第11話時にはもっと忍びらしく
「これで終わりだぁぁぁぁ!」
掛け声と共にショートソードを振り下ろすと、粘液によって動きを封じられたネズミたちが粒子になって消えていく。
『――――レベルアップ!』
【名前:翔太郎】
【クラス:冒険者】
レベル:5
HP:32/32
MP:19/19
SP:12
腕力:1(+12)
耐久:1(+3)
敏捷:1
技量:1
知力:1
幸運:1
武器:【ショートソード】攻撃12
防具:【冒険者の服】防御3
スキル:【粘液】
「おおー! おめでとう!」
パチパチと拍手するルリエッタ。
「おめでとう」
隣りで雪村も小さく拍手する。
んー、一気に四つも上がったのは良かったけど……それでも雪村のHPの十分の一にも届かないんだな。
さすが冒険者だ。
「ステータスポイントはどうするんだ?」
レベルが上がるごとに、ステータスに加算できるポイントが3もらえる。
その割り振りで、今後の方向性とかも決まって来るんだろうけど……。
「【てきのわざ】が未知数過ぎるから、とりあえずは保留だな。器用さが上がったら粘液吐く時「おえええ」って言わなくて済むとかないんだろ?」
残念ながらそうらしい。
先駆者がいない戦い方をしてるわけだし、ポイントは様子見としておこう。
「それよりも……」
俺たちの視線の先にはまだ、ネズミが一匹残っている。
その手には、お目当ての金属塊。
「さあ、トドメといこうか」
ネズミは金属塊を持ったまま後ずさり、壁に背をぶつける。
左右からは俺とルリエッタ。
正面からは、クナイを手にした雪村が迫る。
これでもし俺たちの隙間を抜いて逃げたとしても、そのがら空きの背にクナイが突き刺さることになる。
こいつにもう、逃げ場はない。
「観念するんだな」
俺たちは一歩ずつ距離を詰めていく。すると。
「…………あれ?」
なんか、様子がおかしいぞ。
ビクリと身体を跳ねさせたネズミは、そのまま狂ったようにガクガクと震え出す。
「どうしたんだ?」
突然、ネズミの腕周りが膨張した。
続いて胸、腹、そして脚。
「な、なにこれ……?」
その変貌ぶりに、雪村も動揺し始める。
最後には身体そのものが伸びあがり、でき上がったのは……完全な化けネズミ。
その目は、煌々と赤く輝いていた。
「来るぞッ!!」
化けネズミは金属塊を放り出し、とんでもない速さで飛び掛かって来る!
「雪村!」
化けネズミの特攻を、雪村は慌てて回避する。
身体自体が大きくなったことで、爪も立派な武器に変わる。
右、左、右と鋭い動きで繰り出す連続攻撃が、雪村を追い詰めていく。
「ここだっ!」
バックステップで距離を取った雪村は、クナイを三連投。
全弾見事、化けネズミの身体に突き刺さった。
「いいぞ!」
しかし化けネズミは止まらない。
刺さったクナイをそのままに、狂ったように雪村に飛び掛かる。
その牙が、洞窟の岩肌を大きく削り取った。
「ウソだろ、なんだよあの威力……」
「うわっ!」
その強烈な光景に目を奪われた雪村が、バランスを崩して倒れ込む。
化けネズミは、その隙を逃さない。
「雪村ああああ――――ッ!!」
化けネズミは容赦なく喰らい付く。
岩をも砕く一撃に雪村は倒れ、動かなくなった。
これはHPが尽きた時の……リスポーンの時のやつだ!
まさかの形勢逆転。
化けネズミは勝ち誇るかのようにゆっくりと振り返る。禍々しい笑みと共に。
背中を冷たいものが伝っていく感覚。
狙いを俺に定めたネズミが、ものすごい勢いで飛び掛かって来る!
こうなったら仕方ねえ! 俺はショートソードで反撃を狙って――!
「うおおっ!?」
交差する俺たち。
見た目以上に重たい一撃に、剣が弾き飛ばされた。
ネズミは即座に振り返り、猛り狂った雄叫びをあげる。
疾走、跳躍。向けられる一撃必殺の牙。
ここ、までか……っ。
「逃げろルリエッタっ!」
俺がリスポーンを覚悟したその瞬間。
一陣の風が、目前を通り過ぎていった。
真正面から、交差する形で放たれる斬撃のカウンター。
鮮やかな連撃をくらった化けネズミは地面を転がり、そのまま動かなくなった。
「ギリギリセーフだったね」
粒子となって消えていくネズミを前に「ふう」と、息を吐いてみせたのは――。
「……雪村?」
忍刀を両手に持った四条雪村だった。
「いや、さっき倒れたばっかだろ……って、あれ?」
すぐそこで伏してたはずの雪村の姿が、いつの間にか消えてる。
これは一体どういうことだ?
「倒れてたのは分身だよ」
俺が困惑していると、雪村は何事もなかったかのようにそう言った。
それから音もなく、忍刀を鞘に戻してみせる。
「…………」
「翔太郎くん? どうしたの?」
「……ほ、本物の忍者みたいなんだけど」
「本物なんだよー!」
『――――戦闘の終了を確認』
抗議の声をあげる雪村。
そこに、見覚えのあるシステムアナウンスが入り込んで来た。
このアナウンスは、もしかして……。
『てきのわざ――――【窮鼠猫嚙み】を覚えました!』
「やっぱり! ルリエッタ、なんか新技を覚えたぞ!」
「おおー! やったな!」
「さっそく内容を確認だ!」
てきのわざ:【窮鼠猫嚙み】
説明:自身のHPが20%以下になると自動的に発動する秘儀
効果:残りHPが少なくなるほど、大きくステータスを上昇させる
「なるほど、これもまた変わったスキルだな」
しかも任意で発動させるタイプのスキルじゃない。
HPが20%以下になった時点で自動的にってことみたいだけど、威力はどんなものなんだろう。
クナイ一発で倒せるネズミがあれだけ強化されたわけだし、期待はできそうだけど。
「よし、無事に素材金属も取り戻したし帰るか」
「おー!」
「うん!」
初クエストも無事達成。
金属塊を回収した俺たちは洞窟を出て、鍛冶屋のところへ戻ることにした。
「……ていうか雪村って、歩くのも静かだよな」
洞窟に侵入した時から感じてたけど、歩き方自体は普通っぽいのに音が鳴ってない。
「忍者には【忍び足】というスキルがあるぞ」
「でも、ステータスを聞いた時はそんなスキル取ってなかったよな?」
そう聞くと、雪村は軽く笑った。
「それはもうスキルとして取らなくても、忍者には当たり前のことだよ」
「…………」
「どうしたの? あ、もしかしてぽむぽむ忍術の凄さに感動しちゃった?」
雪村はうれしそうに顔を寄せてくる。
「……雪村」
「なになに?」
「創作忍法もここまで来るとちょっと引くわ」
「だから創作じゃないんだってばー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます