第4話 奪還作戦開始
戦いの幕は下ろされた。
ヨガン魔術師団の狙いはエリルの奪還
対してセインヅカ帝国、正確にはルセリオス家の狙いはヨガン魔術師団とセインヅカ帝国の関係を悪くしカナトス家の信用を落とさせること。そしてセイン・ルセリオスが姫の座に就くこと。
一方ミストリアの狙いは反逆してきたヨガン魔術師団の真偽を確かめること。
一番有利なのはルセリオス家。なぜなら切り札のエリル・シェリスという洗脳兵がいるからだ。
セインヅカ帝国前でセインは報告を受ける。
「セイン様、ミストリアが動き出した様子です」
「ふっ、好きにさせておけ、何も事情を知らないくせによく動けたものだなミストリア」
「姉ちゃんどうする、俺行こうか?」
「戦況はどうなっておる、我が弟よ」
「ヨガンの前線はフレイとスピリアとナイアが猛進してるってさ」
「能力は何だったか」
「フレイが炎使いでナイアが確か物を違うものに変える能力、スピリアってやつがわからねぇんだよな」
「前者の二人は敵ではないな、問題はスピリアとやらか。スピリアにエリルを当たらせ我らは炎使いと物を変える魔術師をやるぞ」
「それがスピリアがナイアと一緒にいてフレイが単独行動なんだよな」
「我がワイバーン隊のブレスでスピリアとナイアを孤立だ。能力がわからない以上エリルを使ってスピリアの能力を暴き出す。スピリアには近づけさせるな。我らは龍だ、空からの集中砲火だ。もう一人いなかったか?能力がわからないやつは」
「キャロットだな、前線には出ていないな」
「そのキャロットも危険だが後衛か、強化系魔法かもしれんな、それよりもあふれ出てくるゾンビを片付けたい」
「そいつはアルハザードだ、能力は生命を操る能力だった気がするな」
「我らでも操られる可能性があるということか、だが射程範囲はあるだろう。主力部隊はキャロットとやらに空から集中砲火を浴びせよ。ワイバーン小隊はアルハザードに空からの攻撃。ライラよ、我らはひとまずフレイを仕留めるぞ。空中にいることはない、我らの力なら瞬殺だ、地上戦でさっさと片付ける」
「おっけー、姉ちゃん」
ヒーリアの本拠地では。
「敵の動きはどうだ?」
「空からの攻撃でまともに攻撃が当たりません。高低差で不利です。スピリア、ナイア隊が空からの攻撃により被害を、同じくアルハザード、キャロット部隊も空からの集中砲火、セイン、ライラ隊はフレイ隊に直行しています」
「よし、とりあえずジン、お前はフレイの援軍に行け。一番の危機はフレイだ」
「俺が役に立つのか」
「時を静止できるのだろう?フレイが攻撃に当たりそうになったら静止させて抱きかかえてでも回避させられるだろう」
「バレたら火あぶりにされそうですけどわかりました行ってきます」
フレイは一人奮戦していた。すると大将セインと敵将ライラがフレイの元へと現れる。
「嘘だろおい、私のところに来るのかよ」
「フレイだったな、初めましてだな、我はセイン、炎の魔術師か、我のゴルドのブレスと力比べでもしようではないか」
「舐めるなよ、おらぁー」
「ほう、ゆけ、ゴルド」
グルルルルァ
フレイの炎とゴルドのブレスが重なるがゴルドのブレスは圧倒的。
「燃やされるっ」
しかし燃やされるはずのフレイは別の場所に立っていて回避していた。まるで時が止まっていたかのように。
「ジンか」
「おう、フレイの援護に行けってよ」
「礼は言ってやるけど私を動かしたってことだよな?変なことしてないよな」
「そんなことしてる余裕ねぇだろ」
「ここは余裕だな、ライラよ、任せたぞ」
「おっけー、姉ちゃん」
フレイ、ジン対ライラの戦いは始まる。
「セイン様、ホーリー部隊はヒーリア率いる本陣に直行している模様」
「ミストリアは馬鹿げたことを、死ぬ気か、我にとっては好都合だがな」
「恐れながらセイン様、ナイア、スピリアを集中砲火していた隊が全滅しました」
「なに?空中から放っているのに全滅しただと、スピリアの仕業だな、空中移動をできる能力かもしれん、エリルはどうした?」
「スピリア、ナイアともに手を出してこない模様」
「まあ出せぬだろうな、スピリアを集中的に狙うようにエリルに指示を出せ、我とエリルでスピリアを潰す」
「了解いたしました」
そのころスピリアとナイアは。
「スピリアさんすごいジャンプ力だね」
「まあねー」
「もしかして空中系の能力だったりする?」
「油断してると敵が…」
そこでスピリアとナイアは蒼ざめた。前進してくるのはエリルだったからだ。ゆっくりと巨大化した精霊、ドレイク。もはやドラゴンである。ドレイクと共にスピリアたちの元へと歩みだす。
二人は一歩、二歩と下がる。エリルの登場により立場は逆転。エリル率いる竜騎士の群れに防戦する二人。
エリルとドレイクは近づいてくる。ドレイクのブレス。とっさにナイアは石ころを巨大化させブレスを回避した。
「エリル様、あたしだよ、スピリアだよ?」
「……」
「僕だよ、ナイアだよ、エリルさん」
「……」
「無理…さすがにあたしでもエリル様には勝てる気がしない…」
エリルがドレイクを守るようにしてたたずんでいる。ドレイクがエリルを守るようにたたずむのではなくエリルが前にいるため難易度が急激に上がっているのだ。ナイアの能力は物質を変える能力、ドレイクを灰に変えなければ洗脳は解けない。しかし発動条件としてドレイクに触れなければならない。ドレイクは遠距離攻撃のブレスも持っている。迂闊に近づけないのだ。
「エリルさんの好きなものとかで誘導とかどうですか、なにかわからないんですか?」
スピリアはエリルのことを年下ながら慕っている。フレイやキャロットより慕っている自信すらある。しかしナイアの言葉に気づかされた。スピリアはエリルのことをあまり理解していない。いいや違う、踏み込めないのだ、慕っているからこそ踏み込みすぎて嫌われるのを恐れている。悔しいが答えは無言。わからないことを意味する。
「こうなったら…ナイアきゅん、あたしは空も飛べるからエリル様の反対側方向からくる竜騎士の龍奪うからその龍でドレイクに直行して」
「空を飛べる能力」
「そういうことにしといて、内緒だよ」
「わかりました」
「じゃああたし龍奪ってくるからあたしじゃなくてエリル様を見守っててね」
「了解です」
エリルは兵士に何かを命令される。エリルの視線がナイアからスピリアに変わった。エリルはゆっくりと右手をスピリアに指さして言うのだ。
「や…れ…」
ドレイクはエリルの指示に従う、ナイアからスピリアの視線を変更する。ドレイクは上を向いている。龍を乗っ取ったのだろう。完全に相手にされないナイア。ドレイクはスピリアめがけてブレスを吐く。乗っ取った龍はいうことを聞かずただブレスに焼かれる。
完全に相手にされていないナイアはエリル、ドレイクの目を盗み見てドレイクめがけて走りこんだ。あと数十歩。しかしそこで破壊力抜群のブレスがナイアの足を止める。他の龍とはけた違いに大きい黒い龍、ゴルドだ。
「エリルよ、ナイアとやらの注意も怠ってはならんぞ、まあ良い。エリルはナイアをやれ、我はスピリアを潰す」
「……」
エリルは無言で頷く。
エリルとドレイクに挟み撃ち状態でナイアは標的にされてしまった。ナイアの持ち物は石ころ三つ。
全く言うことを聞かない龍に乗ってスピリアは黒き龍の元へと導かれるように到着する。
「ほぅ、我が龍を盗みよったか、空を飛べる能力と見た、大したことはないな。ゴルドよ」
グルルルルァッ
と咆哮を上げるとスピリアの乗っていた龍はゴルドに近づいていく。
そして龍はゴルドの横で停止した。スピリアはセインめがけて攻撃しようとしたとき。
「嚙み殺せ」
セインの龍、ゴルドはスピリアをかみ砕いた。ゴルドの口から鮮血が舞う。
アルハザードのゾンビでは空を飛ぶ龍には太刀打ちできない。アルハザードは生命を持つゴーストを繰り出したが龍に到着する前にブレスで焼かれてしまう。一人の竜騎士がアルハザードめがけて突進してくる。しかしそれは大きな間違いだった。アルハザードの射程範囲内に入った。アルハザードは生命を操る能力者。突進してくる龍の生命を操ることに成功した。
その龍は急に反転し仲間の龍たちにブレスを吐く。気が狂ったかのように仲間の龍に体当たりしては仲間割れが始まった。その龍は他の龍をアルハザードの近くに持ってきた。さらに射程範囲内に入った龍はまたしても操られる。一匹、二匹と徐々に操られる龍は増えているものの弱点はある。
その射程範囲内でしか洗脳はできないのだ。ゾンビやゴーストのように自分で出す分には範囲は関係ないが洗脳には条件が付いてくるのが弱点でもある。
キャロット率いるキャロット隊。魔術師たちが龍を狙い撃つが躱される。キャロットは魔法も使うことなく何もしない。龍のブレスで一方的に被害を受けているだけ。キャロット隊が全滅してしまうと本陣ががら空きになる。追い打ちをかけるようにキャロット隊に唐突に猛進してくる巨大な白い龍。しかしその部隊は攻撃は仕掛けてこない。
「ヒーリア様、ホーリーです、ミストリア姫がこちらに向かってきます、キャロット隊に対して攻撃の意志はみられませんが」
「念には念をだ、キャロットだけ私の隣にいさせて会談を行う」
「了解しました」
白い龍、ホーリーを守るようにセインヅカ帝国のミストリア率いる軍は降り立った。
「ミストリア姫を通せ」
「承知いたしました」
すると護衛兵二人に囲まれた金髪の姫君、ミストリアとヒーリアは対談する。ヒーリアにはキャロットがついている。まずはミストリアから口を開いた。
「同盟破棄とはどういうことですか?」
「同盟を破棄するようなことをしたのはお前たちセインヅカ帝国のルセリオス家だぞ」
「ライラが何かしたのですか?」
「何も聞かされていないのか、お前たちセインヅカ帝国が私達ヨガン魔術師団のエリルをさらったことも、禁術で今洗脳していることも、ルセリオス家がカナトス家を陥れようとしていることも」
「そんな汚い真似を、禁術…禁術などわたくしたちは携わっておりません、秘書のセインも関わっているということですか?」
「そうだ、刺客がライラ、主犯はセイン・ルセリオスだ。こんな真似をされたら黙っていられんだろう」
「そんな…さらった挙句禁術にまで手を染めていたなんて…」
「しかしミストリア姫、この話は嘘かもしれません、ライラ様は命からがら逃げてきたといっておりますしそのエリルという人物も見かけておりません」
「私たちが理由もなく嘘を吐き同盟破棄までする理由がないだろう」
「もしその話が本当だとするのならルセリオスにはさらった罰、そして何より禁術を使った重罪、セインヅカ帝国のわたくしにも罪があり、姫を退位するでしょう」
「なら誰が姫を継ぐ、この件にミストリア姫は関わっていないとさらわれた張本人から伝達が届いた。ルセリオスの狙いはまさにミストリアの姫の退位だ、この件は伝達がなければ気づかなかった。伝達が少しでも遅れていたら先に洗脳されこの事実もわからずルセリオスの思うつぼだっただろう。だからこそ今のセインヅカ帝国で戦っている竜騎士たちはこの事実を知らないかもしくはルセリオスに服従している。汚名返上したいというなら共闘し、ルセリオスを打倒するのが筋だろう」
「しかし決定打が…その方を見ていませんし、わたくしがこの戦争を止めます。このような争いは無意味です。真実だというのならわたくしがその真実を伝えなければなりません、しかし偽情報という可能性も考えられますがそうなると確かに同盟を破棄してまで攻めてくる意図を見つけられません」
ミストリアの選択でこの戦いは大きく変わってくる。
「ルセリオスに姫の座を奪われる前にルセリオスは始末しておいた方がいいぞ」
「まだ確信が持てませんがこの戦争は止めます、ホーリー」
白い龍は雄叫びを上げる。
「わたくしはミストリア・カナトス。ミストリアが命じる。今すぐに戦闘を中止してください」
ミストリアの声が全土に響く。そこにミストリアの乗るホーリーとほぼ同格の大きさの金色の龍、ガルドが現れた。
「ライラ、今すぐに戦闘を中止するように命じてください」
「馬鹿か、元姫はお呼びじゃねぇ」
ガルドは躊躇なくミストリアのホーリーにブレスを吐いてきた。
「なんてことを…」
「ライラ、貴様、ミストリア姫に何をしている」
「ライラ、貴方はまさか本当に禁術を使用したのですか?人をさらったのですか」
「それをするように言ったのはあんただろ?ミストリア姫」
「認めましたね?そんなことは一言も言っていません」
「まあ、もう兵士はルセリオスに落ちてるけどな、あんたに権力なんてねぇよ、ミストリア。あんたが命じたことにしたからな。姫退任だな、これからはルセリオスがセインヅカ帝国を支配する」
「いつの間にそんな計画を…どこで禁術なんて恐ろしいものを…させませんよ」
セインヅカ帝国の主力部隊がライラと合流した。主力部隊はライラではなくミストリアに攻撃を仕掛けてきた。
「いつの間に部隊まで掌握しているのですか」
「だから言ったろ?今のあんたには権力はないって、ミストリアを潰せ」
「ルセリオスめ、ミストリア姫を裏切ったな」
「仕方ありませんね…許すわけにはいきません」
ミストリアとライラの戦闘が幕を開けた。
「やはりエリルの書いた通達通りだ。本軍はミストリア軍を援護する」
「私は…」
「キャロットは今は役に立たないだろう、お前に指揮をやれと言っても無理だろうしな、アルハザードの援護にでも行ってくれ」
「わかりました…」
ジンとフレイでも苦戦したライラに挑むミストリア、そしてヒーリアの援護部隊。
アルハザードは洗脳はしたものの範囲は決められているため攻めるには一手足りない。キャロットも合流する予定だがキャロットの能力は不明、攻めには向いてなさそうだ。
そして絶望的なスピリアとナイア。
セインのゴルドにかみ砕かれ鮮血を舞ったスピリア。
洗脳されたエリルとドレイクに挟み撃ちに標的にされたナイア。
ヨガン魔術師団は無事洗脳されたエリルを取り戻せるのか。
ミストリアはルセリオス姉弟の陰謀を阻止できるのか。
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