第3話
「こっちの方角に行こう」
私は前を行く妹に、指をさして案内をする。この本を読んだとはいえ、この3年間は私の手元にあったのだ。目指す方角が、時々違っている。
まあ、本当にこの本が1番の道なのかは分からないのだが。
「えー、じゃあお兄ちゃん先に行ってぇ」
身体をくねらせながら妹は此方に近づいてくる。元気な奴だと思う反面、張り切り過ぎではないかという不安がよぎる。
妹の服は、長袖長ズボン。冬の国の服ではあったが、本によればここから、雪山のアルメルス山脈を登ることになる。
体力を消耗して、妹が万が一のことがあったら……。
「何ボーっとしてるの」
見るともう目の前に来ていた。
「ああ、ごめん。じゃあ僕が先導するよ」
まだこんなに元気なんだから、大丈夫か、と、私はその不安をかき消した。
──今になって、「なんと馬鹿なことをしたのだろう」と、書くのは、悔やむのは、余計なことだろうか。
長い林を抜け、段々と辺りが開けてきた。
一面の雪が太陽を反射して、私の目を眩ませる。そのくらい、この日は雪が積もって、かつ、ピクニック日和の晴れの天気だった。
「この辺でお昼にしようか」
と、冷蔵機器の中から持ってきていた、冷凍保存食品と、それを溶かす為の携帯用の焚き火を取り出す。
「それかー、私あんまりそれ好きじゃないんだー」
後ろから着いてきた妹は、着いてそうそう駄々をこね始める。
だが、無理もない。
少し余談にはなるが、移住民は毎年、冬の国へ帰ってきた時、食料に困らないようにするために、冷凍保存食品を置いていく。
しかし、1つ難点がある、あまり認知が足りていないからか、この手の食材は、どれも美味だと言い難い物ばかりなのだ。
当然だが、私も好きな部類には入らない。
だが、約30年前の、世界規模の飢饉により、食料が乏しい時期があったそうだ。
その時、移住民を代表し、私の父が食べ物の貯蔵を推奨した。いわば規則のようなものである。
味は無いに等しいが、こういう時に役に立つから、あってもいいなと思える。
「嫌いだ」と、はっきり言いづらいやつだ。
──話を元に戻すとしよう。
結局、あーだこーだと、いちゃもんをつけていた昼食は、妹の方が食べる量は多かった。
当の本人は、
「ふー、食った食った」
なんて言いながら、雪の上で横になりながら腹を摩っている。
結局、私も寝転んで遊んでいたので、出発は太陽が少し傾く頃になった。
その間、私達は春の国について話し合った。暖かいところだ、とか、とても花が綺麗なんだとか、想像を大きく膨らませた。
「よし、じゃあそろそろ行こうよ!」
最初に重たい腰を上げたのは、以外にもチョコの方だった。
「行くぞー!」
普段は飽き性な妹だが、珍しいこともあるんだなと思っていた。
そうして、私達はゆっくりと歩きだした。
右腕を突き上げて歩く妹の、その腕は少し、震えていた。
本当に、私は馬鹿だった。
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