第8話

「ああ、何処まで喋ったっけ」


一頻り笑った後、男がまた話し始めた。


「じゃあまず、自己紹介からだな。俺は、ゲイル……いや、ゲイルだ。なんでもない、忘れてくれ」


ゲイルは笑ってそう言う。何を忘れればいいのかはわからないが、表裏が無さそうな男だなと思う。


「じゃあ次は俺ですね」


ゲイルよりは声が高めで、細身の男は言う。


「俺の名前はルーズ。ルーズ·ストレイ。気ままにルーズでいいよ」


続けて、


「俺はねー、自分で言うのもなんだけど、ロマンチストでね。君は花が好き? 俺はもちろん好きだ」


この3人の中では、良くいえばムード作りが上手い人だが、悪くいえば、精神年齢が低いというか、妹を見ているような気がした。


気が付けば涙が出ていた。そうだ、私はついさっきその妹を間接的に殺した。いや、殺してしまった。


「あれ? どうした? 何かあったか?」


慌てふためくゲイルには目もくれずに、私は涙を流し続けた。


また、不甲斐ないことを悔いてしまうのか。そういった、自分を罵る感情しか持ち合わせることが出来ない自分が情けない。


「君、名前は?」


ルーズが顔を覗き込む。


これは答えなければと、私は精一杯の声で名前を言った。


「ろ、なうど」


ルーズは笑って頷いた。


「ロナウド君、君にはこれをあげよう」


何処から出てきたのか、私の目の前には、この白い風景と同じように白い、1輪の百合がそこにはあった。


見るとルーズは笑うというより、微笑みに近い感じで私を見ていた。


「……百合?」


だがルーズは少し驚いた表情になった。


「そうか、君の国ではユリというのか、この花は。そうか、綺麗な名前だ」


「じゃあ、ロナウド君。もう1ついい?」


私はこくりと頷く。


「language of flower、この言葉は知ってる?」


私は首を横に振る。


「この言葉はね、君の国では『花言葉』と呼ばれている言葉だ。それを我々夏の国で変換するとこうなる」


「花言葉?」


「そう、君は教わっていないのか……」


少し残念そうな顔をしたが、私には何が何やら分からなかったので、ただ頷くだけだった。


「そしてね、このユリ。このユリの花言葉はね、『涙をふいて』だよ、意味がわかるかい」


「さあ、」


ルーズはにこりと笑う。


「君は涙をふくんだ。そして、何故泣いているのか、教えてくれないかい?」


ああ、この人達ならば、妹の為に、自分の為に、春を見られるかもしれない。そう思った。そう思えた。


だから、私は妹のことを話した。


そして、それは、妹の死を伝えるということは、妹のことを乗り越えて先に進むようで、胸が痛んだ。


しかし、そんな胸の痛みは彼女の一言で消えた。


「さっきから聞いていて思ったけれど、貴方、妹が死んだと思うの?」


「だって、それは……!」


「私はね、子供だろうと勝手に物事を決めつけるやつが嫌いだ」


「ちょいちょい、ロー……」


「黙って」


「は、はい」


このとき、子供ながらに女性の強さを知った。


「この目で妹の死を見たか」


はっきりとそう言われる。


当然私は首を横に振った。


「ちゃんと自分の口で言え!」


激しい怒号が私を襲う。もちろん言われるがままに


「み、見てないです!」


と言った。


「そうか」


そう言って彼女は歩き出す。


「行きましょう隊長」


「お、おう」


「失礼、名前を言いそびれていたな。私の名前はローズ·ストレイ。自称ロマンチストの姉だ。そして、」


私の目を見る。


「今から、懺悔団なんてダサい名前の団なんて捨てて、ロナウド君、君と共に妹を探す者だ。名前は、そうだな……」


「指図め、妹捜索隊と言ったところだな」


(絶妙にダサい!)


この場の男3人衆、全員がそう思ったことだろう。だが誰も言い出せなかった。


何故なら当の本人は、不思議と得意げな顔をしていたからだ。

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