第12話
「そういうのって、僕が子孫じゃないの?」
そうである。先程の会話から、何ひとつとして母の事は話していない。
「君のお父さんは今何をしていると思う?」
「今……」
ゲイルにそう言われて、私は困ってしまった。そういえば、この頃父に会っていない。夏の国で定住していると聞くが、何をしているかは聞かされていなかった。
「そうか。じゃあ答えを言うとな、君の父は、国王の宮殿で冷凍保存食品の研究をしている」
「……そうなんだ」
──数十年前の飢餓のことを思ってのことなのだろうか。
「そこでな、ロナードに聞いたんだ。奥さんは可愛いかってな。その時に、君のお母さんの旧姓を聞いたってわけだ」
知らなかった。それに、この事を私の父は知っているのだろうか。
「父さんは、この事を知っているの?」
「知らないと思うぞ。言いたいか?」
「ううん、いい」
「なるほど、だから夏の言葉を知らなかったんだねえ」
「?」
「だってロナウド君、夏の国にいる時、家から出たことないでしょ」
「う、うん」
後から知ったが、母が私を守る為、私は、夏の国では、国王の宮殿で過ごしていたらしい。だが、夏の国の人は愚か、国王、トタイランでさえ私の顔を見た事が無かったのだ。
それくらい、大切にされていたということだが、裏を返せば、夏の国の人を信用していなかったということなんだろう。
「聞いてくれ! 俺は春と争うつもりはもうない! だから、ひとつ、交渉をしないか!」
あれから少しして、ゲイルはブックに向かって語り出した。
「俺は春の国へは行かない!」
「!」
咄嗟に止めようとした私を気にもせず、ゲイルは腹から叫び続ける。
「だが! 私の部下を連れて行ってくれないか! 彼は秋の国出身者だ!」
「……彼? でもルーズはローズと血が繋がっているんじゃ」
「そうだよ、だけどすこぉし複雑なんだ」
とルーズが言う。
「行ってきな」
ローズにそう言われ、私とルーズは1歩前へと進む。
「いいでしょう、春の扉を開けます」
さっきとは打って変わって、すんなりと受け入れたブックを見て、本当に主の命令のまま動く、感情のない喋る道具を見て、私は悲しくなった。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、俺の分まで」
「わかりました、隊長」
私は春の国へ続く道を歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます