第6話 メソッドの掌握者
洗脳されたエリルをルセリオス姉弟から奪還しルセリオス姉弟も討ち取ることに成功しセインヅカ帝国に移住させてもらっているヨガン魔術師団。しかし、肝心なエリルは気を取り戻したものの記憶喪失。
この事態にヒーリアは頭を抱える。
他の団員達も戸惑いを隠せない。
「大丈夫だよー、首都メソッドに行くまでには絶対に治るから」
自分に言い聞かせるようにスピリアは言い放ち見ていられなくなったのかその場から立ち去る。
「まずいな、後遺症は残ると言っていたが記憶喪失と来たか」
エリルが気を取り戻したことにより精霊シルフィとブラッディは復活するがエリルは不思議そうに見つめるだけ。
ナイアはドレイクの灰をエリルに渡そうとするが記憶喪失のためためらう。
「私はヒーリア、お前の名前はエリル・シェリスだ」
「エリル・シェリス、私はエリル」
「そうだ、明日からゆっくり覚えていこうな」
「わかりました、ヒーリア」
もう夜も近い、とりあえず今は冷静さを保たなければならない。睡眠を全くとれていない。
「とりあえずだ、今日はいったん寝よう、エリルに関しては明日考える」
「もしかしてエリル様を解雇とかしないですよね」
「心配するなフレイ、記憶がなくなってもエリルはエリルだ、捨てるような真似はせん」
その言葉を聞いてほっとしたのかフレイは就寝に就く。
疲れていたのか一足先にスピリアは眠っていた。
ジン、アルハザード達も就寝に就く。
「しかし困ったな、エリルは貴重な精霊使いで偵察もできる戦力だ。失うとなるとヨガン魔術師団の士気にも関わるな」
ヒーリアはただ考えるのである。
同日夜。そこは大都市、セインヅカ帝国も大都市であるがその大きさをも超える都市、首都メソッド。
影が見える、三人の影だ。顔は見えない。男の三人の声が聞こえる。
「ザガンドよ…ファーランベルク・ロンギヌスは生かしているだろうな」
「もちろんでございますエグゼクス様」
「トード…姫はどうしておられる」
「眠っておられます」
エグゼクス、ザガンド、トードと呼ばれる男性。
「まさか我が禁術によりニーグルス、エイグル他多数も巻き込まれるとはな。決して我々メソッド教団が兵力不足だということを悟られるなよ。そのためにファーランベルクを使い同盟を結んだのだからな」
「承知いたしました、エグゼクス様。朝方、同盟国同士であったヨガン魔術師団とセインヅカ帝国が戦闘を開始していた模様。結果的に言いますと和解したよう通達を受けていますがセインヅカ帝国のセイン・ルセリオス、ライラ・ルセリオスが死亡しております」
「ふむ、潰しあってくれるのは好都合だな、ヨガン魔術師団の死亡者は?」
「魔術兵士以外出ておりません、敵将は誰一人として」
「ふん、そうかザガンドよ。ヨガンから死者が出てほしかったがな。トードは姫を確実に守り抜け、姫の言うことはこの我の言うことよりも絶対だ、失敗は許されん」
「もちろんでございます、我々メソッド教団は姫様のために尽くす限りでございます、メソッドに再興を」
「ザガンド、貴様はこの首都メソッドを収めておけ、表上兵士不足がバレるのはまずいからな」
「承知いたしました、エグゼクス様は?」
「我はファーランベルクの者たちにヨガンを潰すよう指示を出す、我が赴けば従うだろう。トード、貴様は姫をお守りしろ。姫がお亡くなりになられれば我々は無価値同然なのだからな」
「もちろんでございます、一番の大役はこの私、トードでございますね」
「そうだ、国を治めるよりも、ファーランベルクを指揮するよりもトード、貴様の役目が一番重要だ。我が姫に栄光あれ」
翌日、ヨガン魔術師団一行は目を覚ました。
もちろんエリルの記憶喪失は治っていない。
フレイ、キャロット、スピリアはエリルと会話し少しずつ慣れさせていく。エリルはフレイ、キャロット、スピリアの名前は覚えたらしい。
ジン、アルハザード、ナイアは蚊帳の外だ。
ナイアは大事にドレイクの灰をポケットにしまっておいた。記憶が治ることを祈って。
「エリル君と話せないねこの流れは、私たちはどうするかね、ジン、ナイア」
「初めてのセインヅカ帝国での休暇だっていうのになんかいい気分じゃないよな」
「記憶喪失って治す方法ないのかな」
「頭をぶつけたりしたら治るって聞いたことあるけど」
「ジン、やらないでよ?」
「やらねぇよそんな真似、記憶喪失か」
「私の洗脳術をずっと受けてきたような状態ということだからね、それを考えると私の能力も禁術の劣化版になってしまうね」
セインヅカ帝国の街の人間はジンたちを嫌そうに見る目と歓迎しているように見る目二つに分かれている。一方はルセリオス派、もう一方はカナトス派なのだろう。
するとジンたち三人の前に水色の龍が現れる。ホーリーよりも小型の龍。その龍から男性が下りてくる。アルハザード達より年上の大人だ。
「銀髪の眼鏡、君がアルハザード君かな?ということはヨガン魔術師団の方々かな?」
「はい、私はアルハザード・クロウリーです」
「初めまして、正確にはお久しぶりが正しいのかな、僕はネイシア・ネア、この龍はミネルヴァ。僕も一応首都メソッド育ちだったんだよ。能力は使えるけど君たちメソッド生まれの魔術師とは相性が悪いからね」
「相性ですか」
「僕はセイン・ルセリオスに変わりミストリア姫の秘書をすることになったんだ、僕はカナトス派だから安心して」
カナトス派の秘書、ネイシアは三人を龍に乗せた。向かった先はミストリアのいる方角。
「連れてまいりました、ヨガン御一行です」
そこにはヒーリアとミストリアがいた。
「来たか、アルハザード、ジン、ナイア。説明しとかないとな。他の三人は恐らくエリルのところにいるだろう。彼はもともと首都メソッド育ちだった。しかし彼の能力は忌み嫌われ首都メソッドから迫害された」
「どういうことですか?」
「僕が説明します。僕の能力は相手の能力を消滅させる能力。魔術師団にとっては天敵ですね」
「えっと、それってつまりどういうことですか?」
「例えば僕がヒーリア様に使ったとします。そうしますとヒーリア様は能力を失います。魔力を失い魔術師でも何でもないただの兵士になってしまうということです」
「魔力を失ったら即死するんじゃ」
「それは魔術師だからだ、ネイシアの能力は魔術師というクラスごと消滅させる、言ってしまえば今街を歩いている一般人と同じになるということだな。そして迫害された彼を救ったのがオードウェリーだったということだ、あの一年前の戦争の時もメソッドではなくセインヅカ帝国にいた人物だ。魔術は選べない。人によって決まっている。捨てることができない。しかし人によっては最大3つまで魔力、能力を保持できるとのことだ、増えれば増えるほど魔力も増大する。生憎私はまだ魔術を見通す能力しか持っていないがな、いつか二つ開花するときも来るかもしれない。それはお前たちにも言えたことだ」
「そういわれてみれば学校でも最大三つまでと学んだこともありますね」
「そうだ、もしかするとアルハザード、お前は前線で戦える能力に覚醒する可能性もあるということだ。覚醒条件は人によって違うらしいがな。ちなみに今のヨガン魔術師団のメンバーで総合的に見て一番魔力を保持しているのは誰だと思う?回復力などもすべて含めるぞ」
「俺は能力不明なスピリアかキャロットのような気がするな」
「僕もスピリアさんな気がします」
「私は案外フレイ君かと思っています」
「全員外れだ、一番魔力を持っているのはエリルだ、エリルには精霊の加護という莫大な自己回復能力を併せ持っている」
「言われてみればいつも精霊を身にまとっていますね」
「精霊の加護を抜きにして考えるならそうだな、アルハザードが一番魔力を持っているな」
「私でしたか」
「そういえばヒーリア様、何で俺たちにスピリアやキャロットの能力を教えてくれないんですか?」
「それは僕も気になります」
「保険だ、特に大した能力でもないしな」
「でもスピリアさんセインさんとライラさん二人を討ち取ってますよね?もう二つ目の能力に目覚めているのではないですか?」
「いや、私が昨日能力で確認したが二つ目の能力には目覚めていなかった」
「僕には二つ以上能力を使ってるように見えましたね」
「確かにスピリアの能力は汎用性が高いからな、そうみられてもおかしくない能力か、もし覚醒していたなら魔力の流れが大きく変わるから私でも気づく、誰かが覚醒したらその時は教えるつもりだ」
ミストリアとネイシアが聞いていると兵士が通達に来た。
「どうされましたか?」
「ミストリア姫、ファーランベルク騎士団が進行してくる模様です」
「敵の数は」
「敵将は四人ファーランベルク四天王リーダーのケルエル・レイ、そして先鋒部隊セルベール・サハト、参謀、サガイ・ナルサール、中堅、リュッカ・ウォンティヌスです」
「四天王全員を出してきましたか」
「魔術師団にとって騎士団は厄介だな、特に先鋒部隊、セルベール・サハトは前線が少ない私達にとっては不利」
「それではヒーリア様、わたくし達と共闘しましょう」
「いいや、ミストリア姫は戦場に出させない、私たちで対処する」
「なぜですか?今こそ同盟をした中、共闘するときではないですか?」
「お言葉ながら、僕もそう思います」
「確かに、しかし、今セインヅカ帝国はカナトス派とルセリオス派で内部分裂が起きている。戦場に出てしまうと逆にルセリオス派に裏切られミストリア姫の命が危ない。ここは側近のネイシアとミストリア姫はセインヅカ帝国を治めることを第一に考えてほしい」
「ですがわたくし達なら空からの攻撃をすることができます」
「だがミストリア姫とネイシアは戦場に出させない」
「わかりました、ではわたくしたちの小隊2部隊を向かわせます。この2部隊は間違いなくカナトス派です」
「他にもカナトス派の小隊がいてミストリア姫を守る兵士はいるのだろうな?」
「はい、問題なくいます」
「よし、それなら交渉成立だ。その二部隊だけ借りさせてもらう。空からの攻撃だけで十分だと伝えてくれ」
「わかりました、では小隊を二つ貸し出します。遠慮なく使ってください。これも禁術を使った罪滅ぼしなのですから」
「到着予定時刻は」
「半日後だと思われます」
「12時間後か」
「でしたらヒーリア様、この近くにサレン山地がございます、上から一方的に攻撃を仕掛けるのはどうでしょう」
「なるほど、地形利用か。やはりファーランベルクとの戦闘は避けられなかったか。よし、全軍に伝えよ、目標はサレン山地、ファーランベルク騎士団を迎え撃つ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます