第15話争奪!多重影分身
「翔太郎くん、早く早く!」
焦る雪村に急かされて、屋敷を出る。
「悪い悪い、ちょっと面白い物を見つけてさ……って、夜になってる」
いつの間にか森には、夜が訪れていた。
空には満月。ちょくちょく見える灯篭で揺れてる炎は、おそらく白鶴の滝への道順だろう。
すでにサスケたちの姿はない。
「急ごう!」
もう待ち切れないとばかりに駆け出す雪村。
俺たちもその後を追って、白鶴の滝を目指す。
聞こえてくる水の音。
透き通るほどの清流を横目に山を上がっていくと、高さにして四メートルほどの低く幅の広い滝にたどり着いた。
何体もの灯篭が付近を明るく照らし、流れ落ちる水流を白く輝かせている。
そこにはすでに、木々を飛び回ってお堂を探すサスケと小太郎の姿が。
「私も上から探してみるっ!」
そう言って三角跳びで木の上に飛び乗った雪村は、すぐさまお堂探しに動き出す。さらに。
「小太郎! 少し捜索範囲を広げるわ!」
「……了解」
二人の忍者も散開、木々の上を飛び跳ね夜闇に姿を消していく。
「高い位置からあれだけ移動の速いヤツらが見回ってるんじゃ、俺たちにできる事なんてたかが知れてるな」
「そうだなぁ」
ルリエッタも「うんうん」と、うなずいてみせる。
「よし。まずは灯台下暗しってことで、俺たちは定番から探してみようぜ」
「定番?」
「ああ、滝と言えばまずはアレだろ」
そう言って俺は、首を傾げるルリエッタと共に白鶴の滝の端へと向かう。
そこには落ちてくる水の裏側に入り込めるような『くぼみ』があり、潜り込んでみると一本の道が続いていた。
俺たちは滝の裏側から水のカーテンにさわってみたり、冷たい水をかけあってキャッキャしたりしながら道を真っすぐに進み――。
「……あれ、お堂じゃね?」
いかにも【秘伝の書】が安置されてそうな、小さなお堂を見つけた。
「おおー! そのようだな。さすが翔太郎だ!」
目を輝かせるルリエッタと共に、お堂の扉を開ける。
するとそこには、予想通り【多重影分身】の秘伝書が。
「まあ、この辺の定番はゲーム慣れしてないとピンとこないか」
俺は巻物を手に取って、さっそくインベントリに――。
「入らない……ヘイ、ルリ。インベントリに入らないアイテムの特徴は?」
「所有権がないから、落とすと別プレイヤーにひろわれるぞ。あと倒されてリスポーンした際もアイテムはついて来ず、その場に残してしまうことになる」
やっぱり。【アイテムロスト】になるわけだ。
この巻物はあくまで、ライバルとの奪い合いを制したうえで持って来いと。
まさに忍者向け。シビアなスキル争奪戦が用意されてやがる。
走り出す緊張感。俺はそーっと滝裏を出る。
「いやールリエッタ、俺たちにできることはなさそうだな」
「その通りだ。先に戻ってお茶でも頂こう」
そんな何気ない会話をしながら、そのまま来た道を戻って――。
「――――待ちなさい!」
ギクッ。
樹上のサスケに呼び止められた。
「その手に握っている物は何かしら?」
「…………しゅ、春画」
「あたしにも見せてもらえる?」
「いや、女の子に性癖を確認されるのはちょっと……ほら、俺って結構マニアックだし」
「ふーん、そういうことなら……力づくで確認させてもらうわ!」
サスケはそう言って手裏剣を投じてきた!
こうなったら仕方ない!
「やるぞルリエッタ!」
「了解だ!」
俺たちは振り向いて剣を抜き、飛んできた手裏剣を切り払う! 切り払う! 切り払うっ!
「ルリエッタ、やるじゃないか!」
「翔太郎こそ!」
得意げにピースして見せるルリエッタ。
俺たちはニヤリと笑い合う。
「「二個しか刺さってない!」」
それでも九割減のHPの低さに引きながら、そのまま逃走を開始する!
「……逃がさない」
直後、聞こえてきたのは小太郎の声。
「水遁――――降り青龍」
スキルの発動と同時に、白鶴の滝がその水量を一気に跳ね上げた。
「うおおおおっ! マジかこれ!?」
荒れ狂う濁流が、一気に俺たちを巻き込んで――!
「ゴボボボボ! ゴボボボボボボー!」
消えていく水流。
足もとに流れついた巻物を、小太郎がひろいあげる。
「……巻物はいただいた」
「そうはさせないよ!」
そこに飛び込んで来たのは雪村。
投擲したクナイを小太郎が弾くと、すでに雪村はその懐に飛び込んでいた。
忍刀による連撃、その二発目が巻物を弾き飛ばす。
「いただくわ!」
小太郎の手から離れた巻物を、サスケが軽快なジャンプで取りに行く。しかし。
「ロケットパンチ!」
飛んできたルリエッタの腕が再びはね飛ばした。
「ナイスだよルリちゃん!」
さらにポーンと高く跳ねた巻物を、雪村が空中でキャッチする。
「雪村! 危ねえぞ!」
着地際を狙ったサスケの手裏剣が、そのまま突き刺さる。
体勢を大きく崩す雪村。
そこへ駆け込んで行くのは、忍刀を携えた小太郎だ。
「雪村ーっ!」
「……もらった!」
俺の叫びも間に合わない。
放たれた一撃が、隙だらけの雪村を斬り裂いた。しかし。
「残念、それは分身」
「……しまった」
消えていく残像に、小太郎が目を見開く。
次の瞬間には、雪村が風のように小太郎の背後に斬り抜けて行った。だが。
「……それも分身」
「うそ……?」
まさかの展開。
雪村が驚愕に顔をゆがめる。
その隙にサスケと小太郎は同時に、鋭い踏み込みから問答無用の突きを放つ。
「取ったわ!」
歓喜の声をあげるサスケ。
「もちろん、分身だよ」
直後、またも消えていく雪村の残像。
……なにこの分身合戦。
「雪村、ここからお前はその巻物を持って屋敷に戻ることだけ考えろ」
俺は隣に現れた雪村に、これからの動向を説明する。
「あ、翔太郎くん」
「どうした?」
「それも分身だよ?」
「どれが本物なんだよ!」
後ろから出て来た本物らしき雪村に、思わずツッコミを入れる。
するとそんな俺たちの前に、サスケと小太郎が先回りしてきた。
立ちはだかるのは、三人ずつ計六体の忍者女子。
「巻物は頂くわ!」
忍刀を抜いた六体が、サスケの合図で同時に雪村へ跳び掛かる!
分身にはこういう形のやつもあんのか!
「させないよ!」
しかし雪村は二本の忍刀で立ち向かい、見事に本物の攻撃のみを受け流す。
「くっ!」
消える分身。
サスケは俺の目前に、背を向ける形で着地した。
これはチャンスだ!
「おらーっ!」
「え? きゃあっ!?」
慌てて身体を向け直しても、もう遅い。
俺が押し倒したサスケにそのまま馬乗りになると、バッチリ目が合った。
「…………」
「ま、もうオチは分かってるけどな。はいはい、どうせこれも分身なんだろ」
しかしサスケは、慌てて目をそらす。
「は、早く退きなさいよ! 恥ずかしいでしょ!」
あれ? なんか怒り出したぞ?
「やったな翔太郎!」
「あ、これは本物なの!?」
俺が驚きの声をあげると、サスケは「ッ!!」と思い出したかのように目を見開いた。
「ア、アンタ……どこさわってんのよ!」
「え!? おっとごめん、気づかなかった!」
慌てて胸から手を離す。
すると今度はなぜか、サスケが頬をひきつらせた。
「気づかなかったってどういう意味かしら?」
「え?」
「……小さすぎて気づかなかったって言いたいの?」
「は!? 言ってない! そんなこと一言も言ってない!」
「…………」
「逃げるぞルリエッタ! 目が獣のそれだ!」
「あはははは、了解だー!」
俺はサスケの上から慌てて飛び退くと、なりふり構わず全速力で山を下る。
クナイの連投で小太郎の足を止めた雪村も、それに続いてきた。
「――――殺すわ」
なんか物騒なこと言ってるゥゥゥゥ!!
聞こえて来たサスケの怨嗟の声。
俺たちは猛ダッシュで山を駆け下る。
と、とにかくあとは、あの爺さんのところに戻るだけだ!
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