第5話 残酷な結末

 白い龍、ホーリーの咆哮。ライラの相手にもされないジンとフレイ。それほど力の差は歴然だった。ジンは能力を使いブレスを躱すことしかできずフレイの攻撃はガルドに躱されることしかなかった。

 ライラはミストリアの乗るホーリーに向かってガルドを進める。

 ジンとフレイは追いかけようとするも竜騎士たちに道を阻まれる。


「くっそー、私たちは無視かよ。絶対ギャフンと言わせてやる」


「その前にこの竜騎士たちを何とかしないとな」


「足は引っ張んなよ」


「わかってるよ」


「雑魚に時間をかけてる暇はないんだよ」


 ジンとフレイの共闘で竜騎士たちの一掃が始まる。



 アルハザードが竜騎士たちを洗脳している中キャロットが合流する。


「まずいね、魔力の限界が達しているよ」


「今の私には…アルハザードの盾になることしかできない…」


 キャロットの能力は不明だが防御系の能力なのだろうか。

 竜騎士たちは減ってきたがまだ数はいる。洗脳はしているものの洗脳された龍も抵抗はしている。その抵抗でどんどん魔力が消費されていく。魔力が0になると即死してしまう。

 竜騎士たちが全滅するのが先か、魔力が限界に達するのが先か。



「ライラ、貴方たちがしてきたことがどれだけの重罪か理解しているのですか?それを承知の上でライラに従っているというのですか」


「なら俺たちルセリオス家が変えちまえばいい、禁術を使ってもいいってルールにな」


 ガルドはミストリア兵の龍を焼き焦がす。


「ミストリア、お前に勝ち目はねぇぜ、兵力の差、そして何より俺のガルドと姉ちゃんのゴルドのほうが純粋にホーリーより戦闘能力が高い」


 ホーリーは火が吐けない。ホーリーは口から光弾をライラに飛ばす。


「そんなちゃちな攻撃に当たるか」


 ガルドはホーリーに急に近づいたかと思うとホーリーに嚙みついた。

 ホーリーは苦痛の叫びをあげる。さらにそのホーリーにライラは槍を突きさす。ホーリーは落下する。


「ホーリーっ」


 必死にガルドに抵抗するホーリーだったがガルドの尻尾による叩きつけによりホーリーは叩きのめされる。

 ホーリーは地面に光弾を放ちホーリー自らもダメージを食らいつつもガルドの噛みつき、ライラの槍の突き刺しを衝撃で一旦回避した。その衝撃でホーリー、ガルドは突き飛ばされる。しかしホーリーはボロボロで勝ち目がない。



 一方、スピリアを打ち取ったゴルド、セインは。


「大したことなかったな、次に危険なのは能力が不明のキャロットか、まあ良い、後方にいる当り強化系魔法だろう。我がゴルドの敵ではないな」


 セインは洗脳したエリルに挟み撃ちにされたナイアを見つける。


「次の標的はあやつにするか」


 するとゴルドが咆哮を上げる。


「ん?ガルドがホーリーと戦っているといったところか?ホーリーに勝ち目などあるまい、ゴルドよ、ホーリーはガルドに任せてナイアを潰すぞ」


 またしてもゴルドは咆哮を上げる。


「どうしたのだゴルド、何をやっている。行くぞ」


 セインは事態に気づく。セインのゴルド、左翼から鮮血が舞っていることに。その翼は両断された。ゴルドはバランスを崩し、降下し始める。

 さらに次は右翼が両断される。ゴルドの翼は完全になくなり急降下する。

 セインの目の前から、正確にはゴルドの顔を両断して中から血まみれの人が姿を現す。スピリアだ。


「エリル様をさらった主犯者って言うことでいいんだよねぇ?ルセリオス」


「なんだお主、我のゴルドに何をした」


「質問してるのはこっちなんだけどなー」


 ゴルドは地面に激突した。スピリアはセインを人質に取った。


「エリル様に命令してよ、ドレイクをナイアに近づかせるように」


 凶器も持っていない子供に完全に人質に取られるセイン。


「できないならそうだなー、手から両断されたい?足から両断されたい?それともいっその首からいっとく?」


 実際にスピリアはゴルドの両翼を何らかの能力で両断している。


「嚙みちぎられたのではなかったのか」


「あたし気が早いから早くしないと両断しちゃうよー」


「くっ、こんな小娘に…エリルよ、ドレイクをナイアに近づけさせろ」


「……」


 エリルは黙って頷く。エリルの視線はナイアからドレイクに移った。ドレイクがナイアに近づいてくる。



 ナイアの手持ちは石ころ3つ。最大3回のブレスを防ぐことができる。

 するとエリルの視線がナイアからドレイクに変わった。ドレイクもエリルを見つめている。ドレイクはナイアに近づいてくるのだ。

 ドレイクには爪もある。ブレス攻撃から近接の爪攻撃に変わるのかもしれない。そうなるとナイアに勝算はある。爪攻撃してくるときに石を堅い鉄に変え、その隙を狙いドレイクに触れ灰に変える。

 ドレイクの咆哮。怯んでいる時間はない。ナイアは咆哮を押しのけドレイクに全力で走り抜ける。

 巨大化したドレイクがナイアではなくエリルに顔を近づけてくる。ナイアはついにドレイクに触れた。考えている余裕はない。ナイアはドレイクを灰に変える。ナイアはドレイクを見た。エリルは今では灰と化したドレイクを撫でていた。それと同時にエリルは倒れた。灰になったそのドレイクの方向から脳を伝って誰かの声が聞こえてくる。


(感謝するぞ人間。姫をよろしく頼む)


 その声は人の声とは思えない。


「ドレイクの声?」


 ナイアは倒れたエリルの元へ近づく。意識を失っているようだ。周りには無数の灰が散らばっている。ナイアは石ころを袋に変えできる限りドレイクだったその灰を掬うのだった。



 巨竜ドレイク、そのドレイクはホーリー、ゴルド、ガルド、それ以上の大きさを持っていた。その龍が消えたことにより戦況は一変。


「なに、我の洗脳したドレイクが、ゴルドももう動けぬ」


 そして隣の血を帯びた少女の言葉がセインの最後だった。


「エリル様に手を出すなんて身の程をわきまえろ」


 その言葉を最後にスピリアの何らかの能力でセインは両断された。

 スピリアはセイン・ルセリオスを討ち取った。



 ホーリーに圧倒的有利を取っていたガルド、ここでガルドに異変が訪れる。急にガルドはホーリーとの戦闘を放棄する。


「どうしたガルド、どこ行く気だ」


 ガルドは向かうのはドレイクとゴルドのいるであろう戦場。しかしドレイクの姿がない。さらにゴルドは地面に倒れている。そして姉のセインすら倒れている。その横にいたのはスピリア。


「あいつまさか姉ちゃんを」


 スピリアはガルドに気づくと人間とは思えないジャンプ力でガルドに近づく。それを言い表すなら魔術以外考えられない。


「スピリアの魔術は身体能力を上げる能力だったって訳か」


 ガルドの上に飛び乗るスピリア。そしてライラはスピリアの言葉が最後となった。

 最後の最後にスピリアの本当の能力を知るのであった。


「お前も同罪だライラ・ルセリオス」


 ライラは真っ二つにされスピリアに討ち取られた。金色のガルドは赤き血の龍となり地面に激突する。まだ命はあるようだ。



 本陣前でミストリアの援護部隊の指揮をするヒーリア。しかし、肝心のガルドは撤退していった。


「ヒーリア様、伝令です」


「どうした」


「ナイア・シリウスがエリル・シェリスの奪還に成功した模様」


「よし、目標は達成されたな」


「また、敵の総大将、セイン・ルセリオスはスピリア・ランフォードにより討ち取った模様です」


「なんだと、スピリアの能力でセインを討ち取れるだと?そのレベルでスピリアの能力は強い能力ではなかったがな、いや逆か、セインが戦闘慣れしていなかったのか」


 能力を把握しているであろうヒーリアすらスピリアに謎を抱き始める。


「さらに伝令です」


「どうした、悪い知らせか」


「ライラ・ルセリオスもスピリア・ランフォードにより討ち取られた模様です」


「スピリアにそれほどの力があったか?それに続けて二人もの強敵を。魔力の消費も場合によっては大きいはずだ。それだけ魔術の扱いに長けてきたということか。それとも地上戦ならば納得するのだがな。飛ぶことなんてできないのだから」


 ミストリアがヒーリアの元へと帰ってくる。


「全軍撤退していきました」


「どうやら私の軍がセインとライラを討ち取ったらしい」


「セインとライラを…しかし、彼女たちはどちらにしても禁術を使った重罪にかけるつもりでした。公開処刑をしてもかまわないと、討ち取られたのは納得いきませんね」


「おそらくセインヅカ帝国では内乱が起きる可能性がある。ルセリオス派とタナトス派による内乱、それもある、だからこそ私達ヨガン魔術師団との同盟は破棄せず内乱を治めるためセインヅカ帝国に迎え入れてくれないだろうか」


「確かに内乱は避けて通れませんね、分かりました。わたくしたちセインヅカ帝国はヨガン魔術師団を迎え入れます」


 こうしてヨガン魔術師団はセインヅカ帝国に迎え入れられることとなった。

 ゴルドは両翼を切断されガルドは背中に大きな傷を負っているが死んではいないため治療をすることに。

 ホーリーはオードウェリーの愛龍セインを含めたどの龍よりも再生力が高いため明日には完全に回復しているだろう。



 セインヅカ帝国、首都メソッドの次に大きな発展都市、その城の一角にヨガン魔術師団を迎え入れた。

 ジン、フレイ、アルハザードは疲れ果てているため休憩を、キャロットは特に疲れていないためお菓子を食べている。

 ナイアはエリルを抱きかかえていたためそのエリルをベッドに寝かしつけた。

 スピリアは血まみれになっているためシャワーを浴びる。



 ヒーリアはやはり何か納得がいかない。シャワーを浴びた後にスピリアを呼び出す。


「スピリアちょっと来てくれ」


「どうしましたか」


「お前はどうやってルセリオス姉弟を倒した?」


「能力を使ってですよ」


「しかし龍だ、相手から降りてくるとは思わないが地上で戦ったのか?」


「あたしの能力忘れたんですか」


「自分を武器にする能力だろ」


「あの時と同じですよ、味方にあたしという杖を持たせてその弾を上にめがけて撃たせて竜騎士のところまで着地。炎の弾になったあたしは上に飛べてあとは武器になればいいだけですよ」


「となると辻褄がやはり合わない。お前は銃や杖には慣れるが他の銃や杖にはなれない。一年前の禁術、相手に銃や杖を持たせてその弾速で逃げ延びたとでもいうのか?まるで禁術が発動するのがわかっていたかのようだな」


「たまたま味方の杖になっていたあたしがその味方が慌てて逃げだした矢先風の魔術を禁術と逆方向に打ってくれたから何とか風弾でその場から逃げられただけですよー」


「それが本当なら爆発の速さより風の魔術のほうが速度が速いということになるな。お前の能力は本当に自分を武器にする能力か?できすぎていないか」


「ヒーリア様は自分の魔術を見通す能力を疑っているんですかー?」


「そういうわけではないがなにか裏があると思ってな、まあ結果オーライというところか」


「そうですよ、勝ったんですからー」


 ヒーリアはスピリアに不信感を抱き始めていた。



 ライラはヨガン魔術師団だったが実際はセインの刺客。そしてスピリアによって殺された。ヨガン魔術師団の正規メンバーが集まる。ジン、ナイア、アルハザード、キャロット、フレイ、スピリア、ヒーリア、そして今眠っているエリルだ。

 7人はエリルの状態を見る。数分後、エリルは目を覚ます。ヨガン魔術師団に囲まれたエリル。


「エリル様、ご無事でしたか」


「よかったー、エリル様」


「エリル様…」


 エリル親衛隊3人衆フレイ、スピリア、キャロットはエリルに近づく。そしてエリルは不思議そうに尋ねるのだった。


「誰ですか…」


一同は唖然とする。


「あたしだよ、スピリアだよ?」


「フレイだよ、エリル様、まさか…」


「記憶喪失…」


「初めまして、エリルというのですね…私は」


 エリルを奪還することに成功した。しかし訪れていたのは残酷な結末だった。


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