第4話
私達はアルメルス山脈の登山口まで来ていた。
登山口とは言っても、この、アルメルス山脈自体、登る人が居るかと問われれば、居ないと答える人の方が多いのではないだろうか。
だが、昔はよく登られていたのだろうか、今でも道跡は、薄らではあるが見える。
「どっちに行くの?」
ここで、少し前を行っていた妹が立ち止まった。
私も立ち止まって見てみると、道が二手に分かれていた。
だが私は、そんな事など知っていた。
「右だね」
本によれば、左は、昔使われていた、夏の国へ行く道らしい。それに、道が二手に分かれていることが、この本に書かれていることに意味がある。
ここで私は、本当に春の国があるのだと確信した。
「右でいいのね?」
妹が聞き返すので、私は頭を縦に振った。
「いやー、左の方がいいんじゃないですかねー」
それは、私達が右の登山道に足を入れたときだった。
何処からか、声がする。2人で辺りを見回しても、何も確認できない。だが、そう遠くないところで喋っているように感じる。むしろ近いような……。
「あ、聞こえてますかー? ……おかしいな、ちゃんと喋ってる筈なのに」
2人は唖然とした。
それもそのはず、声の主は本そのものから聞こえていたからだ。
「え、どうして本が……」
私がそういった瞬間、食い入るように返答してきた。
「あ! やっぱり聞こえてたんですね! 初めまして、名前は無いです!」
「じゃあ、私がつけてあげる!」
ものすごいペースで話が進んでいく。このとき、チョコの兄、ロナウドは1人、蚊帳の外だった。
「夏の国の表記で本は、ブックだっけ?」
「あ、ああ」
不意に聞かれて、空返事をした。
「じゃあブックね! 貴方の名前よ」
「ブック、いい響きです! 宜しくお願いします! チョコさん、ロナウドさん」
流石に安直すぎないかとは思ったが、当の本人(?)が喜んでいるのでそれで良いだろう。
「それで、どうしてブックは喋れるの?」
妹は、興味津々といった様子でブックに話しかける。当然私も気になっていた。
「うーん、良くわからないんですよねぇ……」
持っていた本、ブックがしなしなと萎れる。感情に左右されるのか! と、心の中でツッコんだのを今でも覚えている。
「でも、これだけはわかりますよ」
ブックが反り返る。
「貴方達が行くべきは、左です!」
「……本とは違うよ?」
「ええ、ですが
ブックは深々とお辞儀をする。
ここまでされたら仕方がなかった。
私は少し信じられなかったが、妹はくるりと左を向いた。
「何かあったら、ブックのせいだからね」
トゲのある言い方で、ブックを牽制しながら、私も左を向いて歩きだした。
「信じられないのも無理はないです、本が内容と違うことを言い出すのですからね」
ブックは笑ってそう言った。
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