第1話 その2

 ここは日本のどこかにある離島。船で遠出した時に上陸するのは何県なのかはわかるけど、実際この島自体がどこの県に含まれているのかは知らない。島の人に聞いてもパッとする答えは出ない。詳しく調べればわかるはずだけど誰もやらないし、私だって興味ない。

 そんな大雑把な島だけど、島のみんなはとても優しい。

 私たちはこの島で生まれてこの島で育った。

 もともと人口がとても少ない島だったこともあって、歳の近い子供がほとんどいなかった。田舎だけにいやなんでもない。私たちの通うこの島で唯一の学校は小中一貫で、今は中学三年生である私たちが最年長だ(当然だけど)。とはいえ全校生徒は私たちを含めて七人しかおらず、大体はほかの五人の小学校低学年組と同じ教室で一緒に授業を受けている。

 そんな具合なので自然、私と麗奈は昔からいつも一緒にいた。


 そして私たちは物心ついたころから魔法が使えた。

 つまり魔法少女だった。いやちょっと強引か。

 魔法少女と言っても悪い魔女や怪しいサイトの管理人と戦ったわけでもなければ、謎の生命体と銃火器を手に空中戦を繰り広げたわけでもない。麗奈とだって、もともとお互い敵同士の魔導士だったとかでもない。

 ちょっと不思議な力が使えて、私たちが勝手に「魔法」と呼んだ。ただそれだけ。

 どうやらこの島に伝わる話的には「巫女の力」と言った方がしっくりくるみたいだけれど、みんなあまり気にしていなかった。私もその伝説を詳しくは知らないし興味もない。

 島の人たちがここまでおおらかなので、近所の人たちから迫害を受けることはもちろん無かったし、島の外に情報が洩れて(あまり隠してる感じではないけど)私たちの力のことが騒がれることも無かった。だから私たちは、魔法のこと以外はごく普通の生活を送ることができた。

 この力は、望むことやイメージできることは大概実現できた。しかし危ないことはしてはいけない、と散々親や周囲の大人に釘を刺されていたし、何より私たち自身が、炎も雷も高いところも怖かったので、実際に火や雷を出したり空を飛んだりするような危ない魔法を使うことは(正確にはこの力を危ないことに使うことは)無かった。

 ではどういうことに使ったのかというと、「島の人たちを助けるために使おう」と麗奈と二人で決めて「解決部」を作り、人々の暮らしのちょっとした手伝いをして過ごしてきた。

 重いものを持ち上げたり、なくしものを探したり、祭りの日に花火を打ち上げたりもした。もちろん魔法を一切使わないようなボランティアにもよく参加した。

 そのおかげで解決部は「少し困ったことを気軽に相談できる相手」として島の人たちに浸透していった(今思えば、「何かとお手伝いしてくれる活発な子たち」として可愛がられていただけな気もするけど)。


 私は幼いころ、この活動が好きだった。

 

 自分は特別で、島のみんなはその「特別」を必要としてくれていた。確固とした居場所があって、私はここにいてもいい存在なんだと安心できた。

 みんなの役に立っていた。

 みんなの役に立つ自分でいられた。

 しかし、小学校五年生を過ぎたあたりから魔法はどんどん使えなくなっていった。

 今も少しは使えるが、できることは昔ほど多くない。電池がなくなったような感覚というか、単純に出力が衰えてきたと言うとわかりやすいかもしれない。

 とにかく私の「特別」は失われた。

 でもこの活動は続けていた。理由は昔とは少し違うけれど、今もこの活動が好きだ。

 魔法が無くても、変わらないままでも役に立てる。必要とされる。居場所がある。受け入れてもらえる。

 そうやって自分を騙そうとしていた。甘やかしていた。


 何かが今までと変わることは、怖い。

 今までいた人がいなくなること。今までいた場所とは違う場所に行くこと。今まであっていた人とは違う人に囲まれること。今までできていたことができなくなること。

 すべてが怖い。もしそうなったら、私は必要なくて、受け入れてもらえないかもしれないから。

「特別」を失ってから、そんなことばかり考えるようになった。

 転んだらまた立ち直ればいいだけの話なのかもしれないけれど、私は憶病にも、転ぶこと自体をいつまでも馬鹿みたいに恐れていた。

 中学三年になった今でもまだ、変化を恐れて、サボって、逃げ続けていた。

 私を受け入れてくれる優しいこの「島」に、役に立つ自分でいられるこの「部」に、過去の自分が持っていた「特別」に、縋っていた。


 このことは、麗奈にすら打ち明けることのできない私の秘密の一つであり、孤独だった。

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