第5話
「もう疲れたぁ!」
話は最初の会話に戻る。2人では途切れ途切れの会話だったが、ブックが加わることによって、軽快な会話が続いている。
「我慢してチョコ、もうちょっとだから」
「そうですよ、チョコさん。もうちょっとで春を拝めますよー!」
雪山だというのに、夏の国寄りに登っているからだろうか、結構な時間登っているが、吹雪や霧などは無く、ただ真っ白な雪が辺りを覆い尽くしている。
「ううー、暑いー」
後ろからそんな声が聞こえる。
暑い? 何故?
まさかと思って振り返る。
「私が楽しくなると、身体が熱くなるみたいですね」
寒さで脳がやられたのかと思ったが、ブックに触ると確かに熱かった。
「だからブックじゃなくて、上着を着た方が良いって言ったじゃないか」
「酷いっ!」
傷ついたブックは放っておいて、万一の為、身体に異変はないかと、妹に問う。
「うーん、だいじょーぶ。でも、眠たいからちょっときゅーけー」
「そうだね。結構歩いたし、ここで休憩を取ろうか」
そう言って、私は地べたに座り、妹は近くにあった岩に座った。雪の上は少し湿っていて、なんだか不思議な感覚だった。
「そろそろ日も落ちてきましたねー」
とブック。
「そうだねー」
と妹が相槌を打ったが、心ここに在らずといった様子だった。
相当疲れているのだろう。このままの状態で雪山を登るのも危険だろう。
「ブック、この辺に寝泊まりできる場所はないか?」
だから、私はブックにそう聞いた。だが、返ってきたのは、いい知らせではなかった。
「この先は、無いですね」
「何処にも?」
「ええ、私が記憶している限りですと、先には無いです。道を外れたところには、もしかしたらあるかも知れませんが、精々私が覚えているのは、春の国への行き方だけで……」
「じゃあどうしてこの本の著者は辿り着けた……」
そこまで言ってハッとした。
そうだ。この本の著者は、こちら側を通っていないのだ。
じゃあどうして私達はここへ来てしまったのか。
理由は明白だった。
「ブック、どうして君はこっちを選んだんだ」
今の私なら、こんなことになっても、少しは自制できるはずだ。
案内役ならば、何か意味があってここを選んだのかもしれない。そう思えただろう。
だがこのとき、私は13歳という、そんな判断をするに至る歳ではなかった。
──あまり、このときのことは覚えていない。ただ、私の心の中は憤怒で満ちていたことだろう。
ブックに何を言おうと思ったのか、殴ろうと思ったのかも知れない。
だが、次の瞬間、ブックは私の視界から消えた。
いや、正確には消えたのではない。飛んだのだ。空高く、烏に掴まれて。
そこでやっと、私は正気を取り戻した。そして、ブックを追いかけなければという感情が湧き出た。
「チョコ、少し待ってて。これ、上着とスープと、冷凍保存のやつ。お腹が減ったら食べてていいよ」
「え、あ、私寝てた! 待っとけばいいのね?!」
さっきから会話に入ってこないとは思っていたが、寝ていたのか。
よく目が覚めたなと思ったが、そんなことよりもブックのことだ。あいつがいなければ、春の国は愚か、ここから出ることができないかもしれない。
「必ず戻って来るから」
そう言って、私は走り出した。
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