアは口に出せなかった。


「まさかスピリアまで」


 ヒーリアはスピリアに魔術を見通す能力を使った。何とか生きている。しかし魔力の流れが弱い。


 ヨガン魔術師団は団員を一人失い一人は重傷を負った。

 キャロットは兵士が連れていく。スピリアはヒーリアが連れていくことになった。


「首都メソッドに入る、何かが起きるかもしれない。覚悟はいいな」


 キャロットとスピリア以外の団員は覚悟を決めた。

 足を踏み込む。首都メソッドに。しかし、特に何も起きない。


 ファーランベルクが言う。首都メソッドに入ったこの瞬間、ヒーリア様、貴方は皇帝、ヒーリア皇帝となりました。しかし、魔王デモンのいう姫がメソッド城内にいる可能性があります。我がお供いたしましょう。

 皇帝となったヒーリアは護衛兵、そしてファーランベルクと共にメソッド城内に入城した。寝室から城内すべてを見回ったがもぬけの殻。


「姫とはいったい何者なのだ」


 ファーランベルク領党首、ファーランベルク・ロンギヌスは正式に首都メソッド皇帝、ヒーリア・ラプテットと同盟を結んだ。

 秘書にアルハザード・クロウリーを。

 そして数日後、皇帝となったヒーリアの元へミストリア姫が入城し正式にセインヅカ帝国とも同盟を結んだ。

 数日経過したが何事も起きずキャロットの墓参りを数日経ち起きたスピリアと皇帝ヒーリア、元ヨガン魔術師団員と共に。


「元ヨガン魔術師団員としてかけがえのない存在だった、彼女がいなければ死亡者も出ていたかもしれない。特にアルハザードとはよく組んでいたしな」


「そうですね、彼女の能力には驚かされましたが私と相性は抜群でしたね」


「キャロットさんがいなければ私は記憶を取り戻さなかったでしょうね…私と似たところもありましたね…」


 キャロットは生命力では最強だった。生きていたなら護衛兵になっていたのかもしれない。何らかのデモンの能力でキャロットは命を落とし何らかのヴァイトの能力を浴びたスピリアだがスピリアは変わりはない。



 翌日、秘書のアルハザードは休暇だ。終戦を迎え姫の正体がわからないのが納得いかないがヒーリアの秘書として働いている。ファーランベルク領、セインヅカ帝国と同盟を結んだ首都メソッドは安泰だろう。

 こうして首都メソッドは安泰を保つこととなった。


「そんなわけないんだよなぁー」


「誰だ」


 アルハザードの前に現れた人物、ついに何者かが動き出した。

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