困窮の原因、それは家賃と税金
シリウスの家は城下町の中で高級住宅地と呼ばれる場所にあった。周りの家に比べると若干小さいのだが、それでも庭付き戸建ての立派な造りだ。
「シリウスさんて大金持ちだったんですね。」
家の佇まいに圧倒されたのか、だらしなく口を開けたレグルスが漏らした。
「なに、昔から住まわせてもらっている借家だ。ここの一人娘が結婚するまでと言う条件で格安で契約している。
「じゃあ、結婚したら追い出されるんですか?」
「まあな。10年近く経っても追い出されていないのでありがたいが、一方で追い出されたいという気持ちもなくはない。」
シリウスは軽く苦笑いをした。
「でも、条件付きでもこの地域に住めるなんてすごいですよ。」
「周りの家がどんどん立派になっていって取り残されているだけだよ。まぁ家賃も少しばかり値上がりされたから、前職での稼ぎで残していた分はほとんど家賃と税金にあてている。だからクエスト報酬がないと自由に使える金がないのだ。まったく、世知辛い世の中だ。引っ越せばいいと言えばそれまでだが、娘さんを私は信じているのでな。」
辛い現実とも戦う男シリウスは新しいパーティメンバーとなったレグルスを家に招き入れた。家の中は整然としていて、無駄なものが極力省かれており、シリウスの合理的な性格が良く現れていた。だが、家具は霊樹とも称される耐久度の極めて高い木材で作られていて、その細部の装飾も立派で、その一つ一つが高い技術力を持った職人で作られた高級品ということがわかる。その中で一際目を引くものが、リビング中央に置かれた大きな白い魔法石だった。
「この治癒の魔法石は宿屋で使われるものと同じ品質のものだ。ここで1時間でも仮眠を取れば、ホワイトクラスの我々の体力と魔力は全回復するだろう。ベッドは2階に来客用のものが有るので使うと良い。以前のパーティーを解散してから使ってはいないが、洗濯は定期的にしているので、問題ないだろう。」
「治癒の魔法石を個人宅で持っているのってすごいですね。普通、宿屋にしかないんじゃないですか。」
「以前は多くの冒険者たちも持っていたが、冒険会社法の競業避止義務に引っかかって今では新規の取得は宿屋だけと決まっていてな。持っている財産は取り上げられることは無かったが、市場の3倍の値段で宿屋組合が買い取ったからほとんどの冒険者は手放したのさ。私も、生活がどうにも立ち行かなくなったら最後の手段で売ることになるだろう。」
そんな高価なものを家の目立つところに置いているなんて不用心だとレグルスは思ったが、口には出さず2階に上がって休息を取るのであった。
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