six
「……え?」
……姉が何を言っているのか、カトリーヌには理解できなかった。全く別の村の人が、早口で地元の言葉を使っているかのような、ただの音声の羅列のように聞こえた。
「美しいお方が現れてね、私にこう告げたの。『この国の救世主になりなさい』って。あのお姿は間違いない、私たちの神様だったわ」
姉の透き通るように青い瞳は、どこか遠くを見つめている。ここではない、どこか別の世界。
「だから私、神様のお告げに従うことにするわ。家族にはまだ秘密だけど、カトリーヌにはどうしても伝えておきたくて……」
恍惚としながらも、真剣な眼差し。幼いカトリーヌにも、それがはっきりと分かった。姉は、決して嘘をついていない。ただ、自分の理解が追いついていないだけだ。だから……。いや、だからこそ、彼女は認めたくなかった。
「……うそだ」
「うそじゃないわ。本当よ」
カトリーヌには想像できなかった。自分の姉が神の声を聞いたことも、救世主になれと言われたことも。だが、これだけは分かる。もし今ここで、姉の言葉を肯定してしまったら……。彼女はきっと、遥か遠くに行ってしまう。
「ううん、うそだ! お姉さんのうそつき!」
きっぱりと否定すると、姉は途端に悲しそうな顔をした。まるでカトリーヌが悪いかのような、寂しげな哀れみを含んで。
「カトリーヌ……。どうしてそんなことを言うの?」
……じわじわと湧き上がる、雪を解かすように熱い感情。小さな彼女には、それを抑え切ることができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。