cinq
……あれは忘れもしない、ひどく寒い冬の日だった。暖炉の傍で裁縫をしていた彼女は、真剣な顔をしたジャンヌに手を引かれ、凍った小川のほとりにまで連れて来られた。
「お姉さん、一体どうしたの? お話なら、家の中でしようよ」
黙々と前を歩く姉は、年齢よりも遥かに大人びていた。自分と同じ、いとけない少女であるはずなのに。
「もしかして、氷遊びをするの? それなら、お兄さんたちも呼んでこなくちゃ」
寒さを我慢するために、ぴょんぴょんと跳ねて地面を踏みしめる。白く積もった雪に、小さな足跡が点々とついた。
「ねぇねぇ、どこまで行くの? あんまり奥まで行くと、お母さんが探しに来るわ」
いつまでも無言を貫く姉に、カトリーヌは段々嫌気が差してきた。幼い顔をムッとさせ、小さな雪玉を背中にぶつけてみる。
「お姉さん! なにか言ってよ!」
――次の瞬間、年の近い姉はゆっくりと振り返った。彼女の金色の髪が、質素なエプロンドレスの裾が、ふわっと宙に舞う。
「カトリーヌ。あなたに聞いてほしい話があるの」
あどけなさを残しながらも、芯の通った声。その声のトーンに、カトリーヌは思わず息を呑んだ。手にしたはずの二つ目の雪玉が、音も立てずに白い地面に落ちる。
「な、なに……?」
「真剣な話よ。家族のみんなには内緒」
内緒。それは幼い少女たちには、あまりにも大きすぎる言葉だった。
「……うん、分かった」
仰々しく頷いたカトリーヌに、ジャンヌはふっと笑みを零す。その後は深く息を吸って、また深く吐き出した。
「あのね、カトリーヌ。私――」
――神様のお声を聞いたのよ。
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