第10話

「ここだ」


ゲイルはピタリと足を止める。

そこは、雪に埋もれる前に私がいた洞窟だった。


「ここって……」


「なんだ? 知ってたのか」


ガッハッハッと笑いながらゲイルは言う。


「ここだ。ここが春の場所であり、お前の妹さんがいるかもしれねえところだ」


でも、


「ここはさっき僕が──」


「だあいじょうぶ」


とルーズはにこりと笑って言う。すると、それに合わせてゲイルが喋り始めた。


「坊主。お前が言うには、喋る本がいたそうだな」


私は黙って頷く。


「そいつが、もしかしたら。もしかしたらだぞ? お前の妹さんを運んでくれているかもしれない」


「本当に!」


「ああ、でも確証はできないぞ!」


「本当に心配性ですね隊長」


ローズが話に割って入った。


「さあ、行きましょう」


と思えば、ずんずんと奥へ進んでいく。


「ちょ、おい待てよ!」


それに続くゲイルと私。ルーズももちろんその後ろに着いてきた。


──どれくらい歩いただろうか。私はもちろん、他の3人もそろそろ疲労が見えてきた。


「本当にここで合ってますか?」


痺れを切らしたローズは振り向く。


「ああ、多分」


「多分?!」


私とローズで突っ込む。


「ロマンチストでもそこまでのロマンは追わないよ」


とルーズ。


「こんにゃろー!」


ゲイルは地団駄を踏み始める。見ている側からは可笑しくて仕方がなかった。


「あってるはずだあ! 無かったら王朝に置いてあるはずないだろ!」


「王朝?」


「しまった!」


2人はやれやれといった顔をしているが、私にはなんの事だかわからなかった。


「王朝って、あの王朝?」


「うう……」


ゲイルは顔で必死に助けを求める。


「──もう、言っちゃっていいんじゃないですか」


それは少ししてからだった。今度はルーズが痺れを切らしたのだろうか、沈黙を破った。


「んん、ほんとだな? じゃあ言う。王朝はそのままの王朝だ。そして、私の名前は──」


その時だった。


ザクッと、勢いの良い音と共に、ゲイルの左頬を何かがかすった。


「痛っ! なんだこれ……え」


ゲイルの手に握りしめられていたのは、1本の矢だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る