第14話いざ忍者屋敷へ

「負けられない……ぽむぽむ流をここから世界の忍術にしてくために……っ!」


 板張りの床と、続くフスマ。

 そんな見るからにお屋敷って感じの邸宅内を、俺たちは進んで行く。


「雪村、気合入ってんなぁ」

「もちろん。多重影分身なんて外国の人たちも大喜びだからね、絶対に、絶対に覚えきゃいけないんだよ。これ以上の独占を止めるためにも!」

「ムダよ」


 熱くなる雪村に、サスケって子が「ふん」と鼻を鳴らしてみせた。


「今や忍術と言えば完全に伊賀と甲賀。そしてこれからも私たちだけでいいの。このシェア争いはとっくに勝負がついているんだから」

「忍者がシェア争いとか言うなよ……」

「今さら出て来たところで、この差が覆ることはないわ」

「そんなことないよ! 太平下に江戸城でぬくぬくしてた伊賀甲賀とは違うんだってところを見せてあげる!」

「やめとけって。いつの話を持ち出してんだよVRの世界まで来て」

「だって、世が世なら半蔵門はぽむぽむ門でもおかしくなかったのに……!」


 うぐぐぐぐ、と悔しがる雪村。

 いやおかしいだろ。

 東京メトロ半蔵門線が、ぽむ蔵門線になるんだろ?

 そんなの嫌だよ。


「ぽむぽむ流を世界に広めていくために……」

「これからも伊賀と甲賀で忍者利権を独占するために……」


 火花を散らす雪村とサスケ。


「「多重影分身は渡さない……!」」


 ……うーん。

 やっぱ俺には『ライバル忍者ロールプレイ』をしてるようにしか見えないんだよなぁ。

 一方甲賀の子とルリエッタは、回転扉から出てくるたびに変なポーズをしてるみたいなおふざけをして遊んでる。

 俺もあっちサイドにいれば良かった。

 やがて奥の間にたどり着くと、座布団に腰を下ろした赤舟斎が俺たちを出迎えた。


「よくぞ来た。ワシは今、我が忍術の奥義である多重影分身の継承者を探している」

「ぜ、ぜひ私にっ!」


 名乗りを挙げる雪村。


「華のある忍術は私たちにこそふさわしいわ!」


 即座に対抗してくるサスケ。


「ふむ。ならばまずは……忍者としての素養を見せてもらおう」


 仙人みたいな爺さんが、そう言って指を鳴らすと――。


「ッ!?」


 前後左右の襖を突き破って、外から一斉に手裏剣が!?


「あぶないッ!!」


 俺は慌ててルリエッタと共にその場にしゃがみ込む。

 対してサスケと小太郎、そして雪村は飛んできた無数の手裏剣を忍刀で弾き飛ばしてみせた。

 まさに、一瞬の出来事だった。


「ふーん、まあまあやるじゃない。でも、かつては恐れられたぽむぽむ流も、実力はあたしたちと変わらない。いえ、今ではもうあたしたちの方が上に違いないわ」


 サスケは勝ち誇るかのような笑みを見せながらそう言った。


「……そうかな?」


 しかし雪村がそうつぶやくと、クナイの刺さった見知らぬ忍者三人が、フスマを押し倒すようにして倒れ込んできた。


「まさか、今の一瞬で反撃までしてたっていうの……っ?」


 驚く伊賀と甲賀の二人に、雪村は――。


「これくらいは当然だよ、ぽむぽむ流では」


 そう言って静かに忍刀を鞘へ戻した。


「……なあ雪村」

「なに?」

「真の忍者なら、俺たちのことも気にしてもらっていいかな?」


 頭に手裏剣が刺さった俺とルリエッタは、雪村の肩を強めにつかむ。


「しかもこれ、お前たちが弾いた手裏剣だからね?」

「……ええと、ごめんね?」


 忍者に投げられたものが直接刺さったわけなじゃくて、三人が弾いた結果俺たちに刺さった形だから。

 ギリギリ死ななかったから良かったけどさ。


「次からは俺たちも自衛しよう」


 俺がそう言ってルリエッタにショートソードを渡すと――。

 ガコンと、何かが『動く』音がした。


「何だ!? 今度は何だ!?」

「二人とも、後ろに跳んで!!」


 雪村の声に慌てて後方へジャンプすると、床が一斉に外れ落ちていく。

 落とし穴か!

 俺はルリエッタと一緒に、ひとつ前の部屋に飛び込んだ。


「あ、あぶなかった……」


 今度はどうにか回避できて、安堵の息を吐く。


「翔太郎くん! まだだよっ!」


 足もとに、ワイヤー。

 すでに落とし穴を回避していた雪村はそう言って、ルリエッタの胸を押した。

 すると次の瞬間、天井から無数の竹やりが!?

 つ、吊り天井だとォォォォッ!?


「うおおおおおお――――ッ!?」


 驚きに一歩下がった俺の目前に、容赦なく落ちて来た竹やり付きの天井。


「あ、あぶなかった……」


 落ちて来た天井が、竹やりだけを残してゆっくりと戻って行く。

 冷や汗を拭う。

 俺たちは部屋の端にいたからギリギリで助かったけど――。


「……ゆ、雪村ぁぁぁぁ!!」


 そこには、釣り天井の餌食になった忍者たちがまとめて倒れ伏していた。


「なにこれ……思いっきり貫通してんじゃん……」


 何本もの竹やりに突き刺され、倒れたままの三人。


「え? これで終わり?」


 地獄の惨状に、思わずドン引きしていると――。


「――――そろそろ茶番は終わりにしてくれない?」


 いつの間にか俺の後ろに立っていたサスケが、腕を組んだまま言い放った。

 それだけじゃない。小太郎も雪村も、当然とばかりに俺の背後に。

 そして、倒れていた分身たちが静かに消えていった。


「こ、こんなの命がいくつあっても足りねえよ……」


 ルリエッタも鼻を擦る距離に落ちてきた天井に、さすがに「おお……」とかなってるし。


「ふん、こんなのも避けられないの? 部屋に入った時点であらゆる可能性を想定しておかないなんて、見通しが甘いんじゃない?」

「いや、そもそも俺たちは雪村の付き添いで……でもお前少し刺さってない?」

「刺さってない」

「いやいや驚いて術の発動が遅くなったんだろ? 完全に頬のあたりに血が垂れてきてんじゃねえか。小太郎は完全回避だし、雪村に至ってはルリエッタの胸を押して竹やりの直撃を回避させたうえで避けてみせたのに」

「うるさーい! 全然刺さってない!」


 地団太を踏み出すサスケ。

 するとそこに、赤舟斎が音もなく着地してきた。


「見事なり。さすがは町の名工たちの推薦を受けただけある。お前たちには我が奥義、多重影分身を継ぐだけの能力が……あ、ある」

「当然ね、それで誰にするつもりなの?」


 相手が大物であっても、サスケはおかまいなしで突っこんでいく。

 でも赤舟斎が一瞬噛んだの、たぶんお前が垂らしてる血を見てだぞ。


「まずお前たちには白鶴の滝に向かってもらう。上流にある小さなお堂に秘伝の巻物を置いてある。その巻物を取って来た者を継承者とし、多重影分身の術を伝授しよう」


 ……わりと簡単だ。

 てっきり修行でもさせられるのかと思ったけど、それだけでいいんだな。


「ていうか、それって俺とルリエッタが参加してもいいのか?」

「仲間の同行は認めよう。ただし後継者は『忍者』一人だけだ。たとえどんな形であれ、巻物を持って戻って来た忍者にのみ我が奥義を伝承する」

「別にアンタごとき、いてもいなくても変わらないわ」


 そう言って、偉そうに腕を組むサスケ。

 その視線は、鋭い。

 そうか。巻物は一つ、そして『どんな形でも』ってことは。


「これ……奪い合いが前提じゃねーか」

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