第11話

「どうして……というか、何処から!」


ゲイルは周りを見渡す。私も見渡したが、矢を放った物陰は何処にもなかった。


「外しましたかあ」


何処からか声が聞こえる。聞き覚えのある、無邪気な子供みたいな声。


「ブック……!」


そう、声の主はブックだったのだ。


「どうして! この人達はただ春を見に来たんだよ!」


「駄目です。貴方はともかく、後ろの大人達は此処へ入れては行けない」


「……な──」


「もうやめてくれ」


反論しようとする私に、ゲイルは笑った。


「そうだ。私が17代目夏の国の王、ゲイル·トタイランだ」


「……春の国の」


「そうだ、春の王を殺した男。その後継が俺だ。もうわかっただろう、俺はこの先に行く資格は無いみたいだ」


ゲイルは言う。そして胸を広げ、


「まず許されようとしたことが間違いだったか……殺してくれ」


とだけ言った。


今私の中にあった感情はなんだっただろうか。悲しみ? 驚き?


……違う、怒りだ。私を励ましてくれた人が、情けなく命を絶とうとしている。


気づけば、ゲイルの目の前で両手を広げていた。


「どうしてここで諦めるんだ! ここまで来たのに……それに、僕の妹は」


「──っ。」


すると、突然ゲイルの頬を矢が掠める。


「ロナウドさんがいるから、トタイラン、貴方は殺せません。少しこの本の主から、『この子達の前で残酷なことはするな』と言われていますので」


「お前は、この2人の何なんだ」


ゲイルの言葉に力が入る。


「言う義務はありません。それともここで死にますか? それなら余興に語ってもいいですがね」


私はただ怖かった。殺される恐怖ではない。あの、無邪気な声は何処にもなく、ただ淡々と言われたように、作業のように人を殺そうとする。


──そこに感情はあるのだろうか。と。


「……そういう事か」


硬直している私達の肩を叩き、ローズが前に出た。


「ロナウド君、君のラストネーム、つまり、苗字は何だ」


「え、クルス……だけど」


「そうか……」


「まさかとは思ったけどねえ」


と、ルーズも加わる。


「?」


私は首を傾げた。


「はあ、子供に伝えないとは惜しいな」


とゲイル。


私は何もわからなかった。

ただ、皆の顔を見て、あたふたとするしかできなかった。


「ど、どうしたの?」


そんな私の顔を見て、ローズは言った。


「ロナウド君、君の母親は春の国の王、コウルガン・シュームの子孫だ」


「????」


私は頭がパンクした。

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