第4話いざ、チュートリアル戦!

 広がる平原を、あらためて見回してみる。

 目に見える世界は、現実を超えるんじゃないかってくらいの出来栄えだ。

 差し込んで来る光の暖かさや、風が肌にふれていく感じも心地よい。


「……すげえ」


 思わず感動の言葉が出る。


「そうだろう、そうだろう」


 隣りを歩くワールドナビゲーションAIことルリエッタが、うれしそうにうなずく。


「始まるぞ、わたしたちの物語が」

「そういうことならまずは、ステータスでも確認しておくか」


 さっそくウィンドウを開き、並んだ数値に目を向ける。



【名前:翔太郎】

【クラス:冒険者】


 レベル:1

 HP:18/18

 MP:12/12

 SP:0


 腕力:1(+12)

 耐久:1(+3)

 敏捷:1

 技量:1

 知力:1

 幸運:1


 武器:【ショートソード】攻撃12

 防具:【冒険者の服】防御3


 スキル:―


 ……あれ、名前って決めたっけ?

 いつもこれでやってるから、モニターってことで昔付けた名前が登録されてんのかな?

 肝心のステータスは、すごく分かりやすい。

 基本はレベルが上がるごとに『SP』ことステータスポイントが入って、それを割り振ることで強化していく形だったはず。

 装備品はシンプルなシャツにズボンで、冒険者っぽいのは剣と外套くらいか。


「クラスに関しては皆一様に冒険者で始まって、ギルドとかで好きな職についてくんだよな?」

「その通りだ」


 なんでも、中にはギルドなんかを介さないレアなクラスもあるらしい。

 その辺りにも期待だ。


「翔太郎、さっそく来たぞ!」


 ルリエッタが指差した先には、俺たち目掛けて駆けて来る三頭の狼。


「お、いよいよチュートリアル戦闘だな!」


 このゲームにおける戦いの基礎を覚えるのが、この戦闘の目的だ。


「よーし、気合いを入れてって…………なんかあの狼デカくない? トラぐらいあるんだけど」


 ていうか、チュートリアルにしては見た目が獰猛!

 人間で言うとアレな薬をキメて、ナイフを舐めてるヤツぐらい猛り狂ってるぞ。

 こんなのをいきなり三頭も相手にしろってのかよ。怖すぎだろ。


「大丈夫だ。わたしがついている!」


 そう言ってルリエッタが隣に並ぶ。

 そうか、こっちには優秀なサポートAIがいるんだったな。

 緊張しながらも、俺はショートソードを構える。


「よし、支援を頼む!」

「まかせろー! チュートリアル戦の始まりだあ!」


 そう言ってルリエッタは、迫る巨大狼に向けて右手を突き出した。

 さっそく魔法のお披露目か!?


「くらえグランドウルフ! ――――ロケットパーンチ!」

「……はい?」


 ルリエッタの身体から離れた腕が、先頭のウルフの顔面を捉えた。

 倒れ込んだウルフを確認して、ルリエッタはすぐさま二頭目をロックオン。

 まるで神の御前かのように片ヒザを突き、天に左手を掲げ出す。

 こ、これは魔法だな! この体勢は支援魔法に違いない!

 俺はショートソードを構え直す。

 すると次の瞬間ルリエッタの左手に現れたのは……バズーカ。


「ふぁいあ!」


 発射されたロケット弾は、見事狼に直撃。

 二頭目は問答無用で消し飛んだ。

 そしていよいよ三頭目。

 仲間と引き換えに距離を詰めてきた狼は、鋭い牙をのぞかせながら猛然と迫り来る。

 ルリエッタの目が、煌々と輝き出した。

 なびき始める銀の髪、その身体に魔力のような輝きが収束していく。

 ……こ、これはさすがに間違いない。

 今度こそ、今度こそ魔法で俺を助けてくれるんだな!

 先に二頭倒してみせたのは、そのための演出に違いない!

 左手をウルフに向け、カッコイイポーズを取るルリエッタ。

 あらためて俺は、ショートソードを構え直す!

 よし、行くぞ!


「――――デストロイビーム!」


 ライトエフェクトと共に両目から放たれた光線の威力は、すさまじかった。

 巻き起こった爆発に、一瞬で三匹目のウルフが光の粒子に変わり、付近を火の海に変えた。

 圧倒的で、あっという間の勝利。

 得意げに「むふー」と息をついたルリエッタは、くるっと元気よく振り返る。


「どうだい?」

「お前が倒してどうする」


 チュートリアルなのに、モンスターと戦ってないぞ俺。

 しかしルリエッタはピンと来てないのか、ロケットパンチで飛ばした腕をいそいそとくっつけながら「?」と首を傾げた。


「ていうか……ファンタジーでもなかったな」


 絵面は三つとも完全にSFだった。しかも20世紀の、子供向けの。

 剣も魔法も一切出てきてねえ。


「おい、どうした?」


 なぜか急に貧血みたいなフラつき方をし始めたルリエッタが、ヒザを突く。

 そしてそのままぐったりと、頭を地面に預けた。


「ルリエッタ? どうしたんだよ?」

「……電気がなくて、力が出ない」

「どういうことだよ!?」

「うう、さっきのデストロイビームで電気を使い果たしてしまったんだ……」

「えっ、お前電気で動いてんの?」


 額を地面にべったりつけたまま、ルリエッタは動かない。


「ええと、充電はどこですればいいんだ?」

「あ、ああ、それなら――」


 何かを取り出そうと手を動かすルリエッタ。しかし。


「グルルルル……」


 怒気を含んだ唸り声と共に現れたのは、新たな狼たち。

 しかも、今度は五頭だ。


「お、おいルリエッタ、一体こいつらはどうすれば……?」

「…………」


 ぐったり、返事がない。


「……なるほどね。こうなっちまったら、仕方がねえ」


 短く息を吐く。

 ここでようやく俺の出番ってわけだ。

 目前の巨大な狼たちを負けじとにらみ付け、軽く腕を回して準備運動を終える。

 態勢は万全。俺は大きく息を吸うと――。


「逃っげろォォォォー!」


 ルリエッタを小脇に抱えて、一目散に逃走する!

 無残な死を迎えた仲間のことを見てたのか、狼たちは猛烈と吠えたてながら追って来る。

 さっそく先頭の狼が、俺の脚目掛けて噛みつきに来た!


「うおっ!」


 慌ててかわす!

 なるほど、判定はちゃんと口にしかないんだな。

 攻撃自体を避けることができたなら、敏捷性の高い低いに関係なくしっかり回避の判定になるのか。

 ……って、なに冷静に分析してんだ!

 こんなデカいモンスターの一撃、喰らったら即死だぞ!


「うおっ!」


 右から来た狼の牙をスレスレでかわす!


「うおおおおっ!!」


 続く狼の飛び掛かりを、身体をひねってかわす!

 確実な距離まで迫ってきた狼には――。


「すまんルリエッタ!」


 ワールドナビゲーションAIをぶん回して距離を取る!

 そのまま全速力で目指すのは……街だ! あの街に逃げ込むんだ!

 俺はルリエッタを抱えたまま逃げる、逃げる、とにかく逃げる!


「さ、刺さった! 今うすーく牙が尻に刺さったぁぁぁぁ!!」


 でも、いよいよ街は目前だ!


「はい右っ! 次は左ィィィィ!」


 喰いつきに来る狼の牙をかわし、ラストスパート。

 すると先頭を駆る狼が、最後の勝負をしかけに来た。

 猛烈な勢いで加速して、そのまま俺目掛けて跳躍。

 鋭い牙で、喰らい付きに来る――――ッ!!


「うおおおお! 飛び込めええええええええ――――っ!!」


 やって来たばかりの世界を死ぬ気で駆け抜ける俺。

 ルリエッタを抱えたまま、街へ全力トラーイ!!

 背をかすめていく狼の牙。

 まさにギリギリ。俺はどうにかこうにか街へ飛び込むことに成功した。


「い、いくらなんでも、予想外のスタート過ぎるだろ……っ!」

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