quatre
「ああ、可哀想なカトリーヌ……。辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうなのね。でも大丈夫よ。ほら、おいで」
両腕を大きく広げた姉は、ゆっくりと彼女に近づいて、布のような柔らかさで抱擁した。まるで愛しい子どもをあやすかのような、実に穏やかな顔つきで。
「どんなに悲しい話でも、私が全て受け止めてあげるわ。だから大丈夫、大丈夫よ……」
……姉の言葉とは裏腹に、徐々に速くなるカトリーヌの鼓動。口の端がふるふると震え、碧眼には大粒の涙が溢れ出した。
「よしよし、大丈夫。思いっ切り泣いて、思いっ切り話した後は、二人で思いっ切り笑いましょ」
いるはずのない者が、あたかも実在するかのような素振りで、優しく背中を叩いている。……それはカトリーヌにとって、何物にも代えがたい恐怖だった。
「なん、で……」
「ん? どうしたの?」
ずいっと顔を寄せて、耳を傾ける姉。その全てを拒絶するかのように、カトリーヌは声を荒げてこう叫んだ。
「なんで……!! なんでお姉さんがここにいるの!? なんで私の目の前にいて、私に話し掛けているの!?」
「なんでって……。えっと、それはどういうことかしら……?」
姉の作る本物じみた困惑に、彼女はますます恐怖を増幅させる。この状況は、亡霊が死を認識していないのと全く同じだ。少なくとも、彼女にはそう思えた。
「姉さんがここにいるはずがない!! だって、お姉さんは――!!」
――私が殺したんだから!!
カトリーヌは腹の底から、残酷な言葉を発した。目の前の姉を否定し、この幻想世界を否定するために……。
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