第2話
あれから、3年の時が経った。この日は、冬から夏への移住の日だった。
……ここで、少し補足を置いておく。この世界は移住民と、定住民がいる。言葉通り、その場に留まり暮らす民と、年に3回移動する民がという意味だ。
つまり、私達家族は移住民だということだ。
だが、もちろんこの時私は、夏の国へ行く気は毛頭無かった。
私は春の国へ行く。
1人で行くのは不思議と怖くなかった。
母が心配するだろうか、冷蔵機器の中の食べ物を取っていって怒られないだろうか、そんな不安だけしか無かった。
正直、それも建前だったかもしれない。私の中の好奇心が、疼いて仕方なかった。
幸い、この時期の冬の国は地面に雪が積もっているため、2階の窓から降りる事は容易い。
厚めのコートを着て、準備万端だと言う時に、事態は動いた。
「お兄ちゃん、何してるの? お母さんが待ってるよ?」
そう、最近9歳になった、妹のチョコレート·ドルススの存在だった。
「そうだねチョコ、先に行ってて、すぐ行くから」
「うん、でもどうしてお兄ちゃんはコートを着ているの? 歩くわけじゃないんだよ?」
こういう時、妹は変に察しがいい。
「それに、リュックが大きいんじゃない? 他の人も乗るから、最低限にしてってお母さんは言ってたよ」
もうダメだと思ったから、その場で逃げるか、諦めるか。いや、今諦めたら、次は無いかもしれない。
そう思った私は、窓を開けようと、妹に背を向け、走り始める。
だが、妹は止めなかった。それどころか、一緒に窓から外へ出たのだ。
ポカンとしている私を横目に、妹は一言、
「それ、私も読んだことある」
とだけ言って、春の国があるであろう場所へと走り出した。
家の裏の、白い、白い林を走り続ける。
何処からか、行ってらっしゃい、という、聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。
今日この日、1人の少年と、1人の少女は、春を探す旅に出た。
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