第6話YOU GET TO SHINING

「よっしゃああああ――!!」


 狼たちの猛攻をかわし、街に全力トライを決めた俺は雄たけびをあげる。

 さすがにモンスターは、街の中まで入って来られない。


「おい、やったぞ!」


 俺は息を整えながら立ち上がる。

 するとそこには、アクロバティックな体勢で倒れ伏すワールドナビゲーションAIの姿が。


「お、おいルリエッタ! 大丈夫か!?」


 慌てて呼びかける。

 ルリエッタは顔だけギギギギと持ち上げると――。


「――アア、ナントカ」

「ロボみたいになってるー!?」


 今時、自動音声ですらしないような棒読みでそう言った。


「なんだなんだ!? 打ち所が悪かったのか!?」

「コレヲ、タノム」


 慌てふためく俺に、動きまでぎこちなくなったルリエッタが手を伸ばしてくる。


「これは……」


 手渡されたのは、赤い色をした太めの……乾電池。


「え、電池で動いてんの?」


 しかもマンガン電池じゃねえか……。

 これって確か、昔のおもちゃとかに使われてたやつだろ?


「と、とにかく交換してみよう」


 ルリエッタが指差しているのは、首の後ろ。

 よく見るとそこに、小さな溝が走っている。

 フタのようになっているパーツを開けて、電池を入れ替えてみる。

 するとルリエッタは、ぴょんと跳び上がる様にして立ち上がった。


「ありがとう翔太郎! 助かったぞ!」


 AIロボが、満面笑顔のルリエッタに戻る。


「なぁルリエッタ、ちょっといいか?」

「なんだい?」


 ちょっとここで、ルリエッタについて確認しておこう。


「ルリエッタは電池で動いてる。そうだな?」

「その通りだ」

「目からビームを撃つと電気が一気になくなる。これもいいな?」

「ふむ」

「電池の残りは?」

「今使っているものが最後だ」

「……マジで?」

「もちろん電池は世界各所で発見できるようになっているぞ。ビームさえ撃たなければ電池切れは早々起こさない省エネ使用だ」


 なぜか得意げに、両手でピースしてみせるルリエッタ。


「電池の回収は急務じゃないと。バズーカは?」

「これも弾が見つかればだな」

「ということは、現状使えるのはロケットパンチだけってことか」


 確認するとルリエッタはまた、得意げな笑みを浮かべる。


「ふふふ」

「なんだよ」

「実はもう一つ、最終奥義を隠し持っている」

「最終奥義? なんだ?」

「――――自爆だ」


 また、二十世紀感強いなぁ……。

 見た目とか雰囲気はものすごく未来感あるのに、それ以外がロボなんだよな。


「威力は申し分ないぞ。リスポーンができないから早々使えないのだが」

「なるほど……ステータスはどうなってんだ?」



【名前】:HMXX-18・ルリエッタ

【クラス】:ワールドナビゲーションAI

 LV:8

 HP:135/135

 MP:36/36


 腕力:7

 耐久:4(+8)

 敏捷:5

 技量:4

 知力:4

 幸運:3


 武器:【バズーカ】

 防具:【近未来な外套】防御8


 スキル:【ロケットパンチ】【ライトアイ】【デストロイビーム】【自爆】



 ステータス振りは割と平均的なんだな。

 レベルもまだ、冒険始めたてって感じだ。


「手の内は分かった。あともう一つ、現状について聞きたいことがある」

「なんだい?」

「チュートリアルにしては敵がめちゃくちゃ強そうだったんだけど」


 そう言うとルリエッタは、「あっ」という顔をした。


「……すまない。どうしてもあの草原から、翔太郎と一緒に冒険を始めたかったんだ……」

「ということは、異例のスタート地点だったんだな?」

「グランドウルフの推奨討伐レベルは、30くらいだ」


 ルリエッタはそう言って「たはは」と申し訳なさそうな笑みを浮かべた。

 要はだいぶレベルが上の敵だったと……よく逃げ切れたなぁ俺。


「いや、実際あの草原にはちょっと感動したからいいよ。ただ問題はここからだ。俺たちは色々すっ飛ばしてここにいる。だから付近の敵は強いし、装備を買おうにも金がない」


 モンスターに勝てないから装備が買えないし、装備が買えないから戦えない。

 そんな厳しい状況だ。


「もしここから始まりの街に戻ろうとしたら、徒歩でどれくらいかかる?」

「そうだな、ここ『モンテール』からだったら七、八日といったところだ」

「そりゃ無理だな。この街で受けられる仕事は?」

「『グリフォン退治』とか『蓮華草の採取』とか……」

「もう名前からして無理そうだ……」


 思った以上に難しい状況だなぁ。

 さて、どうしたものか。


「そうだ、近くに盗賊ギルドがあるぞ」

「……盗賊? 嫌な予感がするんだけど」

「【盗む】を使えば道行く人の――」

「やっぱり! まだファンタジーも始まってないんだ、泥棒になるのは早すぎるって!」


 もちろん金をせびって回るなんてのもなしだ。

 うーん、マジで何かいい手はないか。


「この街から移動するか、まともに戦えるようになる方法……そうだ。ギルドなら近くにポータルがあるんじゃないか? 盗賊ギルドの場所は?」

「徒歩で十五分くらいの森の中だ」

「それだ! そのポータルからもっと敵レベルの低い地域に行けるに違いない!」


 ギルドには、転職のために冒険者なんかも来るだろうからな。

 いいぞ、光明が見えて来た。


「よし、さっそく行こう!」

「おー!」


 俺たちはそのまま街の裏口を出て、木々が茂る森へと入り込んでいく。

 やはり盗賊が集まる場所って事で、街からは少し距離を取っているんだろう。


「翔太郎、モンスターだ」


 ルリエッタの指差す方に視線を向ける。

 そこにいたのは、長いローブをまとった体長一メートルほどのカエルだった。


「戦う必要はない、このまま横を抜けてくぞ!」

「了解だー!」


 二足歩行のカエルを無視して、俺たちは走り続ける。

 この世界では、敵の攻撃をしっかり回避すればダメージは受けない。

 狼たちから逃げ切った俺なら、カエルくらい問題ない。


「よーし行けるぞ! このまま盗賊ギルドまで一直線だ!」


 確信する勝利。

 次の瞬間カエルの掲げた杖が輝いて、俺は盛大に爆発した。


「…………ここは、さっきの街か」


 見ればルリエッタも横にいる。


「あのカエルの攻撃にやられて、リスポーンしたってわけだな」


 復活場所は律儀に、さっき出たばかりの街の裏口だ。


「……だが。始めたばかりでこれと言って失うものがない俺にデスペナルティは関係ない! 行くぞルリエッタ、ポータルにたどり着けるまで繰り返すんだ!」

「おおー!」


 意気込み、俺たちは走り出す。


「うぎゃああああ!」


 もう一回!


「うぎゃああああ!」


 もう一回!


「うぎゃああああ!」


 まだまだ、もう一回ッ!


「うぎゃああああ!」


 そ、それなら今度はやり方を変えて、こっそり木々の陰をすり抜ける戦法でいく!

 俺はルリエッタと共に、足音を殺して森を行く。

 ノドを鳴らすことさえためらわれる、圧倒的な緊張感。

 毎回やられてる地点から少し距離を取って……ゆっくり進んで……やった! 乗り切った!

 やったぞ! 今度は見つからなかった!


「見たか両生類ィィィィ! これが人間様の賢さで――」

「……にっこり」


 木陰から、見慣れたカエルがこんにちは。


「うぎゃああああー!」


 再び爆発した俺は、見慣れた街の裏口に戻って来た。

 こんな状況だってのに、ルリエッタはにっこにこだ。


「楽しそうだなぁ、こんなに死んでるのに」

「もちろんさ! 何せ翔太郎と一緒なんだ、何度やられようが楽しいに決まってる!」

「街で待っててもいいんだぞ? 後で迎えに来るし」


 そう言うとルリエッタは途端にキョトンとした。それから。


「何を言ってるんだ! 翔太郎が100回死ぬならわたしも100回死んで付き合うぞ!」


 鼻息も荒く、そんな宣言をした。


「そもそもこの現状は、わたしがスタート地点にこだわったせいだからな……でも、何より」


 ルリエッタは、真っすぐに俺を見る。


「せっかく一緒に冒険しているんだ。翔太郎と共に逃げ切りたい!」


 目をプリズムの様に輝かせながら、ルリエッタはぐっとこぶしを握ってみせた。


「まったく、お前ってやつは……」


 そんなキラキラした目で見つめてきやがってよ。

 俺は「やれやれ」と、大きく息を吸う。

 そういうことなら仕方ねえ……。


「――――行くぞルリエッタぁぁぁぁ!!」

「おー!」

「かかってこいやー! ウィザードフロッグ!」

「こいやあ!」


 今の俺たちを止められるヤツなんて、どこにも存在しねえ!

 熱く燃え上がる情熱の炎。

 悪ィけどもう、負ける気がしねーぜ!

 俺たちは激しい衝動に駆られるまま、全速力で駆け出して――。


「「うぎゃああああああああ――――!!」」


 二人まとめて消し飛んだ。



   ◆



「「うぎゃああああああああ――――ッ!!」」


 カエルの爆破魔法で、再び街に戻される俺たち。


「……マ、マジで九十九回死んだぞ」


 どうルートを変えようが必ず出てくるんだけど、あのカエル。

 このままじゃ、冗談でもなんでもなく百回死ぬ。

 チラリと隣を見る。

 こんな状況だってのにルリエッタは全然苦にしてない様子だ。それどころか。


「あぁ、たのしいなぁ」


 噛みしめるような笑みを浮かべながら、そうつぶやいた。


「わたしは、この日が来るのをずっと待っていたんだ」


 変わらず、にこにこのルリエッタ。

 ワールドナビゲーションAIって、どういう設定になってるんだろうな。

 背景等は後々見えてきたりするんだろうか。

 ……まあ、それはそれとしてだ。

 ここまで言ってもらっちまったら、俺も後には引けねえ。

 なんとしてもルリエッタと共に、あのカエル野郎を出し抜いてやる!

 正直、こういう『不測の事態』は嫌いじゃない。

 正しいルートじゃ絶対ありえない展開に、ワクワクしてるくらいだ。

 それにカエル野郎の動きや攻撃は、これまでの繰り返しで把握した。

 あとはうまくやれれば……っ!


「……行くぞルリエッタ。これが100回目だ」


 覚悟を決める。


「今度こそ、今度こそ憎きカエル野郎を出し抜いてやる。まだ初日なんだ。リスポーンは二桁で抑えるぞ!」

「おー!」


 意気込んで、ルリエッタと共に走り出す。

 するといつも通り、カエル野郎が俺たちの前に立ちふさがった。

 掲げられる木製の杖。

 こいつの魔法は、この動作の後に一呼吸置いて爆発だ!


「今だッ!!」


 とっさに木の陰に身を隠すと、直後に吹き荒れる爆風。

 回避成功! この隙に乗じて走り出す。

 飛んできたのは粘液。


「それも知ってる! こいつをかわしたところで……来るッ! 二発目だ!」


 俺はルリエッタと共に次の木陰に飛び込む! 回避……成功っ!


「行ける、これは行けるぞ!」


 俺はさらに速度を上げていく。

 放たれる三発目! ……は、俺のわずか後方に着弾。

 追撃は……なし!

 攻撃範囲を抜けたのか!?

 あいつの足なら、もう追いつかれることはない。

 ついに、ついに俺たちはカエル野郎を出し抜くことに成功したんだ!


「やった! やったぞー! しょせんはカエルだなぁぁぁぁ! そのまま冬眠してやがれ、この両生類野郎ォォォォ!!」


 きっちり勝利宣言をかまして、俺は意気揚々と前を向くゥ!


「にっこり」


 木陰から、ひょっこり顔出す新カエル。


「もう一匹いるとかなしだろォォォォ!!」


 巻き起こる爆発。


「ほ、本当に百回死んだああああー!」


 目を開くとそこは、親の顔より見た街の裏口だった。

 まさかの百回リスポーンに、さすがに苦笑いがこぼれる。


「…………ん?」


 するとそんな俺の視界に、予想外のアナウンスが飛び込んで来た。



『――――ユニークスキル【てきのわざ】を取得しました』

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