パーティーの条件

 受付には相変わらず不機嫌そうに肘をついた、中年の男が座っていた。その太い腕と幅のある顎をした顔は、受付より戦士の方がよっぽど似合っている。別館に訪れるのはブロンズクラス以下の冒険者だけなので、こういった不愛想な男でも問題ないのだろう。むしろ彼に気圧されるくらいの人間であるとしたら、その時点で冒険者の看板を下ろすべきである。


「やぁ、先程はイザコザで迷惑をかけた。失礼した。」

「なぁに、あんなのは日常茶飯事だ。後ろの坊やはやられたみたいだが、あんたは大丈夫だったらしいな。僧侶と魔法使いが真っ青な顔で出ていったぜ。」

「若い者の可能性の芽を摘んだかもしれないと思うと心が痛むがな。」

「ちげぇねぇ。」

 受付の男は豪快に笑った。シリウスもクックックと小さく笑っている。その二人を後ろから見ているレグルスには何が面白いのかサッパリわからなかった。


「あんた気に入ったよ。俺はゴングだ、よろしくな。今日はクエストの受注か。」

「私はシリウス、賢者だ。今日は後ろの勇者と二人パーティーでクエストを受けたい。」

「ほ~、勇者と賢者のルーキーか、初めて見たぜ。だがな、あんたはここが初めてみたいだから教えてやるが、パーティーを組むのには資格が必要なんだよ。初心者同士で組んでも死ぬ確率が増えるだけだからな。」

「そのことなら問題ない。」

 シリウスは右手にはめたリングの魔法石を左手で、数秒押さえた。すると魔法石は光りだし、目の前の空間に文字が浮かび上がった。


「わ、何ですかこれは。」

「なんだ、ステータス表示も知らなかったのか。それで一人でクエストを受けようなどとは、なんというか無鉄砲だな。まぁよい、これはステータス表示と言われリングに標準装備されている機能だ。浮かび上がった画面にはその者の登録名・職業・クラスなどが、表示されるのだ。簡単に言えば身分証明書と言ったところか。」

「へ~ほんとだ。押してみたら僕のも出てきました。あれ、シリウスさんと内容が全然違うというか情報量が少ない・・・」

「それは保有資格の欄のせいだな。さてゴングよ、この資格欄を見ればパーティーを組んでも問題ないというのがわかるだろう。」

 ゴングは宙に現れたシリウスのステータス画面を指でなぞりながら、資格欄を確認した。


「あ、ああ。確かに冒険管理主任者の資格はあるから4人までのパーティーを組むのに何も問題はない。この資格は3年以上の実務経験が必要だが、そこもクリアしている。それどころか、禁足地調査士に魔法石加工技師、特定呪物保管責任者、宝具使用許可証、他にも数えきれないほどだ。あんた一体何者だ?」

「なに、ただの資格コレクターだよ。ほとんどがホワイトクラスでは役職制限で使えない代物だ。ペーパーライセンスに何の意味があると思うかね。新人に得意顔をする以上のものにはならないよ。さて、今受注できるクエストを出してもらえるかな。」


 促されたゴングは棚から何枚かの紙を出した。ホワイトクラスで受けられるクエストの依頼票である。ミーアタイガーの討伐、ホポロ洞窟での鉱石採取、フブカ草原の巡回などどれも低レベルで危険度の少ないクエストだ。シリウスはそれらにざっと目を通して一つのクエストを選択した。その内容は他のクエストよりずっと前に発注されていたが、未だ他の冒険者が未着手となっていたものだった。

「おっ、何を選んだんですか。僕にも見せてください。ゲッ!」

 横から覗き込んだレグルスが思わず苦い声をだした。シリウスの目はかすかに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る