第7話 蘇る思い出
ヨガン魔術師団はサレン山地へと足を運ぶ。2小隊の龍部隊を引き連れ。
エリルも記憶は戻っていないが連れていくことに。
龍に乗らせてもらうという手もあったがヒーリアのプライドがそれを許さなかったらしい。
山岳が広がる舞台、登ればサレン山地の高所に到着する。
「まだ時間があるな、ちょっと休もう」
カナトス2小隊は先に高所に到着した様子でヨガン魔術師団は一時休憩に入ることにした。
「今回の戦はファーランベルク騎士団だ、後々メソッド教団に捕縛されているファーランベルク・ロンギヌスが解放されれば同盟を締結できる。できれば殺さずにメソッド教団の情報を聞き入れたい」
「つまり殺さずに勝つってこと?」
「それが理想だな」
「ちょっとあたしの能力上苦手かも、あたしってやるかやられるかだから」
「私も苦手だな、私の能力炎だし馬は最悪焼き焦がしちまうし」
「今回も適任者はナイアかもしれないな」
「え、僕ですか?」
「そこらの石や岩を網に変えられるだろう、そして引っ掛かったところにジンの静止能力で回収、あるいはアルハザードの洗脳で回収。おそらく先鋒部隊のセルベールが突っ切ってくるだろう、狙いはセルベールだ」
「今回あたしの役目なしかなー」
「なら…私が出る…」
「そうか、今回は確かにキャロットの出番もあるな。キャロットを前線に立たせるか」
「待ってください、キャロットは後衛部隊なのでは」
「いつもは後衛だがな、やはりキャロットと組ませるのはお前だ、アルハザードが適任だな」
「私は洗脳ですか」
「いや、いつも通りゾンビを生成してくれればいい、足止めにはなる」
「ですがキャロットは前線の能力だったんですか?」
「どちらかというと前線だな」
「後衛かと思ってた」
「ジン、お前は今回はナイアと組め、だが問題は次だな。スピリアとフレイは絶望的に相性が悪い」
「あー、まあねー。というか殺さない前提ならあたしたち出番なくない?」
「最悪捕らえられなかったら討ち取るしかない、フレイ、お前はアルハザード、キャロットに着け。スピリア、お前はジン、ナイアに着け」
「最悪私たちが出るって感じですね」
「エリルは私と一緒にいような」
エリルは首をかしげている。
「よし、登るか」
ヨガン魔術師団は登山を開始した。
数時間後。所定の位置に着きいつ現れてもおかしくないファーランベルク騎士団。
カナトス小隊も身構えている。カナトス小隊の一人の竜騎士が伝達。ファーランベルク騎士団が同じくサレン山地の山の頂上で停留しているとのこと。
「さすがに馬鹿ではないか、先に動いたほうの負けだな」
「どうしますか?我々は龍があります、牽制攻撃をしましょうか」
「いや、あまり被害は出さない方向で行きたい。このまま睨みあいと行こう。長期戦になるな」
「了解いたしました」
にらみ合いは数時間続く。どちらか腰を切らせた方が負ける。
「こういう時にエリルのシルフィが役に立つというのに」
「はい?」
「いや、何でもないぞ」
改めてエリルの索敵能力のありがたみを知る。
精霊は小さい上に死なないからこそ近くまで接近でき敵の話し声も聞こえるが龍が近づけば一瞬でばれるだろう。
誰の指示かという手紙を竜騎士の一人に上から送らせるよう頼んだ。
竜騎士は恐らく遠くから手紙を預けてきたのだろう、戻ってきた。
相手の騎士団は遠距離攻撃を持たない。まず手紙を送る手段があるのだろうか。
当たりは暗くなってきた。視界が悪い。
さらに数時間経過。もう夜だ。ついに報告が来た。
「前方ではなく左右から多数の影を確認」
「夜の間に別同隊として分かれていたか」
しかし敵将は4人いる。もしかすると前後左右から包囲されている可能性がある。
「仕方ない、第一小隊の一人は前方、第二小隊の一人は後方を確認し残った小隊は本陣で待機。アルハザード、キャロット、フレイは左方向を、さらにフレイは前方も意識しながら、ジン、ナイア、スピリアは右方向を、さらにスピリアは後方も意識しながら戦闘態勢だ」
ヒーリアの指示に従う。視界が暗い。エリルは友好を深めたキャロット、フレイ、スピリアが別になってしまったため数的に友好を深めた仲が多いキャロット、フレイ側の左方向を見守ることにした。
アルハザードがゾンビを繰り出す。
後方を確認していた竜騎士が戻ってくる。
「後方に影はありません」
続いて前方を確認していた竜騎士が戻ってくる。
「前方から多数の足音を確認」
「3方向からか、総大将のケルエル・レイはどこだ、多分前方だろうな」
アルハザードから声がかかる。
「ゾンビがやられました、左方向から来ます」
「左からか、次は右、切り札は前方からくるだろうな、スピリア、後方はみなくていい、前方に気を配れ」
「了解ー」
アルハザード、キャロット、フレイ、そしてそれを見ていたエリル。
突然大群が押し寄せてくる。ゾンビだけでは太刀打ちできない。しかし地形の影響もあるのか速度は遅い。
「どうするんだこれ、焼いちゃっていいのか?」
「待ちたまえフレイ君、まだ距離はある」
距離は詰められていく。このままでは本陣に到着してしまう。
「ヒーリア様、もう押し切られる」
「仕方ない、フレイ、もう焼き尽くすしかない」
「了解です、食らえー」
それでもまだ大群は押し寄せてくる。
「まずい、もう近すぎる」
「私が出る…」
ここでキャロットの登場だった。
ジン、ナイア、スピリアは。
「足音が聞こえるな」
「来た感じかなー、まあ今回は役に立たないけど」
「陣形を崩してみるね」
そういうとナイアは持っていた石ころを大きな岩にして転がす。
反応はあった。馬の鳴き声は思ったより近い。
「ちょっと近くないこれ?」
ジンの出番ももうすぐかもしれない。
キャロットは躊躇なくアルハザードを守るように騎士団たちの前に立ちはだかった。キャロットが槍で刺されそうになるところをアルハザードは洗脳で操り他の騎士団と争わせた。次の瞬間物凄いスピードでキャロットを突っ切る馬が。四天王の一人。その誰かだ。キャロットは刺された。刺されたキャロットは血しぶきを上げその場に倒れた。
第一小隊と第二小隊はお互い左右にブレスを放ち牽制しているものの所詮小隊、大群の前に数をそぐことしかできない。左右から大量の騎士団が押し寄せる。そしてついに前方からも押し寄せてきた。
ジンとナイアは気づく。アルハザード達のいたほうから騎士がものすごいスピードでやってくることを。ナイアは自分の右側の守りを放棄しその馬が押し寄せてくる前に石ころを投げその石を網に変えた。ジンも遅れて静止能力を発動。その騎士は網に激突しているが網なのでダメージはないだろう。
「なるほどねー、これが静止能力かー」
ジンは驚く。
「お前、何で動けている、スピリア」
ジンの能力はありとあらゆる能力を静止させる能力。それは人間でも落ちている瞬間のコップでも精霊でも武器でもこの世の全てだ。にもかかわらずスピリアは話せるどころか当たり前のように動いている。もちろんナイアや他の人物は動いていない。
驚くが一分しか時間がない。スピリアとは話す必要がある。ジンは考える。スピリアの能力は能力の無効化?
俊足の騎士を下ろして当たり前のように動くスピリアと共に網に閉じ込めた瞬間静止能力が切れた。
「あれ?捕まってる?」
ナイアは驚くが静止能力なのを薄々理解し始める。
「あれー、あたしも移動してるー」
静止能力中に動いていたのにもかかわらず能力を悟られたくないのかとりあえず驚いてるふりをするスピリア。
ジンにはわからない。スピリアの能力が能力の無効化以外辻褄が合わないためジンの中でスピリアの能力は能力の無効化と決めつけた。
「スピリア、ちょっと後で話しないか」
「めんどくさ、まあいいや、わかったわかった」
ジンとナイアは二人で敵将らしき人物をヒーリアの元へと差し出した。
「捕らえたか、よくこの大勢の中でやってくれたな」
「くっ、何が起きている、私がこのような網などに引っ掛かるとは、まるで時が止まったかのようではないか」
「お前、名前は何という」
「お前はアクヌスの娘だな?」
「そうだ、答えたのだからお前も答えよ」
「私はセルベール・サハトだ、くっ、一人しか討ち取れなかったか」
「一人討ち取られたの?」
「嘘だろおい…」
「……誰を討ち取ったという」
「私は彼女を知らぬ」
「彼女…か、フレイ、キャロット、エリルも見ていたな…」
「アクヌスの娘、諦めろ。私を討ち取りこの戦に勝ったとしてもメソッド教団を相手に勝てる勝算はない」
「なぜ…言い切れる…」
ジン、ナイア、ヒーリアはセルベールは聞いた。謎だったメソッド教団の教団メンバーを。
キャロットは崩れ落ち息を引き取った。その光景をエリルは見てしまった。
優しかったキャロット、話すのは苦手そうだけどあまり強くなさそうで。誰かに似ている。誰だっただろう。
話すのは苦手であまり強くなく精霊を身にまとっている。無意識にエリルの金の瞳から水が零れ落ちた。
その精霊は見たことがある、隣にいる緑の精霊、黒い精霊、何かが足りない。またしても水が溢れ出す。
頭がガンガンする。
「あ…あぁぁぁぁ…あぁぁぁっ…」
キャロットからあふれ出ている赤い液体。そうだ、赤い精霊がいない。
「うわぁぁぁぁ…」
キャロットを失った。赤い精霊も失った。そんな少女は誰だっただろう。確か短髪の青髪をしていた。自分の髪も同じだった。確かキャロットからはこう呼ばれていたはずだ。エリルと。
「あぁ…そうだ、エリルは私だったんですか…ドレイクはもういないんですね…」
失った記憶がよみがえる。同時に忘れていたキャロットの能力も思い出した。
「シルフィ、ブラッディ」
エリルは全ての記憶がよみがえった。シルフィとブラッディはエリルに忠実に従う。
(戻られたのですね主)
(よかったです、エリル様)
(どうやら記憶を失っていたようですね)
(この我が力を捧げます)
(このブラッディもお供いたします、参りましょうシルフィ様、そしてエリル様)
「この主が命じる…シルフィ、ブラッディ、今こそ力を振るうのです…」
ヒュゥゥと鳥の鳴き声が。
キィィィと蝙蝠の鳴き声が。
それは突然の出来事だった。窮地に立たされたヨガン魔術師団達。緑の鳥と黒き蝙蝠は巨大化しその姿は前方から向かってくるケルエル・レイにも簡単に見て取れた。
「なんだあれは」
するといきなり強い向かい風が騎士団たちを襲う。
「暴風です、前に進めません、あの先陣を切るセルベール様でもこの風は…」
続いてどこからともなく蝙蝠の群れが騎士団をさらに襲う。
「なんだこいつ、近づくなー」
頭から払いのけようと必死な騎士団達。馬も混乱する。そしてついには暴風に耐えられなくなり一人、また一人と吹き飛ばされていく。
ついには総大将、ケルエルまで吹き飛ばされた。ケルエルは撤退の信号を放った。
アルハザードもキャロットの死を見てしまった。人の死は儚い。生命を操ることはできても死者を操ることはできない。キャロットは何の能力も使うことなく死を遂げたのだ。キャロットの能力は不明なままキャロットは死を迎えた。
それと同時に涼しい風が、それと同時に騎士団側からは圧倒的な風が送られる。蝙蝠たちはアルハザード達を守り蝙蝠たちは騎士団を襲う。
「この能力は、エリル」
キャロットの死を受け継ぎエリルの記憶が戻ったのだ。
エリルはキャロットの死というあまりにも残酷なショックを受けて記憶はよみがえった。だからこそ知っている。キャロットの能力を。魔力の消費が激しいそのキャロットの能力は死んでから効果を発揮する。自分を蘇生させる能力。魔力がある限り不老不死。何度死んでも蘇る、魔力がある限り。ただし、魔力切れはその対象に入らない。
キャロットは血まみれだが何も痛さを感じていないように立ち上がった。最強の自己再生能力。この能力を知っていたのはヒーリア含めスピリア、フレイ、エリル。
アルハザードは驚きを隠せないそしてようやく理解する。キャロットの能力が不老不死だと。アルハザードはスピリアを除き全員の能力を知ったことになる。
捕まったセルベールの言葉にジン、ナイア、ヒーリアは絶望の顔をした。
「私が知っているメソッド教団のメンバーは、ザガンド・ギスタ、トード・ヴァイト、エグゼクス・デモンだ」
一年前を思い出す、あの戦争。アクヌス皇帝、オードウェリーと愛龍セイン、そして魔王デモンとその側近ヴァイト、ギスタ。偶然であってほしかった。セルベールの言葉でさらに地獄に叩き落とされる。
「もちろん人間じゃない。あの魔王軍デモン様だ、逆らいようがない」
第三勢力など初めから存在しなかったのだ。禁術も全て魔王軍が仕込んだもの。自分の軍ごと壊滅させてアクヌス、オードウェリーともども灰と化したが上級悪魔のヴァイト、ギスタ、そして魔王デモンには効いていなかった。そもそも魔王軍が仕込んだ禁術。効かないこともわかっていたということになる。結果的にアクヌス、オードウェリー、愛龍セインを失った上にファーランベルクは人質に取られ同盟を結ばれ首都メソッドは魔王軍の手に落ちた。
魔王軍は首都メソッドを掌握する理由があるのだろう。
首都メソッドの民は今、魔王軍に支配されている。
メソッド教団が人間なんて生々しい考えをしていた上に魔王軍は滅んでいたと考えていたヒーリア達ヨガン魔術師団。新魔王勢力、メソッド教団に対して勝ち目はあるのだろうか。
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