第2話 それぞれの能力

 古都ヨガン、決していい地域とは言えないこの街で魔術の知識を少しでも学びようやく敵を討つ時がやってきた。

 

 ジン・ガイアールはナイア・シリウスと街を歩く。ナイアは男なのだが髪留めをしていたり女の子らしさがありあまり男に見えないところが多々ある。


「ナイア、腹減った。能力でケーキでも出してくれよ」


「僕の能力はそんな使い方しないよ」


「いいなぁ、物質を違う物質に変える能力なんて、俺ならゴミをケーキにして食べるけどな」


「それもあまりいい気がしないなぁ」


 すると後ろから声が聞こえた。


「君たちはジンとナイアか」


 アルハザード・クロウリーだ。ロングの銀髪。赤い瞳に眼鏡をしている。


「ヒーリア様が招集をかけているぞ、今はライラだけ集まっている。君たちも速く行きたまえ」


「そろそろ動くのか?」


「あぁ、そのようだよ、魔王軍の残党、魔物も最近は出なくなったからこの都市は大丈夫だろうとね、首都メソッド奪還作戦だ、スピリアたちはどこに行ったことやら」


「俺スピリアたちならどこにいるかわかる気がする」


「本当かい?ジン」


「おう、俺が行ってくればいいんだろ」


「頼むよ、ナイアは先に私と行こうか」


「あ、はい、わかりました。アルハザード先輩」


 ジンはスピリアたちを探しに行くことにした。


「ま、いるところ人るしか手当たりねぇんだけどな」


 ヒュゥゥ、と風が吹く。鳥の鳴き声がジンを誘う。

 豪華な建物だ。その建物を開ける。

 そこには4人の人物がいた。

 一人はロングの赤髪をした勝気そうな少女、ジンより一つ年下のフレイ・ディナスター。炎を操る魔術師。

 一人は黒髪ロングのフードを被った人形のような姿、キャロット。ジンと同じ年齢。能力は不明。

 もう一人は見た目小学生、しかしジンより年上。ベージュのツインテールをした彼女こそスピリア・ランフォード。彼女も能力は不明。

 スピリアを筆頭にスピリア、フレイ、キャロットは椅子に優雅に座っている青髪で短髪の金の瞳を持った少女、周囲には三体の精霊が守護するように彼女を守っている。エリル・シェリスの忠実なる親衛隊三人衆なのである。


「ここにいたか」


 エリルさえ見つけてしまえば勝手に三人は見つかるのだ。


「ジンさんですか…」


 か弱い声でそうつぶやくのはエリル。


「おい何しに来た、エリス様にそれ以上近づくなよ」


 そう言い放ったのは炎の魔術師フレイ。


「やっていいよ…フレイ」


 なぜか敵対心むき出しなのがキャロット、そして顔を隠す。


「はぁ…エリル様の神聖なる場所に男が近づかないでね、帰った帰ったー」


 呆れてものを言うのがスピリア。

 特にエリルからは敵対心は感じ取れないが。


「ヒーリア様が呼んでるっていうから来ただけだ、酷い言われようだな」


「はいはい行くからどっか行ってねー、あたしは男に興味ないの」


 スピリアにさんざん言われるジン。


「わかったよ、俺は言ったからな、じゃあな」


「行きましょう…フレイさん、キャロットさん、スピリアさん」


「はぁーい、エリル様ー」


 ジンに対する態度とエリルに対する態度が全く違うスピリア。ちなみにスピリアのほうがエリルよりも年上なのにも関わらずである。



「はぁ、着いた着いた」


「大丈夫かね?どうせスピリアの連中の影響だろう」


 アルハザードは分かっていたかのようにジンに問う。


「まぁな」


「いっそのことナイアが行けば解決だったかな」


「なんで僕?」


「君は女の子だからね」


「僕男の子なんだけどなぁ」


「あ、確かにナイアならどう見ても女だしあの連中の中にいても気づかれねぇな」


「ジンまで?酷いよ」


 その話を聞いていたライラ・ルセリオスが話に入ってくる。隣には金色の龍ゴルドがいる。


「あんたナイアだったか?男だったのか」


 まさかのライラまで勘違いしていたらしい。


「てっきりジンとナイアって付き合ってたのかと思ってた」


「おい、恐ろしい妄想するな」


「ライラまで、酷いよ」


「ナイア」


「なんですか、アルハザード先輩」


「諦めなさい」


 ナイアが轟沈しているとスピリア率いるエリス親衛隊とエリスが現れた。

 エリスのドラゴン型の精霊ドレイクはライラのガルドを不思議そうに見ている。

 するとロングの紫の髪をした大人の女性が現れる。彼女こそヨガン魔術師団大将、ヒーリア・ラプテット。


「お前ら、席に着け」


 ジンたちは椅子に座る。ヒーリアの作戦会議だ。


「今夜、この古都ヨガンを出る。悪い言い方をするなら捨てる。今のうちに戦いに備えておいた方がいい。しかしいきなり敵の情報もつかめてないのに首都メソッドに攻め込むのは危険だ、今日の夜は古都ヨガン最後の仕事。魔物の残党狩りだ。デモンたちは滅びたがまだ中級の悪魔がいないとも限らない。4手に分かれる。魔物はだいたい夜に現れるだろう。私が組んだ、この二組で動いてもらうぞ。ジンはフレイと、ライラはエリル、スピリアはナイア、アルハザードはキャロットだ」


 フレイ、スピリア、キャロットは反論する。


「ヒーリア様、ちょっと待ってくださいよ、私がなんでジンと行かないといけないんですか」


「相性というやつだ」


「アルハザード…怖い…」


「キャロットの言いたいこともわかる、だがお前の能力のほうが十分怖いけどな」


 やはりヒーリアはキャロットやスピリアの能力を把握しているらしい。


「あたしはナイアなら別にいいけどー、エリル様がライラなのが気に食わなーい」


「互いに能力を活かすためだ、だがスピリアとナイアだけ強すぎるかもしれないな」


 スピリアはやはり戦闘面で強力な能力を持ってそうな言い方をヒーリアはしている。

 三人不満そうだったがこの編成で手分けして魔物退治をすることになる。


「夜の10時に、それでは解散!」



 そして夜の10時、ジンはフレイと組むことに。


「お前足手まといなことすんなよ」


「わかったよ、俺はフレイに従っとけばいいんだろ」


 アルハザードとキャロットは。


「怖い魔法ばっかり使ってくる…」


「大丈夫だ、君には使わないよ」


 エリルとライラは。


「魔物ですか、私は戦闘では役に立たないので…」


「あんた確か索敵できるんだろ?俺のガルドが焼き滅ぼしてやるよ」


 スピリアとナイアの組み合わせ。


「えっと、僕どうすればいいですかね、スピリアさんの能力わかってなくて」


「突っ立っててもいいよー、ていうかあたし一人で大丈夫なんだけどヒーリア様狙われたらどうするんだろ、どっちかというとそっちの方が怖いかもー」


 スピリアは能力にかなりの自信があるらしい。


 ジン、フレイチーム、アルハザード、キャロットチーム、エリス、ライラチーム、スピリア、ナイアチームは手分けして動き出した。



 真っ暗だがフレイの炎の灯で周囲を見渡せた。


「そういえばお前スピリアやキャロットの能力知ってんのか?」


「気やすく話しかけんな」


「聞くくらいいいだろ」


「でもお前には言っとかねぇとな、私とエリル様は知ってるよ。でも私はお前に教える気はねぇ」


「なんでだよ」


「お前が裏切る可能性があるからな、あとエリル様は推しに弱い、だからお前勝手に忍び込んでエリル様に聞いたりしたらマジで容赦しねぇからな」


「仲間なんだから教えてくれてもいいだろ」


「なら私たちを信用させてみろ」


「いいぜ、信用させたら教えてくれるんだな、エリルにも聞かねぇ、その勝負絶対勝って見せる」


「ふん、その前に死ぬなよ?」


 突如草陰から現れる生物狙いはジン。ジンは能力を使い時を停止し攻撃をかわした。


「よし、私の出番だな、燃えろぉ」


 ジンを狙った生き物はフレイの火により燃やされた。ジンは焦げた何かを拾う。


「なんだそれ、見せてみろ、下級悪魔だ、ガーゴイルだな」


「これでデーモンとかベリアルとかだったらどうしようかと思ったぜ」


「これで下級悪魔にあのままやられてたらどうしようかとも思ったけどな、私が責任取る羽目になってたじゃねぇか、あぶねぇな」


「はいはい今度からは気を付けますよフレイ様」


 改めて自分の無力さを痛感するジンなのであった。



 そのころアルハザードとキャロットたちは。

 アルハザードはゾンビを大量に生成していた。


「ところで君の能力はどんななんだい?」


「スピリアとヒーリア様に言わないように言われてる…」


「隠してこそ真価を発揮するのかな?」


「裏切られる可能性もあるから」


「なるほどね、可能性は0ではないね、特に禁術を使うメソッド教なんて全員洗脳する能力でも使ってきそうだしね。私も洗脳自体はできるけどそんな汚い真似はしないさ、でもいつか教えてほしいものだね」


「そのいつかがくればいいね…」


「どういう意味かな?」


「そのままの意味…」


「まあいいか、ゾンビの一人が見つけたね。さて行ってみようか、ゾンビ三体、数の暴力で撃退したからね」


 アルハザードにキャロットはついていく。


「これはインプだね、デーモンでも食いついたかと思ったけど、いなくてよかったよ」


 ひとまず安心したアルハザードとキャロットであった。



 エリルとライラは。

 エリルの精霊ブラッディを使って空中から詮索している。


「アルハザードさん…ゾンビ大量に出してますね」


「ゾンビ出すとか気持ち悪い能力だなぁ」


 すると精霊ブラッディが戻ってきた模様。エリルに何かを伝える。


「怪しい場所があったようです、ここから遠いですが…」


「そのためのガルドだろ、早く乗れ」


「いいんですか…?」


「ああ、気になるしな」


「では失礼します…」


「行くぜガルド」


「うわっ…うわぁぁぁ…そこを左で…」


「あれか、見えたぜ確かに変だな」


 エリルとライラはその場から降りる。


「はぁ…あんな高度な速いペースでいつも乗りこなしてたんですね…」


「まあな、この穴だな、穴じゃないな」


「ワープゾーン…」


 穴なのかワープゾーンなのかよくわからない場所から魔物が現れる。


「そういうことですか…ここから魔物があふれていたんです、ここを壊さないと…」


「よし、どいてろ」


 ライラのガルドは勢いよくワープゾーンとそこからあふれ出る魔物を一気に焼き焦がした。


「まだあるかもしれねぇな」


「そうですね…探しましょう」


 エリルとライラは恐らく魔王界につながっているであろうワープゾーンを探すことにした。



 スピリアとナイアは。

 

「まさか古都ヨガンでの最後の仕事が雑魚狩りなんてねー、つまんないし海いこー」


「え、任務は悪魔退治なんじゃ…」


「それはフレイたちが何とかしてるよー、手こずる相手でもないしねー、あたしじゃ相手にならないっていうかここの海いるって噂あるんだよね、リヴァイアサン」


「そんな伝説が?」


「そこの木をなんか大きいものにしてみてよ、クジラとか、食べに来るかもよー、一応リヴァイアサン悪魔だし」


「噂ですからね、やってみます、一回だけですよ」


 そういうと気に触れるとその木を投げた。クジラの姿に変わっていく。


「元木のクジラ君どうなるかなー」


 数分後。


「やっぱりこないねー、所詮噂話かーつまんなーい、帰ろー」


 結局噂話で終わってしまった。後ろから鳴き声が聞こえた。


「んー?ライオン」


 ナイアは木を鹿に変えてみた。


「これでどうですかね」


 暗闇から何かが鹿にかぶりつく。


「おー、悪魔じゃないけど狼だねー、特にやる必要はないけどやっときますかー」


 スピリアは無防備に近づく。


「危ないですよ」


 目の前に狼がいるというのに平然とスピリアはナイアの方を見る。


「ナイアきゅん後ろにもいるよー」


「えっ」


 慌ててナイアは後ろを振り向くがいなかった。

 ナイアが向き直ると血を帯びたスピリアが狼がいた場所にいた。その血はスピリアの物ではない。今振り向いた瞬間に倒れた狼の返り血だ。狼は真っ二つになっている。スピリアは特に凶器、刃物やナイフなどは持っていなかった。


「どうやって倒したの」


「あたしの魔法ってやつ?」


 謎は深まるばかりだ。









 




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