クエスト受注と経費の闇

 シリウスの手に握られていた依頼票に書かれていた内容は次の通りである。

『下水道に大型モンスターがいて、水道管のメンテナンス作業が出来ません。放っておくと水のトラブルが発生するかもしれません。このモンスターを1体討伐してください。』

 レグルスが嫌な顔をするのも無理はない内容であった。


「これが一番いいだろう。水道局からの依頼だ。報酬も悪くない。」

「本気ですか⁉」

「ああ、こういったクエストは新人のうちに経験しておいた方がいい。高難易度のクエストになれば火山地帯や氷河といった過酷な条件のものも出てくる。早い時期から厳しい状況に慣れておくというのも大事なことだ。ダンジョンの奥深くで心が折れそうになっても自分の足で帰らなければならないのが冒険者なのだよ。身も心もタフではないと勤まらない仕事だ。それに面白いではないか、この冒険者がひしめく城下町の地下にのうのうと過ごしてモンスターがいるなんて、顔拝んでおいて損はないだろう。」

 しぶしぶ頷くレグルスと対照的に、ゴングは再び大きな笑い声を張り上げた。


「あんた、わかってるな。最近の若いのは臭い仕事をやりたがらねぇ。だから青っちょろい奴らばっかになって、最近はクエスト成功率も下がって会社の評判を下げかねぇんだ。よし、じゃあ下水道クエストを賢者と勇者のパーティーで受注っと。経費は一人あたま600イェンだな。」

 シリウスが右手を差し出すと受付に置いてある丸い石板に置いた。リングの魔法石が光った。冒険者は金銭のやり取りもリングを介して行われる。かさばる現金の代わりにリングに資金の記録を残すのである。続いてレグルスも見よう見まねで手を置くと、同じように魔法石が輝き資金がチャージされた。


「ステータス表示をするといい、ちゃんと経費分の資金が増えているはずだ。」

「あっ本当だ。でも、クエスト受注するだけでお金がもらえるんですね。最悪受けまくってリタイアしたら、稼げるんじゃないですか。」

「勇者らしからぬ発言だな。まぁ最初はそう勘違いしてしまう気持ちもわからんでもない。だが、この経費は一定期間無利子で実行される会社からの貸付金に過ぎないのだ。クエストを成功すればその報酬から経費を差し引かれた分が手取りとなるのだが、リタイアすればそのまま借金となる。そして依頼票にも書いてある達成目標期間、今回のクエストだと1週間だな、目標期間を10日過ぎると年利1.5%で借金がスタートする。蓄えがあればいいのだが、そうでなければ新たなクエストを受けて返済しなければならない。最悪のパターンはそこでまたクエスト失敗して雪だるま式に借金が増えることだ。」

「もし返しきれなかったら・・・」

「消されるな。」

 今日一番の冷たい視線をシリウスから注がれるとレグルスは思わず身震いをしてしまうのであった。


「冗談だ、とも言い切れないが要は成功すればいいだけだ。期限までには余裕がある。どうだ、景気づけに初経費で一杯飲みに行くか。」

「いえ、早速取りかかりましょう。下水道の侵入口はここから近いみたいです。」

「うむ、その意気だ。だが、物事には準備が必要だ。一旦、私の家についてきなさい。先程のイザコザで消費した魔法力を回復したいし、君も体力が全快していないだろう。」

 そう言うと一行は斡旋部を後にした。立ち去るレグルスの背中を見て、ゴングはどこか見覚えあるような気がしていた。しかし、どうにも思い出せないし、無理に思い出す必要もないだろうと考えて仕事に戻った。依頼票を棚にしまいながら、彼らが次に来たときのために良いクエストでも見繕っておこうかと考える自分に気付いて一人笑うのであった。

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