huit

「お姉さんは私が殺したのよ!! 寒い雪の日に、凍った小川のほとりで!!」

 心の底から叫ぶカトリーヌ。激情に駆られたその様子を、ジャンヌはじっと眺めている。

「太い木の棒を握りしめて!! 頭を何度も何度も殴った!! 悪魔を追い払うために、何度も何度も何度も!!」

 ざあっと駆け抜ける鋭い風が、彼女の興奮した心を加速させる。あのときの凄惨な光景が、再び目の前で動き始めた。

「お姉さんは死んだのよ!! だって、私が殺したんだから!! それなのに、もう一度私の前に現れて……。やっぱり、お姉さんは魔女になってしまったのね!!」

 気持ちを高ぶらせる妹と、落ち着いた瞳で彼女を見下ろす姉。……しかしその刹那、姉はニヤリと口角を上げた。

「……ええ、そうよ。よく分かったわね」

 それはまるで、悪魔の微笑み。闇の底から這い出るような、真っ黒な微笑。

「私の可愛いカトリーヌ。再び会えて嬉しいわ」


 ――次の瞬間、ジャンヌの下に幻想的な蝶々が舞い降りた。儚い光を散らしながら、彼女のまばゆい髪を次々と掠めていく。

「あなたには特別に、私の本当の姿を見せてあげる。ふふっ、家族には内緒よ」

 興奮していたカトリーヌは、一瞬の内に恐怖した。先ほどまでの姉は、最早どこにもいないと悟り、そして……。姿を変えた姉を、ただひたすらに凝視した。

「私は異端の魔女・ジャンヌ。あなたを殺しに来たわ」

 美少年のようなショートヘアに、露出度の高い真っ黒なドレス。血に染まった赤い書物を抱え、ヒールの高い靴を履いている。肩に掛かったシルクを流しながら、彼女は禍々しい笑い声を上げた。

「さぁ、カトリーヌ!! 魔女になった私のために、美しい悲鳴を聞かせてちょうだい!!」

 ――その言葉を聞いた途端、カトリーヌの頭に警鐘が鳴り響いた。ああ、今度は自分の番だ。

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