第13話
そこは、1面の花の中にポツンと石像があった、綺麗ではあったが、空虚な空間だった。
「チョコー!」
見ると、石像の横には、私の妹、チョコの姿があった。
「大丈夫?! チョコ、起きて!」
私は必死に頬を叩く。ルーズは黙って見ていたが、拳には力が入っていた。
「んむ、おはよぉ。え、この人誰! ていうかここどこ!」
心配していたが、この景色に興奮している妹を見て、安堵の息を漏らした。
「チョコ、聞いてくれるかい」
それから、妹に、今まであったことを話した。雪山で遭難したこと、3人が助けてくれたこと、ゲイルが国王だということ、何もかも話した。
「へー、そうだったんだぁ、じゃあここが春?」
「そうだよ」
「本当に!綺麗な花がたくさん! お母さんに持っていこ!」
はしゃぎ始める妹を見て少し、涙が零れた。
「それじゃあ、ロナウド君」
改まって、ルーズが私の目を見る。
「これは、夏の国の王、トタイラン17世からの手紙だ。君が置いてくれるかい? あの戦いに、秋はただ傍観していただけなんだ。そんな奴が代表しても意味はないしね」
「それは違うんじゃない?」
と、さっきまで花畑で走り回っていた妹が、割って入ってきた。
「だって、秋の人も、春の国を助けたいって人はいたんでしょ? じゃあその気持ちも込めて、王様にあげたらいいんじゃない?」
「でも、そんな人が居たか分からないよ?」
そう言うルーズを見て、妹は鼻で笑った。
「何言ってるのよ、貴方じゃない。ルーズがそう思ってるじゃない」
「あ」
と言ったかと思えば、ルーズが突然笑いだした。
「どうしよ、私何か変なこと言った?」
「さ、さあ」
ルーズは笑い転げている。
「ごめんごめん」
いつまでそうしていたのかはわからないが、長い時間、ルーズは笑っていた。
「そうか、俺は秋の国の人だもんな、うんうん」
何かを納得したのか、国王の手紙をそっと石像へと置いた。
「帰ろうか、2人を待たせちゃ悪い」
「待たせたのはルーズでしょ」
と2人で突っ込んだ。あまりにも正確なタイミングで突っ込んだから、私と妹は顔を見合わせて笑った。
「そう言えば、この花ってなんて名前なの? ルーズ」
妹の手には、あの花畑にあった花が1輪握りしめられていた。
「ああ、これか。これはバラの花だよ。それもまだらのね」
「まだらって珍しいの?」
「夏の国では咲かないね」
「へぇ! じゃあ花言葉とかも違っていたりするんじゃない? 私も花言葉の勉強したいわ! 教えて!」
「もちろん、花言葉は──」
そこで唐突にルーズが立ち止まった。
そして、ポロポロと涙を零し始めた。
「大丈夫?!」
2人で駆け寄る。
「大丈夫、感動しちゃってね、花言葉はね」
息を整えてルーズは言う。
「『あなたを忘れない』だ」
「……素敵だね」
私の声は空高く吸い込まれて言った。
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