第8話 決戦の時

 記憶の戻ったエリルにより撤退を開始するファーランベルク騎士団。暴風と蝙蝠の群れで総崩れだ。


「ヒーリア様、敵が撤退を開始しました」


「そのようだな、記憶が戻ったようだな、エリル」


「そのようです…私は記憶喪失になっていたのですね…すみません、ヒーリア様」


 血まみれのキャロットも戻ってきた。


「なに、お前はこの私が確かに討ち取ったはず」


 セルベールは確かにキャロットを討ち取った。しかし能力で復活した。

 ジンとナイアはその光景にキャロットは自己再生能力、不老不死系の能力だと理解する。


「エリル様…戻った…?」


「はい、戻りましたよ…迷惑をおかけしましたね、キャロットさん」


 そのほか戦場で戦っていたフレイ、アルハザード、スピリアも本陣へ戻ってきた。


「エリル様、記憶を取り戻したんですね」


「エリル様が戻ってる、よかったー」


「皆さんには迷惑をおかけしてしまいました…」


「大丈夫だエリル。元はと言えば禁術をかけたルセリオス姉弟が主犯なのだから」


 ナイアは何かを思い出したかのようにポケットから灰の詰まった袋をエリルに渡す。


「エリルさん、僕が灰にしてしまったドレイクです」


 エリルはその袋を大事に受け取る。


「ありがとうございます…灰になっても私のドレイクはドレイクなのですから…」


 大事そうに抱きしめる。


 こうしてファーランベルク先鋒のセルベール・サハトを捕らえたヨガン魔術師団達はセインヅカ帝国に帰還する。



 セインヅカ帝国帰還後、エリルの記憶喪失復活を祝う。


「ですが、ドレイクは失ってしまいましたね…」


「ごめんなさいエリルさん、それは僕が…でも聞こえましたよドレイクの声が」


「そうですか…貴方に託して正解でしたよ、きっと天国で感謝していることでしょう」


 エリルはナイアにドレイクに代わり感謝した。



 ジンとスピリアは二人で話している。ジンには信じられない光景が目に移ったからだ。


「スピリア、お前の能力は相手の能力を無効化する能力か?」


「んー、まあそういうことにしといて、内緒ね」


 そうなってくると辻褄が合わない。


「でもルセリオス姉弟を討ち取ったんだよな。能力を無効化する能力なんてどこで役に立ったんだ?」


「あたしの能力は能力だけじゃなくて攻撃も無効化することになってたりするかもね」


 なってたりするかもというあいまいな回答を出されるジン。


「なら攻撃手段はなんだ?」


「槍とか剣持ってたからねー、ルセリオス姉弟は。攻撃を無効化して武器を奪って殺害したって感じかもねー」


 またしてもはぐらかされるように言われるジン。


「本当なのか?」


「さあねー」


 キャロットの能力は判明した。しかし、スピリアは謎が深まるばかりだ。



 アルハザードとキャロットは。


「なるほど、君は不死の能力の持ち主だったわけだね。だから攻撃面では役に立たないけど防御面では最強ということだったんだね」


「そういうこと…」


「死なないゾンビといっても間違いではないね」


「例え方が怖い…」


「君の能力のほうが十分怖いよ」


「貴方の能力も…」


 お互い様である。



 首都メソッドを中心に南西に位置するのが古都ヨガン。北東に位置するのがファーランベルク領。北に位置するのがセインヅカ帝国。


 セルベールが捕縛されてからというもの長期にわたり停戦状態が続いた。その間にセインヅカ帝国の秘書だったネイシア・ネア、ミストリア姫より一つ年下という若さだが王子に返り咲きルセリオス派は激減。カナトス派は9割を占め、もう内部分裂が起きることはないだろう。セインヅカ帝国は安泰したといってもいい。

 両翼を失ったがゴルド、致命傷を失ったがガルドは生きている。

 大型の白い龍ホーリー、中型の水色の龍ミネルヴァがセインヅカ帝国の龍の象徴となった。


 さらに、ヨガン魔術師団、セインヅカ帝国からしてみれば決定打ともいわれる希望の手紙がファーランベルク騎士団の使者から送られてきた。

 ヒーリア、ミストリア、ネイシアはその手紙を読む。


『表上メソッド帝国と同盟関係を結んでいる仮党首、ケルエル・レイだ。我ら騎士団の偵察部隊がメソッド教団の現状を把握した。敵はデモン、ヴァイト、ギスタ、とあの魔王軍のデモンたちだが彼らにも弱点がある。禁術が全く効かなかったわけではない。彼らは弱体化している。さらにファーランベルク・ロンギヌス様の居場所を特定、メソッド城地下。さらにメソッド教団の兵力は我らファーランベルク騎士団の半数にも満たない。我々が10割なら彼らは二割だ。もし、ファーランベルク様を奪還することができればメソッド教団との同盟を破棄しヨガン、セインヅカ帝国連合軍と同盟を組むことをここに誓う。この話に乗るのであればセルベール・サハトを解放しセルベールの軍隊を率いてファーランベルク様の奪還を所望する。この戦いは長引けば長引くほどメソッド教団に兵力を増強させていることになる、早き決断を願う』


「どうされますか、ヒーリア様、嘘かもしれません」


「通達です。大群の騎士団が押し寄せてくる模様ですが敵対の意志はありません。セルベール・サハトの軍隊だと言い張っております」


「この話は本当かもしれないな、しかし弱体化したところで魔王に変わりはない。だが少しでも早く動かなければメソッド教団の戦力は補充される一方だ。よし、この作戦、敵の罠かもしれないが弱体化していない魔王デモンに勝ち目などない。よってこの作戦に乗るがミストリアとネイシアはどう見る」


「どうやらケルエル様も同盟はされていたものの完全に言いなりにはなっていなかった模様ですね、わたくしもこの作戦に乗ります」


「そうですね、僕もこの作戦には乗りますね、敵の罠かもしれませんが悪魔にどこまで効くかわかりません。しかし魔術を消滅する能力を持っている僕なら悪魔に触れられればたとえデモンですら魔術の使えないただの大悪魔に変わり果てることでしょう。ミストリア姫は戦場に出させません」


「なぜですかネイシア王子」


「姫様が命を落とされたら誰がセインヅカ帝国を治めるというのですか、僕は王子の身でも出身は首都メソッド。赴く理由はあります」


「それを言うのであればヒーリア様も同じことです、ヒーリア様が命を落とされたら誰が後を継ぐのですか」


「確かに私が命を落としたら継ぐ者はいないな、しかし、私は首都メソッドの姫、いや皇帝になる存在だ。そんな人物が戦場に赴かないなど無責任にもほどがある」


「では飛竜の竜騎士一人に賛同の使者を送るよう僕が指示してきますね」


「頼みましたよ、ネイシア王子」


 ケルエル・レイもただメソッド教団の言いなりになり魔王デモンの下に下った訳ではない。この通達が本当ならちゃんと考えている。この戦い。勝機はあるかもしれない。


 ヒーリアは捕縛されたセルベールに先ほどの通達を見せる。


「なに、ケルエル様が」


「お前の軍も到着しているうえに敵対の意志も見せない。ファーランベルク・ロンギヌス様奪還に力を貸すか?」


「もちろんだ、ファーランベルク様のためなら私は風の如く走り抜ける。それにこの執筆は確かにケルエル様のものだ」


「だがこれがケルエルやデモンの罠の可能性もある、お前に一人私のヨガン魔術師団の団員を付ける。裏切る可能性もあるからな。馬を貸してやってくれないか?」


「いいだろう、少しでも早めに出陣したほうがいいのではないか?兵力が増強される」


「確か先鋒部隊、速さには自信があったな、東から奪還を開始してくれ、私達は北から進行を開始する。今回はファーランベルク・ロンギヌスが奪還成功した前提で事を進める、お前にかかっているぞ、セルベール」


 ヨガン魔術師団、ネイシア隊とその竜騎士たち、セルベール軍隊の作戦は実行される。



 セインヅカ帝国に全員が集結した。


「スピリア、ちょっと来い」


「なんですかー?」


「お前だけは今回は別同隊としてセルベールと共にファーランベルク奪還作戦に乗じてもらう、セルベールを必ず援護しろ」


「なんであたしなんですか、ナイアきゅんとかのほうがいいような気がしますけど」


 今回はお前たちの軍にかかっているからな、奪還したこと前提で私たちは動く。


「やけくそじゃないですかー」


「それしか勝ち目がない、頼んだぞ」


「了解です」


「エリル、メソッド教団の現状は」


「まだ大きな動きはないようです…」


 精霊シルフィを使いメソッドの都市を監視させていたエリル。ヨガン魔術師団が出撃する。



「あれ、あたしたち出撃しなくていいんですかー?えーとセルベールさん」


「私たちはまだ出撃する必要はない、私たちは騎士なのだからなヨガン魔術師団より早く見つかってしまえば奪還はできない。ヨガン魔術師団の動きがばれ次第東から突破する、その馬は早いからついて来いよ」


「わかりましたー」


「同じく僕たち竜騎士も徒歩ではなく龍ですからね、空中なので早めに出撃する必要はないんですよ」


 スピリア、ネイシア、セルベールは馬、龍のため出撃を遅らせた。



 昼過ぎ、エリルのシルフィがメソッド教団の動きを捕らえた。


「兵士たちが北の門を集中的に守り始めました…」


「私たちに気づいたか、よしエリル、ブラッディをセルベールたちに送れ、出撃の合図だ」


 ブラッディはセルベールたちの元へと向かう。



「セルベール様、例の蝙蝠がやってきます」


「ん?出撃の合図ということか、よし私たちは東門からファーランベルク様を奪還する」


「では、僕たちも行きましょうか、ミネルヴァ」


「死ぬなよ、セインヅカの王子」


「お互い様です」


 スピリアとセルベール、ネイシア。ヨガン魔術師団とファーランベルク騎士団、セインヅカ帝国の結託である。



「魔王ではありませんがどちらかがメソッド北門から出てきました…上級悪魔のヴァイトかギスタかと…」


「まずは一体めか、まだシルフィは見つかっていないのだな、なら魔王デモンの居場所を特定できるか?」


「見つかる可能性は高いですがやってみます…」


 エリルのシルフィは魔王デモンの偵察に行ったらしい。


「その前に…北門に続々と騎士団がやってきますね」


「ケルエルたちの騎士団も合流したということだな、完全にこちらに注意が向いている」


「俺たちはどういう陣形で行くんですか」


「敵は弱体化しているものの魔王だ、さらには禁術を使う可能性もある、キャロットは前線だな、たとえ禁術でも魔力が切れない限り死なないからな」


「でもエリル様みたいに洗脳の禁術とか使ってくる可能性がありますよ」


「私が聞いたんですよ…ライラさんに。禁術にも種類があると…ルセリオス家が用いる禁術が洗脳、第三勢力…今となっては魔王軍ですね。魔王軍が用いる禁術が破壊の禁術だと」


「つまり洗脳の禁術を用いている可能性は低いということだな」


「シルフィが明らかに大きな悪魔を察知しました…おそらく魔王デモンかと…メソッド城から北へ向かっております…」


「ついに来たか…魔王」


 弱体化しているものの魔王デモン、ヒーリアは震えだす。だが臆している場合ではない。龍たちも合流する。そして見えてくる馬の影。ついに決戦の部隊が開かれる。

 ヒーリアたちは魔王デモンを倒しメソッドを奪還することができるのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る