第6話
「ロナウドさーん!」
そう遠くない場所から、あの子供みたいな声が聞こえる。(まあ、このときは私も子供だった訳だが)
私は必死に追いかけた。早く、一刻も早く、妹もブックも助ける為に。どうして烏が、なんてことは1ミリも頭に無かった。
「こっちでーす! ありがとーございまーす!」
「はあっ、はあっ」
声が反響して聞こえる。
ここは……
「洞窟……?」
所々氷が張っあるが、どう見ても自然にできたものとは考えられないほど、大きな洞窟が拡がっていた。
鎌倉の要領だろうか。中に入ると、少し暖かかった。
「ここだよ!」
私は大声を出してしまった。私は思った。
此処だ! 此処こそが、私達を救う寝床だ!
そうと決まれば、早く、あの愛しの妹を死なせる前に案内しなければ!
と。
「ブックー? 居るかー?」
だが、1つ。私はここまでどう来たかを覚えていないのだ。
だから今、私はブックの名を呼んでいる。
何故奥に行かないのか?
……私は幽霊が嫌いだ。今も昔も。
「居ないのか?」
暗闇からは何も聞こえなかった。
ただ、私の声が反響して聞こえるだけ。
「聞こえているかあ!」
私は声を張り上げた。
けれども、返ってくるのは木霊だけだった。
私は怖くなった。本当にブックは、ここへ来たのか? 奥に入って大丈夫なのか?
──妹は無事なんだろうか。
あらゆる不安がぐるぐると、私の周りを駆け巡る。
最後に、私がたどり着いたのはそう、妹のことであった。
私は一目散にこの洞窟から離れた。なるべく、自分が覚えている道で、離れて離れて離れて離れて……
気が付けば、日はとっくに落ちていた。
そして、恐ろしいほどの寒気が私を襲った。
歯茎がガタガタと振るえ、カチカチと歯の当たる音が聞こえる。
雪も降り出してきた。
それを見て、感じて、私は悟った。
もう、死ぬんだなと。
私は泣いた。だが、その涙さえ凍ってしまって、ただ、雪山に独り、嗚咽をこぼすだけしかできなかった。
次第に目も開けられなくなった。
私は悔やんだ。
馬鹿な事を計画したこと。母親に黙って出てきたこと。ブックを疑ってしまったこと。
そして、
私のせいで、1人の命が失われたこと。
「ごめん、ごめん、チョコ、ごめん」
また、流れることのない涙が、私の頬を傷つけていく。
「ご……あ、う……」
もう喉も枯れてきた。悔しかった。最後まで謝れなかったことが。
あのとき、洞窟の奥へ行っていたら何か変わっただろうか。
後悔の念も募ってくる。
だが、次第に考える力が鈍り、正常な判断も正常な考えもできなくなる。
最後は、寒くなると本当に歯で音が鳴るんだな、なんて、そんなことしか考えていなかっただろう。
そうして、私は、白い孤独に飲まれ、
考えるのをやめた。
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