six

「……え?」

 ……姉が何を言っているのか、カトリーヌには理解できなかった。全く別の村の人が、早口で地元の言葉を使っているかのような、ただの音声の羅列のように聞こえた。

「美しいお方が現れてね、私にこう告げたの。『この国の救世主になりなさい』って。あのお姿は間違いない、私たちの神様だったわ」

 姉の透き通るように青い瞳は、どこか遠くを見つめている。ここではない、どこか別の世界。

「だから私、神様のお告げに従うことにするわ。家族にはまだ秘密だけど、カトリーヌにはどうしても伝えておきたくて……」

 恍惚としながらも、真剣な眼差し。幼いカトリーヌにも、それがはっきりと分かった。姉は、決して嘘をついていない。ただ、自分の理解が追いついていないだけだ。だから……。いや、だからこそ、彼女は認めたくなかった。

「……うそだ」

「うそじゃないわ。本当よ」

 カトリーヌには想像できなかった。自分の姉が神の声を聞いたことも、救世主になれと言われたことも。だが、これだけは分かる。もし今ここで、姉の言葉を肯定してしまったら……。彼女はきっと、遥か遠くに行ってしまう。

「ううん、うそだ! お姉さんのうそつき!」

 きっぱりと否定すると、姉は途端に悲しそうな顔をした。まるでカトリーヌが悪いかのような、寂しげな哀れみを含んで。

「カトリーヌ……。どうしてそんなことを言うの?」

 ……じわじわと湧き上がる、雪を解かすように熱い感情。小さな彼女には、それを抑え切ることができなかった。

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