春を知らないこの世界で

マル

第1話

これは、私が13歳の時、春を見た話だ。


「もう疲れたぁ!」


「我慢してチョコ、もうちょっとだから」


2人は今、冬の国の、アルメルス山脈の頂上を目指している。

一人は、チョコレート·ドルスス。好奇心旺盛ではあるが、飽き性な女の子だ。

そして、ロナウド·ドルスス。チョコレートの兄であり、13歳ではあったが、周りからはしっかり者で世話焼きな子だと言われていた。


……自分の事を言うのは少し、恥ずかしい。


「そうですよ、チョコさん。もうちょっとで春が拝めますよー!」


それから1冊。亡き父が残したであろう、喋る本、ブック。本なのに題名が書かれていなかったため、そう呼ばれている。なぜ喋っているかって? 本人曰く、自分でも分からないそうだ。


──ところで、君達はここで、何故、私達が山の頂上など目指しているのか、不可解に思うだろう。


私達は、1冊の本によってここへ導かれた。

そう、ブックの存在である。

題名は無かったのだが、文章は書かれていた。

内容はこうだ。


「はるか昔、この世界は、4つの国と、大陸に分かれていた。

それぞれ、春、夏、秋、冬を代表する大陸と国であり、その国々は、それはとても平和で賑やかな暮らしをしていた。


──だが、その平穏は、1つの国によって崩壊した。

春の国、いや、春の国の王、シューム8世が、『無機物に生命を、生きる者に言葉を与える』という名目の魔術を完成させたのが事の発端だ。


この頃、魔術というものは存在こそしたが、使える者は少数しかいなかったため、発展途上ではあった。


しかし、シューム8世が成功した魔術は、たちまち4カ国に広まり、それを応用した魔術が至る所で創造され、使用された。

それは良い事ではあったが、無論、良くない方向へ持っていこうとする輩はどんな時代であれ、存在した。


彼の名はトタイラン7世。夏の国の王であった。

彼はシューム8世が創った、『無機物に生命を、生きる者に言葉を与える』魔術を使い、無機物の兵士を作り、国を、世界を統一しようとした。


そして、最初の標的となったのが、紛れもない、春の国である。


夏の国の力は凄まじく、すぐさま春の国は窮地へ陥った。

それでも、春の国は諦めなかった。シューム8世は、魔術の封印を開始したのだ。もちろん、4カ国全てで、だ。

しかし、封印をしたところで、生命を与えられた無機物は動くのを止めなかった。

だから、彼は春の国の人々を逃がした後で、兵士諸共、国ごと命を絶った。


これが、春の国崩壊の背景であった。

                無題 より」


初めは、おとぎ話だと思った。父は話し上手であったから、生前、私達に読み聞かせるように書いたのだろうと思った。


だが、日が経つにつれ、本当のような気がしてきたのだ。


だから、だから私は、齢10歳にして1人、1冊の本を手に、春を探し始めた。












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