第7話いつかお前が『使う技』
「お、おいルリエッタ! ユニークスキルだ! ユニークスキルを手に入れたって!」
「おおー! やったな!」
ルリエッタがパチパチと拍手する。
「これって、俺にしか使えない技ってことだよな?」
「もちろんだ!」
……おいおい、すごいことになってきたぞ。
ユニークを冠するものは、そのゲーム内で一人しかたどり着けない特別製。
そんなスキルを、いきなり手に入れちまうなんて……っ。
よし、さっそく内容の確認だ!
【てきのわざ】
そんなにその攻撃が好きかい?
同じ敵のスキルで連続100回リスポーンしたサイコ野郎に与えられる狂気のスキル。
説明文が軽くディスってきてる……。
「なぁルリエッタ、この【てきのわざ】ってどういうものなんだ?」
「ふむ。敵モンスターなどの攻撃を受ける、もしくは目視による確認を行ったうえで戦闘を終えた場合、その攻撃方法を使えるようになるというスキルだな」
「……え、それって結構すごくないか?」
「全ての攻撃が対象とはいかないが、かなり強力なことは間違いないぞ」
「実際に喰らうか目撃したうえで、勝つか逃げ延びるかって形か。死んでリスポーンでは覚えられないんだな」
「そういうことだ。【てきのわざ】は他に使えるプレーヤーがいないから、ある意味全てがユニーク技ということになる。誰にもマネできない翔太郎だけの戦い方ができるようになるぞ」
「オンリーワンってことか。すげえな」
百回死んでみるもんだ……。
「技はどんなのがあるんだ?」
「シャドウフレアや剣閃乱舞なんかがそうだな。どちらも最強格だぞ」
「もう名前からして強そうじゃねえか……」
「ただし」
予想外手の展開にワクワクしていると、ルリエッタがピッと人差し指を立てた。
「ただし、なんだ?」
「――――冒険者にしか使えない」
「……なるほどね」
御覧の通り冒険者は単純に弱い。それも段違いに。
それはこのゲームが、クラスチェンジすることを前提に作られてるからだ。
だから冒険者のままでいるやつなんて、いないわけなんだけど。
「ちょっと待て、見えてきたぞ……」
そのひらめきに、思わず顔がニヤけてしまう。
シャドウフレアや剣閃乱舞は最強格の技。
そして、そんな強力な魔法や剣技を操るのは――――初期クラスにして最弱の冒険者。
これ、大変なことになるぞ……!
見える! 他の誰にも使えない技を駆使して「強すぎる! あの冒険者は何者なんだ!?」と驚愕される未来が!
最弱にして最強を操る冒険者とか、カッコよすぎだろ!
「よーし、決めたぞルリエッタ! 俺は冒険者のまま名をあげてやる!」
「おおー! それはカッコいいな!」
ルリエッタは目を七色に輝かせる。
「……さて。そうなるとさっそくやらなきゃならない事がある」
「今度こそポータルに到達するんだな?」
「いや」
「ちがうのか?」
「ああ」
小首をかしげるルリエッタに、俺は口元をニヤけさせたまま告げる。
「今度はあのカエル野郎が、俺たちのターゲットになる番だ」
◆
「いいかルリエッタ、あのカエル野郎の技をいただくぞ」
「なるほど」
あの強力な【爆破】攻撃を手に入れることができれば、状況が変わるはずだ。
百発喰らった俺は、身をもって知っている。
その威力に間違いはない。
使えるようになれば、レベル上げも資金稼ぎもできるようになる。
ようやく冒険らしい冒険が始められるってわけだ。
「やることはこれまでと変わらない。カエルから逃げ切るだけ。ただ、狙いは『技』を目視してからの逃走だ」
「了解だ」
これまでの戦いで、カエル野郎の攻撃方法と行動パターンは把握済み。
さらに目的がポータルへの到達から逃走になったことで、戦略も変わって来る。
何せ今回は『逃げ切る』ことさえできればいいんだからな。方向はでたらめでもいい。
これなら、やりようはある!
「……行くぞ。さんざん世話になった礼をさせてもらうぜ!」
「おおー!」
拳を突き上げるルリエッタ。
俺たちはその意気込みに背を押されるようにして、真っすぐポータルへ向かう。
するとその途中、予想通り見飽きたローブ姿が見えた。
緊張感が走り出す。それでも俺は足を止めない。
近づいていく距離。
ついにウィザードフロッグが、俺たちに気づいた。
さらにもう一歩ポータル側へと踏み出すと、手にした杖が掲げられる。
「今だっ!!」
飛び込むようにして木の陰へ。
すると次の瞬間、【爆破】で弾け飛んだ土が大きく跳ね上がった。
「翔太郎!」
聞こえてきた声に、俺はとっさに横っ飛ぶ!
するとさっきまでいたところに、粘液がバシャリと落ちて来た。
出やがったな! だが二匹目が出てくる可能性はすでに頭にあった、これも想定の範囲内だ。
「もう目標は確認済みだ! 逃げるぞ!」
「了解っ!」
俺たちは有無を言わさず走り出す。
ポータルに向かわなきゃいけなかった時と違って、逃げるだけなら道も自由でいいからやりやすい!
「来るっ!」
この隙に距離を詰めていた一匹目のウィザードフロッグが、再び杖を掲げる。
「ウオオオオオオオオ――――ッ!!」
再び決死の横っ飛び! 岩の後ろに転がり込む!
砕かれた石片が、盛大に飛び散った。
「さあ、ここからが勝負どころだぞ!」
ルリエッタと共に、俺は盾になる樹木が多い方へと逃げていく。
この際逃げる方向はどっちでもいい。戦闘が終わりさえすれば勝ちなんだ!
木々の間を縫うようにして、森の奥へと猛ダッシュ。
すると狙い通り、三発の【爆破】が木によって阻まれた。
「翔太郎っ!」
「むぐっ」
突然飛び掛かって来たルリエッタが、俺を抱き込み地に転がる。
直後、真後ろにあった樹木が消し飛んだ。
「ナイスだルリエッタ!」
即座に立ち上がって走り出す。
すると目に映ったのは、二匹のウィザードフロッグが同時に杖を掲げる姿だった。
これは……ヤバいぞっ!
「翔太郎、足元に注意だ!」
その声に視線を下げる。
見ればそこは、小さな崖になっていた。
「構うもんか! このまま跳び降りるぞ!」
「了解だー!」
俺たちは加速し、そのまま踏み切っていく!
「「うおおおおおおおお――――っ!」」
二人、宙を舞う。
その直後、二匹のウィザードフロッグが放った【爆破】が背中側で大爆発を巻き越した。
強烈な爆風に背を押される形で落下した俺たちは、着地と同時にゴロゴロと地面を転がって、そのまま仰向けになったところでようやく止まる。
舞い散る火の粉の中、顔を上げて確認。
後続、追撃、共になし。
カエル野郎は……追って来ない。
「やった……やったぞ! 逃げきったぞルリエッタ! てきのわざゲットだ!!」
「やったなー!」
土まみれのまま思わずこぶしを突き上げると、ルリエッタも右左右と交互に拳を突き上げて歓喜する。
確信した。やっぱ【爆破】の威力は申し分ない。
使えるようになれば、間違いなく強力な武器になる。
前には進めず、戻ることもできない。この膠着を打破するきっかけになるんだ!
『――――戦闘の終了を確認』
予想通り、流れ出すアナウンス。
それは新たな世界への、導きのファンファーレ。
「……ずいぶんと長いプロローグになっちまったけど、ようやく、ようやく始まるんだな……」
俺たちの冒険譚が、至高のファンタジーが、今始まるんだ!
『てきのわざ――――【粘液】を覚えました!』
「そっちじゃねえよ!」
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